第97話 レンヴィルの想い

「レンヴィル、覗きなんて趣味が悪いんじゃない?」


テントに入ってきて、向かいに座ったっきり、ダンマリになっているレンヴィルに、ローザは話しかけた。


「あ、いや、あれは別に覗いてた訳ではなくてだな、ちょっと心配になっただけで……」


「心配って、何を考えてたのよ?」


ローザはレンヴィルの言葉に、呆れたような反応を返した。


ローザとケイトでは年齢差が10ほどあるだろうから、自分がそう言った事に誘われる事はないだろうし、私がケイトを誘うわけもない。


それに、私のコンプレックスの事を知ってるくせに、変に勘ぐっちゃって、と内心モヤモヤとした。


「ち、違うんだ! ちょうどローザを探してた所でケイトと一緒にテントに入っていく所を偶然見てない、それで____」


「いいわよ、誤魔化そうとするほどドツボにハマるんだから。それで、私に何のようなの?」


「ああ、そ、そうだな。えっと、言う、言うぞ」


「なにさ、早く話しなよ」


いつもと違って歯切れの悪いレンヴィルに、ローザは少しイラっとしながら話をせかした。


「ローザ、やっぱり俺と一緒になってくれないか?」


「レンヴィル、それは一度断っただろう。私は、誰とも一緒にならない」


レンヴィルは以前にもローザにプロポーズしたことがある。


その時もこうして断られていた。


理由はローザの血筋だ。


ローザは、獣人の血が混ざった血を、次の世代に繋ぐ気は無かった。


だから、結婚と言う選択肢はない。この世界では、結婚をすれば、子供を授かるのは当然の流れだ。


だから、いくら愛した人物であろうとも、結婚するつもりはない。


もしもそれで相手に他にいい人ができるなら、快く背中を押そうとさえ思っている程だ。


「わかってる。だけどな、ローザが居なくなって、俺は後悔したんだ。本当は居なくなってから後悔しても遅い。帰って来た時の衰弱具合、このまま死んでしまったらと思うと生きた心地がしなかった。お前の気持ちも分かってる。子供が欲しくないのも分かっている。だけど、俺はお前との確かな絆が欲しいんだ。一緒なってくれねえか?」


レンヴィルの気持ちも、ローザは分かった。


あの冷たい牢屋の中で、このまま死ぬんだと思った時、消える意識の中で願ったのはレンヴィルこのひとに会いたいだった。


プロポーズを受けたい。


しかし、一緒になったらレンヴィルにまで差別の目が向いたらと思うと、縦に首を振る事はできない。


「俺は、さっき盗み聞きして良かったと思っている」


「なんだ、藪から棒に」


「俺もローザも、ケイトの家臣になる。アンクリシアと違ってケイトの作る国は獣人差別がないんだ。だから、獣人だどうだなんて気にする必要は無いんだ」


「だけどな……」


「獣人の事を一番差別してるのはローザじゃないのか? 俺は気にしない、アザレアも、ケイトも、ケイトの国も、誰もそんなこと気にしてない。気にしているのはローザだけなんだ。だから、ローザも気にする必要はない。 俺は、ローザだから一緒になりたいんだ、なぁ、結婚しよう!」


レンヴィルの言葉は、ローザに届いた。


確かに、これまで周りで獣人を差別する発言で悩まされた事はない。


一番獣人の血を隠すように言っていたのは、おばあちゃんであった。


父には会った事はないが、母はいつも笑っていて、私を暖かく抱きしめてくれた。


この人と、この人達と一緒なら、自分の考えを変えていけるかもしれない。


「分かった。レンヴィル、よろしくお願いします」


「本当か?」


「嘘でもいいのか?」


「いや、ダメだ!」


そう言って、レンヴィルは勢いよく抱きついて来た。


「おい、私は病み上がりなんだぞ」


「ああ、もう離さないからな」


ローザは話が通じていない事に苦笑いだ。


しばらくして、レンヴィルが落ち着いたので、食事の為にみんなの所へ移動する。


「まあ、いつか、私が自分を認めることができたら、お前の子供を産んでやるよ」


「本当か、本当に本当か?」


「何だよ、聞こえてたのか? まあ、いつかその時が来たらな」


「そうか」


レンヴィルの横顔はニコニコで、先程までの緊張した顔はどこへ行ったのやら。


2人がみんなの所へ辿り着いた時、レンヴィルの大声がテントの外まで聞こえていたようで、みんなに祝福され顔を赤くするのはこのすぐ後の事である。







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