第73話 休息

ケイト達がアースランド城に辿り着くと、国王達が会議室を用意して待っていた。


ケイトは、ミステルトと並んで、席に座った。


「ケイト殿、まずは魔王の、いや、この世界の真実を、アリッサ嬢より伺った。私達の行いがあなたを伝承の魔王へ近づけてしまった。申し訳ない」


アクアリア王の謝罪と共に五大大国の国王全員が頭を下げた。


なぜ1番初めにアクアリアに訪れた時に真実を言わなかったのかなど無粋な事は言わない。


あの時、魔王ケイトは勇者召喚の中止を提案したが、ケミルトはそれを拒否して保身の為に勇者召喚を決めたのだ。


あの時、ケイトが真実を話していても、信じた課題かは分からない。


今この状況だからこそ信じることができた。


先に手を出したのが勇者で、それまで不遇に扱われても受け流して来たケイトだからこそ、国王達は世界の真実を信じる気になれた。


「主は今、疲れておるのじゃ。今日は休息をして、話し合いは明日にするのじゃ!」


ミステルトは謝罪を受け取る為だけにこの場に訪れたとばかりに、話を打ち切った。


国王達はそれに納得して、アースランド王はケイトに部屋を用意して、会議は明日に持ち越される事となった。



ケイトの為に用意された部屋に移動をしたケイトとミステルト、それにアリッサ達やリオまでついて来た。


ケイトが椅子に座ると、先ほどまでのしっかりした雰囲気から、いつもの気の抜けた雰囲気に戻ったミステルトがずいっと頭をケイトに見せた。


ケイトは、頭を撫でて欲しいのか。と思ったが、それは違ったようだ。


「主、これは我へのプレゼントで良かったのじゃ?」


ミステルトの髪に留められた髪飾りは、ケイトがミステルトに渡そうとしていた物であった。


「ああ」


「やっぱりそうだったのじゃ!どうなのじゃ?似合うのじや?」


「ああ、似合ってるよ」


ミステルトは嬉しそうにくるくると回る。

回ってしまっては髪飾りがちゃんと見れないが、嬉しそうなのでいいとしよう。


ケイトは、ゆっくりと、見渡すと、他にも自分の為に集まってくれた人達がいる。


「みんなも、立ってないで座ったらどうだ?」


ケイトは、アースランドまでの道のりで、自分の記憶を掘り返していた。


忘れていた様な記憶も、本人を前にすれば思い出してくるものもある。


記憶の時差はあれど、自分を慕って集まってくれたのだと思うと、ケイトの荒んだ心が温かくなるのを感じた。



「主、言った通りなのじゃ! 主を慕ってこれだけの人が集まってくれるのじゃ、主は誰よりも強く、これからも慕われて集まってくる者は増えてくるのじゃ。そうなれば、主は真の意味で魔王になるべきなのじゃ!」


真の意味での魔王。


それは、一階層、つまり地上の生き物全ての王だ。


「ケイト、私は決めたわ。私の夢はお母様と同じ七風花だったけど、私はあなたの為の七風花になるわ」


アリッサの宣言だった。


七風花はウィンダムを支える騎士の名称だ。


アリッサはウィンダムを離れてケイトと共に生きると宣言した。


「私もあなたの騎士に」


控えめだが、エルサも同じ様に宣言する。


続いてカルや、ミリィもその宣言に続く。


「いい仲間じゃない。でも、私の目的が無くなりそうなのはどうしてくれるのかしら? 貴方が倒しに来いって言ったのだけど?」


リオの目標になる為にケイトは魔王として倒しに来いと言った過去がある。


魔王が勇者の倒す目的では無くなる今、その目標は無くなってしまう。


「なら、お主も主の元に来ればいいのじゃ!ここにいる皆んな、主のことが大好きなのじゃ、なら、主が面倒を見るしかないのじゃ!」


ミステルトの言葉に、リオは毒気を抜かれた様にクスリと笑った。


「それもいいわね、私は帰る気がないから最後まで面倒見てもらおうかしら。でも、アスカの事は帰してあげてね?」


リアの横で縮こまっていたアスカがビクリと震えた。


リオに話を聞いて、知らなかったとはいえ、過去の事を思えばケイトを追放した事はとてもひどい事だと理解した。


ゲームでは無いのに知識が豊富で頼りがいのあるトモヤの言う事だから正しいと思っていたが、今思い返せばおかしいところがたくさんある事に気づける。


とても失礼な事をしたと、感じていた為、話すのが怖くなっていた。


「大丈夫だ、ちゃんと返してやる。なんなら今でも……」


「それは明日にした方がいいわ。国王達の前で返してあげる事で、フレミュリアの迷惑勇者もこうやって帰してあげたのだと印象づけた方がいい」


「そうね。アスカ、私は向こうに帰らないから、最後に友達としてパジャマパーティーでもしましょう」


アリッサの言葉に、リオは同意してアスカに最後の夜を過ごす事を提案した。


「うん。ありがとう、ケイト……」


その後も、ケイトの心を癒す為に、思い出話をしながら夜は更けていくのだった。

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