第96話 ローザの不安
ケイト達は、ウィンダムに向けて馬車で向かっていた。
勿論1日で到着する訳ではないので、途中で野宿も必要になってくる。
幸い、馬車は乗用馬車ではなく荷馬車とは言え、貴族用の馬車なので乗り合い馬車よりも振動などは少ないし、食料などもケイトの収納で豊富にある。
環境としては下手な宿屋よりもマシであった。
その為、衰弱していたローザも、温かい環境と栄養のあるご飯でだいぶと回復してきた。
今は、野宿の準備を済ませてリオがアリッサに教えながら料理をしている。
意外にも、アザレアも料理に興味があったらしく、アリッサと一緒に教えてもらっているみたいだ。
その時間、ローザがケイトの所にやって来た。
「ケイト、今時間はいいかい?」
「ああ、大丈夫だ」
ケイトは病み上がりのローザに椅子をすすめた。
「ありがとう」
ローザは椅子に座ってからポツポツと話し始めた。
「ケイトが助けてくれなかったら私はあのまま死んでいた」
「いいさ。ローザ達が勧めてくれなかったら俺はアリッサ達との出会いも無かったんだ。持ちつ持たれつさ」
「ああ……」
ローザの返事の後、沈黙が訪れるが、ケイトはローザが話し出すのを待った。
目が覚めた時にも、同じ様な礼は貰っている。
わざわざ2人で話に来るのだからいい難い何かがあるのだろう。
「あ、あのな、ケイト」
「なんだ?」
気まずそうに、ローザが話しだした。
「ケイト、助けてもらってアレなんだが、私をケイトの配下にするのはやめた方がいいと思う」
「なぜだ?」
ケイトはローザが目覚めてから、アザレアと話した2人を配下に加える話をローザにも話していた。
アザレアは受け入れてアリッサやリオ達と仲良くしているので、ローザも受け入れてくれるのだと思っていた。
「ケイト、見てくれ」
ローザはそう言うと、徐に服をたくしあげた。
「お、おい!」
ケイトは結局まだ童貞であり、こう言ったイベントに慣れていないので、ローザの行動に顔を赤くした。
しかしケイトが期待した様な事は起こらず、たくしあげた服は胸がはだける前の胸の下で止まった。
「これを見れば分かるだろう?私は、配下には向かないよ」
ローザの肋のあたりには、トカゲの様な鱗が存在した。
だが、ただそれだけであり、ケイトは意味がわからずに首を傾げた。
「どういう事だ?」
「どうって、私は獣人の血が混じっているんだぞ?」
アンクリシアには、獣人差別があった。
いや、少なくとも五大大国以外の国では、小さくとも獣人差別が存在する。
その中でもアンクリシアは差別がひどい国であった。
ローザは冒険者をしていたが、アンクリシアから移住した事はない。
依頼で他の国に行こうと、見える部分に鱗が無いのを幸いと、隠してきた事だ。
だから、アンクリシア以外での獣人の扱いを知らなかった。
故に、ローザはアンクリシアの常識で話をしている。
五大大国以外の国で獣人が差別を受けているのは、伝承の魔王がモンスターである為に、獣人は魔王の血が混じった穢れた血だとか、魔王の呪いがかかった穢れた血筋だとかと言うのが通説であった。
勿論、そんな事実はない。
五大大国で差別が無いのは、勇者が興した国である為。
つまり、日本人特有のモフモフや獣人好きが影響しているからである。
勿論、ケイトにも獣人に対しての偏見はない。
それどころか、既に配下に猫獣人のカルがいる。
「関係ないね、俺の配下には既に獣人もいる。下手な人間を配下に加えるくらいなら、獣人だろうと信頼のおけるローザがいい」
ケイトの言葉を聞いて、ローザはキョトンとした顔をした。
「ローザはアンクリシアで俺を助けてくれた。信頼する理由はそれだけで十分だ。 そろそろ服を戻せ、また体調を崩すぞ」
ケイトはそう言って立ち上がると、テントを出ていく為に歩き出した。
「レンヴィル、王の勅命だ。後はお前が説得しろ!」
そう言ってケイトはテントから出ていった。
ケイトの代わりに、レンヴィルが気まずそうに笑いながらテント内に入ってきた。
心配したのか何なのか、聞き耳を立てていたようである。
「あー、俺も座ってもいいか?」
「ああ」
レンヴィルが椅子に座ると、2人は食事の声が掛かるまで話をするのであった。
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