第113話 逃げ出した少女

「冗談じゃないわよ、あんな所で言う通りに待ってたら魔王に殺されちゃうわ!」


ユカリは魔王ケイトが他の部屋へ向かった隙に城から逃げ出した。


ユーリカ女王に渡されたドレスでは逃げにくかったので、元々着ていた冒険者装備に着替えて逃げ出していた。


逃げ出す時に着替えようと言う考えに至るのが平和ボケしていると言われても仕方がないが、ユカリは地震から逃げる時も、メイクをしてから逃げようとして手遅れになるタイプであろう。


逃げ出した先で森の中に入って隠れるように移動していたのだが、森の中には街道と違ってモンスターが多く出現する。


その為、逃げる途中のユカリの前にもモンスターは現れた。


「うそ!無理よ、なんで出てくんのよ!どっか行きなさいよ!」


ユカリはモンスターに対してあっちに行けと手を振るが、モンスターがそんな事を理解するはずもなく、オオカミ型のモンスターはグルグルと喉を鳴らしながらユカリに近づいてきた。


「やめなさいよ!私は美味しくなんかないわよ!誰か!だれか助けなさいよ!」


ユカリはアースランドから貰った装備に着替えているので、この辺りにいるモンスターに攻撃されても傷一つ受けないのだが、これまで戦って来なかったユカリは知る由もない。


近づいてきたモンスターがユカリに飛びかかろうとした時、後ろから影が飛び出してきてモンスターを斬り飛ばした。


「おい、嬢ちゃん大丈夫か?」


モンスターを斬り捨てた影は、ユカリに声をかけてきた。


その見た目は冒険者で、年齢は30過ぎのおじさんであった。


「だすがっだ〜!」


ユカリはもう終わりかと思って涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔と声で冒険者に向かって叫んだ。


「おお、大丈夫だ。とりあえず街まで送ってやるからな!」


「ダメ、アングリジアにばもどれないの〜!」


泣きながら叫ぶユカリが訳ありだと察したのか冒険者は頭を掻きながら話し出した。


「大丈夫だ、アンクリシアには行かねえ。俺もあの国はやばいと思って出てきたところだしな、天災が空を飛んだ国にいたらどんな目に合うかわからねえからな。隣国のヤクトリカまでついてくるか?」


ユカリは冒険者の提案に頷いた。


この世界の普通の女性なら疑う所であろうが、ユカリは奇跡的にただの人のいい冒険者に助けられた。


しかし、今までと違ったのはリョウのようにユカリを甘やかしてくれる男性ではなく、世話焼きで、後輩の面倒見がいい冒険者であった。


この先、ユカリが1人でこの世界で生きていけるようになるまで、甘やかさずに世話を焼かれるようになるのであった。


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