第77話 潮干狩りパート2
「主!見て欲しいのじゃ!おっきい貝なのじゃ!」
「凄いな、ミステルト」
ケイトは、同じくらいの大きさの貝を見つけていたが、さっと隠してミステルトを褒めた。
「まだまだ大きいのを見つけるのじゃ! アリッサはどうなのじゃ?」
「まだまだこれからよ、見てなさい。ね、エルサ」
調子にのったミステルトの自慢に、アリッサは悔しそうにしてエルサに呼びかけた。
「ふっふっふ、甘いですよ、ミステルトさん、どうですか、この大きさは!」
アリッサの呼びかけに、甘いですよとばかりにエルサはミステルトに自分の見つけた1番大きな貝を見せつけた。
「ぬぬ、やるのじゃ、次はもっと大きいのを見つけるのじゃ!」
「私も負けませんからね!」
ミステルトとエルサは競う様にしてまた熊手を使って、しかし貝を割らない様に優しく砂を掘り始めた。
「わ、わたしも負けないんだからね!」
アリッサも悔しそうに今掘っている穴を広げるのであった。
潮干狩りチームが壮絶な戦いを繰り広げている頃、釣りチームはのどかな海を眺めていた。
「にゃー、こんな事で本当に釣れるのかにゃ? お魚は見えてるのにゃ、エルサに槍を借りてきて突いたら早いのにゃ」
「ニャン子、あめぇぜ」
「にゃ?」
「確かに俺達のステータスならそっちの方が釣るより早え。だけどそれじゃロマンがねぇ」
「ロマンにゃ?」
「そうだ、この糸の先の魚にバレない様に、大物を釣り上げる!それに、生きたまま釣った方が美味いと思わねえか?」
「にゃ!新鮮な方が美味しいってキイが言ってたにゃ!」
反応のない糸を眺めながらのユイトとカルの会話をそんなバカなとミリィは呆れ顔で聞いていた。
ミリィが2人に声をかけようと思った時、ミリィの竿に反応があった。
「あ、え、来た?これ、どうしよう!」
慌てるミリィにユイトが声をかける。
「慌てるな、竿で魚を感じるんだ。魚が食らいつくまてゆっくり息を潜め____」
「わかんないよそんなの!」
竿が不意にグイッと引っ張られた事に反応して、ミリィは反射的に竿を引っ張った。
竿はしなり、糸はピンと張り、魚との綱引きが始まる。
「これであってるの?」
「落ち着け、慌てたら負けだ!」
「そうにゃ!大物の予感にゃ!」
明らかにミリィよりもユイトとカルの方が慌てているが、ここにはもうツッコミを入れる者などいないのである。
平和に、それぞれが楽しそうにする光景を、優しい表情でレティシアが見守っている。
ケイトが帰ってきた事で、町が騒ぎになる事はなかった。
いや、快く帰ってきた事を受け入れた様子が、ちょっとしたお祭り騒ぎの様ではあったのだが、誰もがケイトを魔王だと恐怖する事はなかった。
あの日、ケイトが迷惑勇者を送り帰した所を町の人達は目の前で見ている。
なのにケイト達が戻ってきた事を怖がらずに受け入れられたのは、レティシアのおかげであった。
魔王の話を広めたのは商人達で町の人は広めていない。
ミステルトとアリッサ達が出発した後、レティシアは町の人達に問いかけたのだ。
町で過ごしたケイトは魔王の様に怖い人間では無かっただろう、大切な人が殺されかけたら自分達でも殺そうとした相手と戦うだろう。
たった数日でも、ケイトとミステルトは町の人達と絆を紡いでいた。
町の人達はそれに納得して、ケイトが戻ってきた時に快く迎える決意を固めたのである。
「レティシアさん、あんたの言った通りだったなぁ」
レティシアに話しかけてきたのは、漁業組合の会長だった。
彼も、ケイトが戻って来たと聞いて漁を取りやめてここにやって来たのである。
「そうだろ?この光景が戻って来た事が私は嬉しいよ」
レティシアは、顔のシワを更に深めて笑顔を作った。
「ビビってた若い衆も申し訳なかったと言っとったわい。しかし、更に賑やかになったのう」
「賑やかなのはいい事だろう?」
「そうだのう」
組合長も、騒ぐケイト達を見てとびきりの笑顔である。
「レーちゃーん、一緒に潮干狩りするのじゃー!」
「わかったよー!、ふふ、それじゃ、行ってくるかね」
レティシアは、呼ばれて潮干狩りの方へと向かっていく。
「ワシは釣りの方を見てやるかのう」
レティシアを見送った後は、組合長も釣りの応援に向かって言った。
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