第78話 バーベキュー
「いやー、大漁だのう」
組合長が感心する程に釣りチームは大漁であった。
「だけど釣ったのはカルとミリィだけだにゃ」
あの後、ミリィは途切れる事なく魚を釣り続け、カルも何匹か釣り上げた。
しかし、ユイトの竿はうんともすんとも言わずに、最終的には1匹も釣る事はなかった。
「次は、俺が1番でかいのを釣ってやるからな!」
カルにジト目で見られて、ユイトはそう言い返した。
潮干狩りチームも、沢山貝を取った後、今はレティシアが砂抜きをしている。
「海の幸のパーティなのじゃ!」
「こう言うときはね、バーベキューって言うんだよ!」
「バーベキューなのじゃ!」
今日、朝から参加せずに町を走り回っていた元ウィンダムの勇者キイとカリンは、市場である物を仕入れて帰ってきた。
「ジャジャーン!」
そう言って持って帰って来たのはエビとイカであった。
「バーベキューにはこれが必要だよね!」
「だよね!」
前回は海産物を食べずに移動になった為、2人の気合いの入り用は一入である。
「よし、それじゃ、下拵えしようじゃねえか!」
「釣りの分を取り返そうと張り切ってるにゃ」
「うるせえ!にゃん子、下拵えしねえと美味い飯にありつけねえぞ!」
ユイトも久々の海産物にテンションが上がっているだけなのだが、カルには違った様に見えている様だ。隣でミリィも苦笑いである。
その後は、みんなでバーベキューの用意をする。
エビの背腸をとって、串に刺したり、オリーブオイルにニンニクと唐辛子をスキレットに用意して、アヒージョの用意をしたり。
リオとユイトがアヒージョの用意をしているのを、珍しそうに組合長が見ている。
「ほう、天ぷらとはまた違うのか」
前な勇者、五大大国の初代国王達は、ケイト達の時代よりも昔の人物だ。
なので伝わっている食べ物に最近になってはやってきた物は珍しいのであろう。
「ミステルトちゃん、包丁を使うのが下手だねえ」
「む、難しいのじゃ」
武器も使わないミステルトにとって、調理道具の扱いはとても難しい様だ。
しかし、この町の名物だが、家庭料理でしか食べられないメニューとして、異世界組のケイト達がどうしても食べたいと望んだものがあった。
それを作るのは、ミステルトの希望でレティシアに教わりながらミステルト1人に任せている。
隣で貝汁を作りながら、危なっかしい手つきのミステルトを不安そうにレティシアは見守っている。
子供におしえるのとちがって、失敗しても包丁ではミステルトの指が切れないので安心は安心である。
時間が経てば辺りはスパイスの香りが漂い始めた。
この香りを知っている異世界組は、否が応でもお腹がなりだしてしまう。
ミステルトが作っているのはシーフードカレーだ。
そもそもカレーがこの町でしか食べられない家庭料理であり、初代国王達はその為にこの町に通い、この町は発展したのだ。
日が暮れ始めた頃に、全ての準備が完了して、バーベキューが、開始となった。
松明の灯りの元でするバーベキューは、林間学校のようで、とても盛り上がった。
皆のお腹が膨れて来た頃、ケイトはレティシアに声をかけた。
「少し話があるんだが良いだろうか?」
「なんだい、かしこまって」
レティシアはケイトの雰囲気を察してそう言った。
ケイトはこれまでのお礼を伝えると、レティシアは鼻で笑った。
「私は私のやりたい様にしただけさ、礼を言われる事なんかしていない。主ちゃんとミステルトちゃんの行動が導いた結果さ」
そう言ったレティシアの顔は松明の灯りのせいだけではない赤みを帯びていたが、松明のおかげで気づかれなかった。
「それで、これは相談なんだが」
ケイトは五大大国の中心にケイトの領ができる事を説明して、レティシアに来て欲しい事を伝えた。
「こんな婆さんが行っても役に立つかはわからないが、手伝ってやろうかね。ミステルトちゃんは、何をするにもまだまだ危なっかしいし、他の子達もまだまだ子供だ。せっかく孫の手も離れたって言うのに」
レティシアはケイトのお願いに、小言の様に話しながらも、その顔は、とてもいい笑顔であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます