第88話 失踪事件

ギルドマスター室へと移動したケイト達を出迎えたのは、ケイトがこの町にいた時と変わらないギルドマスターのレンヴィルであった。


出迎えたといっても、アザレアがズカズカと部屋へ入って行ったので、以前の様な余裕のある風ではなく、ケイトを見て驚いた声をあげたのだが。


一緒にいたリーアも手を口に当てて驚いていた。


やはりあの時のままと言う事はなかった様で、なんとリーアが受付から昇進してギルドマスター付きの秘書になっていた。


その為、ケイトは受付で見知った人物を見つけられなかった訳だ。


とりあえず、ソファに座ってアリッサ達の名前だけの自己紹介を終えると、問題であったローザについての話に移った。


「ケイト、ローザなんだがな、3日前から行方不明なんだよ」


「行方不明ってどう言うこと? クエストロスト?」


アザレアの発言にアリッサが疑問の声をあげた。


クエストロストとは、冒険者がクエストを受けたまま、帰ってこない事を言う。


つまり、クエスト中にモンスター等によって死んでしまった事を言うのだ。


「いや、ローザは私と一緒にしかクエストを受けないから違うと思う」


「それじゃいったい?」


相槌を打つ様な質問に、アザレアはレンヴィルをチラリとみた。


レンヴィルが頷いたのを見て、アザレアは続きを話す。


「この町では数年前から人が消えるんだ」


アザレアの言葉はそれだけでは要領を得ず、ケイト達は首を傾げる結果となった。


「説明を端折りすぎです。私が代わりに説明しますね」


アザレアから説明を引き継いだのはリーアであった。


「他の国を見たケイトさんならお分かりかと思いますが、この国は他の国に比べて治安が悪いです。それを痛感した私達はウィンダムの学園を真似て新人冒険者に教育を施す様になりました。ある程度の新人は立派に育って、今では国使えの騎士になる人が出るまでになったのですが、治安が少しよくなると、ある事に気がついたのです」


リーアの説明によると、治安が良くなるにつれて知り合いが増え、ギルドの教育施設である教習所で新人を以前より管理する事により、町の住民の失踪が起こっている事に気づいたらしい。


その事を騎士になった卒業生にも伝えて、失踪について色々と調べていた。


明らかにクエストロストではなく、治安が悪いからこそ人攫いが行われているのか、それとも他の何かなのか。


失踪した周りの人達に事情を尋ねてみれば、突然の失踪で、騎士や役人に届け出ても取り合ってもらえず、諦めるしかなかったそうだ。


そして、相談していた卒業生の騎士も姿を見せなくなり、今回はローザが失踪したのだそうだ。


この失踪に気づいたのが数年前だと言うだけで、治安が悪すぎて問題が浮き彫りになる以前にどれだけの失踪者が出ていたかは正直分からないそうだ。


「私はどこが怪しいかもう分かっている!ローザが何かされる前に助け出さねえと!」


アザレアはクマができた目を見開いて、怒りを叫んだ。


「落ち着け。お前が1人騒いだ所でどうにもならねえよ」


レンヴィルが落ち着かせるが、アザレアはだいぶ精神が不安定の様だ。


ケイトは、アザレアの様子に既視感を覚えた。


「目星はついてるってのはどう言う事だ?」


ケイトの質問にリーアが答えてくれた。


この国は昔、魔導師の国と言われる程に魔導研究が盛んだった。


魔導師はいつしか研究の為に人を材料にする様になり、それを咎めた王によって魔導師の国は終わり、魔導師が減った国は衰退していった。


と言う御伽噺がある。


実際は今も国王には魔導師が使えているし、治安が悪くなったのも、先代と今代の国王が愚王だからだ。


しかし、アザレアはすがる思いで王族や魔導師を怪しいと睨んでいる。


都合の悪い行動をした騎士が消えたのもそのせいではないかと考えているそうだ。


不確定な話で王族貴族を相手にはできない為、アザレアはローザを助ける為、証拠を探す事に必死になっている。



この話を聞いて、ケイトはある事に思い至った。



『大量のと魔力を消費して』



フェルメロウが言っていた言葉だ。


ケイトは物語から予想して勝手に罪人の命だろうと思っていたが、そうじゃないとしたら。


「召喚魔法……」


「ケイト?」


ケイトの呟きにアリッサが聞き返した。


「アザレア、ローザを助ける為なら俺の話を信じられるか?」


「ローザが助かるなら足でも舐めてやるさ!」


アザレアがケイトを見る目は真剣である。


「それじゃ、アザレアとローザは俺の配下になれ」


突拍子のない言葉に、アザレア、リーア、レンヴィルは驚き、アリッサ達は苦笑いになるのであった。


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