第85話 勧誘1
ガルマンにお茶を出してもらってみんなでテーブルを囲んだ。
「それで、まずは嬢ちゃん達の紹介してくれるか?」
ガルマンがケイトにアリッサとリオの紹介を頼んだのを始まりに、色々と話した。
2人の紹介はもちろん、ツムギがここにいない理由も、少しぼかして2人に話した。
「そう、ツムギは国に帰ったのね」
「ああ。2人の様子を見て、家族を思い出して帰りたくなったんだ。ここから遠くて、またここに来るのは難しい場所なのだけど、帰れる機会はあまり無かったから……」
「残念だなぁ。ツムギにもカールを見てもらいたかったんだが」
「ええ」
少ししんみりした空気が流れたので、話題を変える為に手土産を渡す事にした。
「2人にお土産を持ってきたんだ」
ケイトがそう言ったのに合わせて、アリッサが持っていた袋からお菓子と石鹸を出して机に置いた。
「丁寧にありがと……」
「どうかしたか? メルピ____」
ガルマンがメルピアに質問すると、メルピアは質問し終わる前に目を輝かせてケイト達の方を見た。
「ケイト、これメリークインのパウンドケーキじゃない!」
メリークインとは、この町で有名な高級洋菓子店である。
お金に余裕のある家がご褒美やお祝いの時に買う洋菓子として有名であり、この町の一般庶民には憧れの洋菓子店である。
ケイト達は、石鹸を買った店でおすすめされて買ってきたのだが、そもそも出産のお祝いに石鹸を送るのは貴族の習慣な為、店の人もそれなりの対応をしたのであろう。
「ああ。オススメされてな」
「最っっっ高よ!」
メルピアの圧に押されてケイトは苦笑いだ。
「パウンドケーキか。お茶請けに切ろうか?」
「ええ、お願い!」
メルピアの嬉しそうな声に、ガルマンはケーキを切りにまたキッチンへと向かった。
「後は、石鹸? すごくいい香りね」
石鹸はバラの香りのする石鹸だ。
店の中の石鹸を鑑定で見て、pHが弱酸性の物を選んだので子供に使っても大丈夫だろうと思う。
「貴族では子供が生まれたら石鹸を贈って子供の成長を願うのよ」
アリッサが情報を捕捉した。
「ありがとう。カールも元気に育つわ」
メルピアは嬉しそうに石鹸をまた袋にしまった。
そして、ガルマンがケーキを切り分けて戻ってきた事で、話題はまたケーキに戻り、みんなで食べながら、ケイトはここに来たもう一つの目的である話をする事にした。
「今日はもう一つ、2人に相談があって来たんだ」
「なんだ改まって」
ガルマンはケイトが真剣な雰囲気に、顔は笑顔だが緊張した様子で聞き返した。
ケイトは、新しい国が五大大国の中心に出来て、その国の王が自分になる事、そして、ガルマン達に家臣となって来て欲しい事を話した。
「あの時からただ者じゃないと思っていたが、まさか王様とはな」
ガルマンはスケールの大きい話にビックリした様子だ。
「しかし、俺はもう冒険者も引退してこれからは戦う気は無いんだ。 メルピアとカールの為に早死にしたくないしな。俺はこれから金でも貯めて、将来は好きな料理で店でも出せたらって考えてるんだよ」
ガルマンは申し訳なさそうに頬をかきながらそう話した。
「料理が得意なのか?」
「得意かは分からないがこの通り家事をするのも好きでな」
ケイトの質問にガルマンはエプロンを持ち上げながら笑った。
「そうか」
「それなら、料理番になればいいじゃない。店を出す事が決まってる訳じゃないんでしょ? だったら城の料理番になれば家族は城に住み込みだし、それに、料理が好きならケイトやリオから異世界の料理を習い事もできるわよ?」
「おい、アリッサ!」
ケイトは、秘密を話したアリッサを咎める様に話すが、アリッサはケイトのその態度にフンと鼻息を吐いて反抗した。
「ケイト、今話しただけで2人の人柄は分かるわ。家臣としてきてもらうのも賛成よ。だからこそ、きちんとした身内には隠し事なく話して理解を貰うのも大事だわ」
アリッサの真剣な顔を見て、ケイトもゆっくりと頷いた。
そして、自分達が異世界から来た人間で、ケイト王になる事になった経緯まで全て話した。
ガルマンとメルピアは物語の様な話に驚いていたが、笑わずに最後まで聞いてくれた。
「なるほど、異世界の人間か伝説の勇者様と同じ……」
「ガルマン、いいじゃない。料理番なんて素敵な条件よ。この家も借家だし、何も問題はないわ」
ガルマンよりも、メルピアが乗り気の様だ。
「わたしもメイドとして働くわ! カールの子守をしながらでもできるでしょう?」
「まあ、確かに条件は破格だな。分かった! ケイトの家臣になろうじゃないか。勇者様の時代には、料理が発展したと聞くからな。色々と教えてくれよな」
ガルマンも最終的には乗り気な様で、ケイトの誘いに頷いてくれた。
こうして、クロノソレイユ王国の初代料理長が誕生したのであった。
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