第90話 作戦

ケイトの提案にアザレアは首を傾げた。


五大大国と違って他国の情報が入って来づらいこの国は、新しい国ができた事もその国王がケイトだと言う事も知らない情報だったからだ。


それを差し引いても、いきなり「俺の配下になれ」は唐突すぎる物言いでわある。


しかし、ケイト達の立場を説明しやすく切り替わったのは確かである。


ケイトは、今の自分の身分と、なぜこの町に来たのかをざっくりと説明した。


説明した上で、アザレアとローザを自分の配下とすれば、ケイトの身分をもってこの国への捜査がしやすい事も合わせて説明する。


勿論城への影響力もあるだろう。


ただ、まだこの国の王族貴族はケイトに気づいていない。しかし、ケイトが自分達が召喚した人物だと分かればどの様な反応をするかは分からないだろうが。


「わかった。ケイトの配下に私はなる」


話を聞いたアザレアは、二つ返事で答えを返した。


「悩まずに即答なんだな」


「ケイトの配下になればローザを助けられるかもしれないんだろ? だったら私は、ローザを助ける為に悪魔にだって魔王にだって魂を打ってやる!」


アザレアの強い意志に、ケイトが魔王だと説明していないケイト達はドキリとした。


「ケイト、それは俺も配下に入れるのか? 俺だってローザを助けたい気持ちは一緒だ。まだローザには言っていない事が沢山ある」


レンヴィルもケイトの部下になる事の意思表示をするのだが、隣にいたリーアから小言の様に待ったが入った。


「ギルドの長が何を言ってるんですか。そんな人が配下になってもめんどくさいだけでしょう」


「なんだよ、お前はローザを助けなくてもいいってのか?」


リーアの指摘にレンヴィルが難しい顔をした。


「そうは言ってません。ギルドマスターが急に配下になってたら怪しいだけでしょう?」


「うっ」


リーアは考え無しのレンヴィルに溜息を吐いた。


「この事件はケイトさんに任せましょう。私達が出て行って怪しまれては元も子もありません」


リーアの言う通り、相手に怪しまれる行動は避けたい。


レンヴィルはなんとか納得したようで、ケイトは明日の朝イチから城へ訪問する事にした。


アザレアは今すぐに行動を起こしたい様だが、急いては事を仕損じると言う言葉もある。


宿で一泊して疲れを取ってから、城に向かう事に決めた。


ケイト達よりもアザレアに休憩が必要だと思っての事だが、本人は気づかないだろう。


それだけローザの事を考えているのだ。


ケイトにも気持ちは痛いほど分かるが、アザレアはケイトではない。


ステータスでゴリ押しできるほどの体力は無いのだ。


アザレアの事をリオに頼むと、数分でリオは戻って来た。


「相当疲れていたんでしょうね」


リオが無理矢理布団に押し込むとすぐに眠ってしまったそうだ。


その後、ケイト達は、宿屋の食堂で晩御飯を食べてから休もうという事になって、少し遅い時間だが食堂でへと向かう。


「すみません、まだお食事は大丈夫でしょうか?」


アリッサが宿の女将さんに聞くと、女将さんは苦笑いで答えてくれた。


「大丈夫なんだけど今は冒険者達が酒を飲んでてね、最近はまた見回りの騎士の様が減ったせいで私達は絡まれても止める事はできないよ?」


「大丈夫です。その時は自分達でなんとかするので」


アリッサの言葉に仕方なしと言った様子で女将さんはケイト達を席に案内してくれた。


食事を人数分頼み終えたケイト達の所に、女将さんが心配した通りに酔った冒険者が声をかけてきた。


「なんだあ?見ない顔だが綺麗どころが集まってるじゃねえか」


酔った様子の冒険者に、皆が一同にため息を吐いた。


「ああ? どんな男が侍らせてるかと思ったがおまえ、何年か前に俺に一発でのされたガキじゃねえか! は、お前には勿体ねえよ、なあ、お前ら俺達の酒の酌しろよ。そんでその後も満足させてやるぜ、そのガキと違ってガァ」


冒険者がケイトに暴言を吐きながら1番近くにいたリオに手を伸ばした瞬間、ケイトは立ち上がって男の手首を強く握って止めた。


「おい、誰の女に手を出そうとしてるんだ?」


ケイトの口調は静かだが、男の腕が折れている事から怒っている事がわかる。


「俺の事を何言おうが昔の事だと見逃してやるが、俺の女に手出したらただじゃおかねえぞ」


骨を折られて酔いが覚めたのか顔を青くして冒険者は呻き声を上げる。


「五月蝿いよ」


ケイトは殺さない様に手加減をして冒険者を殴り飛ばした。


壁に激突して冒険者は気を失ってしまった。


騒いでいた冒険者の仲間もその様子を見て静かになった。


「ケイト、早く座らないと女将さんが料理を持って困ってるわよ」


「ああ、そうだな」


アリッサのこの場で起こった事など気にしていない様な言葉に、ケイトは相槌を打って席へと戻る。


女将さんが食事を持って来るのと同時に伸びた冒険者を担いで仲間の冒険者達は去って行った。


「あんたら強いんだね、アイツらにはいつも困っていたからせいせいしたよ」


女将さんは食事を出しながらざまあないと言った様子で話をした。


ケイト達は食事を食べ終えた後、迷惑料として多めのチップを渡して部屋へ戻るのだった。



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