第83話 手土産

ケイト達の乗る馬車は、第一の目的である町にたどり着いた。


「久しぶりに会うのが楽しみなのじゃ!」


馬車を降りてすぐに、ミステルトが大きな声で言った。


初めの頃は、ミステルトの行動に周りの反応を気にして恥ずかしそうにしていたリオも、今となっては慣れたものである。


「ミステルト、早くしないと置いてくわよ」


「あ、リオ待って欲しいのじゃ!」


スタスタと先を歩いていくリオをミステルトが追いかける。


別にリオを追いかけなくてもその後ろをケイトとアリッサが歩いているのだが、旅の中で、姉妹の様に仲良くなった2人は一緒に歩いていく。


その光景を、ケイトとアリッサは微笑ましくみていた。


ケイトと足並みをそろえて行動してもいいのに、これまでの村より少し都会のこの町を早く見てまわりたくてリオの歩くスピードがいつもより早い事に気づいていたからである。


「2人とも、そんなに早く歩くと逸れるわよ?」


アリッサが2人に呼びかけ事で、2人はケイトとアリッサの方を確認して足を止めた。


「主ー、はやくいくのじゃー!」


とてとてと、ミステルトがケイト達の方へ戻って来て急かす様に話す。


リオは、自分の行動がいつもより早かった事に気づいたのか少し恥ずかしそうにその場で待っていた。


「ミステルト、ガルマン達に会いにいく前に手土産を買って行こうな」


「分かったのじゃ。何を買うのじゃ?」


ミステルトの質問にケイトは少し悩んだ後、苦笑いで答えた。


「とりあえず食べ物がいいだろうか? それに出産祝いも買わないといけないから」


ケイトとしても、会社員として菓子折を持っていった記憶しかない。


結婚した学生時代の友達とはとっくに疎遠になっていたし、手土産を持っていった記憶もない。


「あの辺りは私に任せなさい! これでも貴族の生まれなんだからこう言う時にどうすればいいかはちゃんと習ってるわ!」


アリッサが、無い胸を張って得意げに答えた。

貴族は結婚する年齢が若いのもあって、家ではそう言った教育もきちんと受けているのだ。


この世界では出産の時に石鹸を買って渡す事が多いようである。


現代日本と違って、病で命を落とす事が多いこの世界で、清潔にする事で子供がきちんと成長する事を願うと言う意味があるそうだ。


清潔な環境が病を防ぐと分かっていながらも、まだまだ現代日本の様にいかないのがこの世界である。


貴族の間では日本と同じ様に使える石鹸も、庶民となれば毎日使うのは難しいお値段だったりする。


ケイト達は、ちゃんとしたお店で石鹸とお土産のお菓子を買った後、人伝に場所を聞いて、ガルマンとメルピアの家に向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る