第95話 暗躍の始まり
アンクリシア王国第2王女ユーリカ。
今や貴族達からも穢れた王女として避けられる彼女は、自室でいやらしい笑みを浮かべていた。
「バカなお父様はついに戦争を仕掛けるんですって。しかも、私から全てを奪ったあの異世界人と戦うなんて、まったく、都合がいいわあ」
「全くでございます」
ユーリカの言葉に返事を返したのは、ユーリカ子飼いの貴族の公子であった。
頭が悪く、見てくれもそこまでだが、都合のいいように動いてくれる為、手駒にしている。
「あ、あの異世界人には手を出さない方がいいと思います」
「私もー」
王女の言葉に意を唱えたのはリョウとユカリであった。
この2人は、ユーリカが子飼いの貴族の公子に、使えるコマを冒険者で見つけて来させた2人である。
冒険者ギルドでそこそこな実績があり、金で動く頭の良さそうな冒険者と言う枠で声をかけた冒険者だ。
この町の冒険者では最上位のランクで、他の冒険者と違って貴族の話をちゃんと理解できたと言う貴重な冒険者である。
もう1人は、リョウの女なのだが、雇われる条件として、ユカリを匿う部屋であった為、この部屋で2人とも用心棒として飼っている。
城の者達は、穢れた王女が誰を囲おうが興味がないし、ちょうどいい。
勿論、リョウは寝る時などは王女の部屋と繋がっている使用人室で寝泊まりをしている。
ユカリに関しては、ユーリカはもう一つ都合のいい駒だと思って自室に置いている。
ユカリは、名前だけではなく、容姿もユーリカに似ているのだ。
勿論、目の色や髪の色は全く違うのだが、顔はよく似ている。
もしもの時の影武者にできると思い、手元に置いているのである。
ユカリは自堕落で、部屋からあまり出たがらないのも他の目に触れるリスクが無くて都合がいい。
そんな2人の言葉に、機嫌が良さそうだったユーリカは真顔になって2人に尋ねた。
「お前達、あの者を知っているのか?」
ユーリカの表情のない質問にリョウは冷や汗が背中を流れるのを感じながら頷いた。
「あいつはヤバい。魔王なんだ。俺達では、手も足も出ない……」
「魔王を名乗るとは笑わせてくれるが、そうか、お前達でも敵わぬか。すると、お父様やアグノスは見る目がなかっただけで私は召喚を成功させていたと言う事ではないか?」
リョウの実力は城の騎士と戦わせて知っているが、騎士団長を凌ぐほどだと分かっている。
そのリョウが言うのだから少しは信頼できるだろう。
そうすると、私が今この様な扱いを受けているのは
怒りが沸々と湧いてくるユーリカだが、表には出さずにリョウとユカリに笑顔を作って答えを話した。
「大丈夫、私の復讐はお父様やこの国の貴族を殺してあの国を我が物にする事。あの異世界人もせっかく召喚してやったのだから私の役に立つべきだわ。いくら強かろうと国の軍隊を1人で相手にできないもの。新興の国の戦力なんて知れてるはずよ。異世界人が戦争を終わらせ、お父様の首を取った後、弱っている所をリョウが殺ればいいのよ。戦争で魔力を使い果たしてるでしょうし、簡単よ」
初めのケイトのステータスを知っているユーリカには、今のケイトの強さなど想像できない事で、常識の範囲内で王になる程に強くなろうと、戦争の後の隙をつけば、普通はなんとかできると考えてしまっても仕方のない事であった。
リョウやユカリに関しても、イメージする戦後は疲弊した廃墟で、ユーリカの雰囲気と相まって、騎士団長さえ倒せる今の自分ならなんとかできるのかも、などと納得してしまった。
「そうと決まれば自由になる捨て駒が必要よね。アグノスは私の助言を聞くはずよ、だってあの男は私の今の状況を負い目に感じているもの。それに、ふふふ」
魔導師長のアグノスはユーリカのコマの一つになっていた。
復讐を決めたあの時、皆に穢れたと言われたついでに、アグノスが負い目を感じていた事に付け込んで、責任を押し付けて肉体関係で縛ったのだ。
今回は、私の都合のいい様に動いて死んでいってもらおう。お父様を道連れにして、ね。
ユーリカは、自分の目的の為に暗躍を始めるのであった。
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