第82話 神の祝辞

ケイトは、久しぶりに白い空間にいた。


白い空間と言っても、ダンジョンの最深部ではなく、フェルメロウのいる場所である。


「久しぶりね、泊圭人とまりけいと


「そうですね、フェルメロウ様」


ケイトが声のする方を振り向くと、牡鹿が顔の目の前にあり、驚いて数歩後ろに下がった。


「フェルメロウ……さま?」


ケイトの言葉に牡鹿は首を傾げると動物とは思えないほどハッとした表情をして話し出した。


「ちょっと待ちなさい。前の姿のままだったわ」


牡鹿はそう言ってぐにゃりと曲がると、いつも見る少女の姿へと変わった。


「さっき会ってきた新しい階層の王の姿のままだったわ。ごめんね」


「姿、変えられるんですね」


ケイトの質問にフェルメロウはその可愛らしい顔をニコリと笑顔に変えて返事をする。


「当たり前じゃない。神が人の姿をしているなんてそれこそ人のエゴだわ。私は話す相手の種族の異性に姿を変えるのよ。その方が、話しがしやすいもの」


フェルメロウの言う通りならこの前に会ってきた階層王とは雌鹿の王なのだろう。


「大変だったのよ。泊圭人が全滅させたダンジョンに新しい種族を配置するの」


「それは魔力の為にダンジョンを攻略しろってフェルメロウ様が言ったんでしょう?」


「全滅さえしなければ勝手に増えるのよ、全滅さえしなければ。普通なら全滅はしないのよ?」


フェルメロウのジト目に、ケイトは居心地が悪くなって話題を変える事にした。


「そ、それで、なんの用事で呼び出したんだ?」


あからさまな話題変更に鼻から息を吐いてフェルメロウは答えた。


「大した用事ではないわ。貴方が神になり損ねたのをお祝いしに来たの」


「神になり損ねた?」


「そうよ。貴方の心が壊れて魔王を超えた時、泊圭人は私と同じ神になったでしょうね。ただ、自分の世界も持たず、時を止める事しかできない無能な神。私のお茶友達になるだろうけど、心がないつまらない友達はいらないもの。神になるなら別の方法にして欲しいものだわ」


フェルメロウが頬に手を当てて、子供に教える様に話す姿は、少女の姿をには似合わなかった。


「貴方は見事に世界に繋がりを作って心を繋ぎ止めたわ。おめでとう」


フェルメロウがパチパチと拍手をしながら微笑んだ。


「ありがとうでいいのか?」


「ふふ、そうね。ただ、せっかく女性に囲まれて王になったのだから早く行動に移さないとまた魔力が突然上がってしまうかもよ? この世界にその法則はないけれど」


フェルメロウの言葉の刃はケイトにぶっ刺さった。


3人の妻を迎え、ミステルトと言う美女と添い寝していても、その先に進む勇気はなかった。


「ふふふ、貴方の作る国を楽しみにしているわ」


「ああ、そこまで見てるんだな」


「だって神だもの。他の場所に用事に行ってる以外は今は貴方を見てるのが1番楽しいもの」


フェルメロウは今度はその姿のままに無邪気な笑顔で笑う。


「ただ、気をつけなさいね。私にアピールしてくる鬱陶しい国があるから」


「え?」


ケイトは、急にトーンの下がったフェルメロウの声が聞き取りづらくて聞き返したのだが、毎度のことながら、フェルメロウの用事は終わった様で、白い空間から目覚めていくのであった。

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