間話 帰れなかった少年
「ねー、おーそーいー」
「悪かったよ」
少女の言葉に、少年はぶっきらぼうな態度で返事をした。
少年の名前はリョウ、少女はユカリ。
2人はケイトの暴力に恐怖して逃げ出したアースランドの勇者と言う事になっていた異世界人であった。
逃げ出してから数ヶ月、2人は五大大国より外の辺境の国にまでやって来ていた。
五大大国に居たら、何処かで勇者と言う事がバレてまた魔王討伐に駆り出されるのではないかと言う恐怖からの行動であった。
アースランドの支援に頼れなくなり、持っていた金を早馬の馬車で使った為、宿の部屋は一つに2人で過ごしていた。
ユカリが遅いとリョウに言ったのは、リョウは日中外に出て冒険者として稼いで来ている。
幸い武器防具は良いものを貰っていた為、1人でもなんとか稼げてはいる。
ただ、ユカリの言葉はかいがいしくリョウの帰りを待っていた為に出た言葉ではなく、治安の悪いこの国で、ユカリ1人で歩くのは危険な為、ご飯を食べに行くのもリョウが帰って来てからとなっている為、「遅くない?もうお腹減って我慢の限界なんだけど」が短くなっただけである。
この言葉に、リョウはうんざりしていた。
初めの頃は、偶然にもライバルを出し抜き、思い人と2人になった事で有頂天になっていた。
ユカリも、いつもの様に「頼りにしてるね」「ユカリの事を守ってね」など、リョウの事を頼って持ち上げていた為、リョウはこのまま彼女に!大切にするぞ!などと張り切っていた。
しかし、2人で旅をする中で、今まで仲を取り持ってくれていたサナが居なくなった事で色々と粗が見えてくる。
基本、ユカリは他力本願で何もしない女王様タイプだ。
リョウはリョウで、甘やかされて育った為に頼られたり褒められたりするのは嬉しいのだが、気を使うと言う事をしない。
異世界で、子供だけの旅が成り立っていたのは一人のしっかり者のサナが、2人の我儘を揉めない様に受け持ってくれていたおかげであった。
その為、リョウは今では、ユカリの事を面倒くさい女と思う様になり、何もしないユカリをサナと比べてしまう様になっていた。
それ以前に、ユカリに盲目的に恋心を抱いていたリョウが冷めるきっかけになった事は、2人で一つの部屋を取る様になって、ユカリのスッピンを見たからであった。
いつもスッピンのサナと違って、ユカリはギャルらしく異世界に来ても常にバッチリメイク。
ユカリはメイクを取れば二重は一重になり、うっすらそばかすが見える。
スッピンだけ比べれば、サナの方が整っている。と、リョウは思ってしまった。
それからは、いなくなったサナと比べてばかりであった。
今では、ユカリと居るのは、異世界で孤独になるのを避ける為と言う理由になってしまっている。
その為、2人でいる部屋の雰囲気は悪い。
それを気にしない自己中心的なユカリの行動にもうんざりしているのだが。
リョウとユカリは連れ立って食堂でご飯を食べに行く。
食堂も他の国とは違ってガラの悪そうな冒険者が大勢いる為、2人は端の席で絡まれない様にご飯を食べる。
「しかし、この国も生きにくい国になったもんだぜ!」
「そうなよなあ、ちょっと前までは新人を脅せば生活できてなのによ」
「これも、教習所ができたせいだ!」
近くの席のガラの悪そうな冒険者が愚痴を言ってるのが聞こえてくる。
今よりも治安が悪かったのかと、リョウは驚いた。
「教習所上がりが騎士に拾い上げられたせいでこの辺りまで見回りがくるからな」
「今までは自分の身可愛さに口出ししなかったのにすぐ騎士を呼びやがる!」
リョウは冒険者達の話を聞きながら辺境の味気ないご飯を口に詰める。
隣ではいつもの様に不味いと文句を言いながらもご飯を食べるユカリがいるが、その文句を聞きたくないが為に周りの話に聞き耳を立てる癖がついてしまった。
2人の灰色の異世界生活は、ひっそりと続いていくのであった。
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