第70話 集まる勇者達
トモヤが消えたのを見て、勇者達は混乱した。
アースランドの勇者は2人逃げ出してしまい、1人は呆然と立ち尽くし、尻餅をついていた男はズボンを濡らしてしまった。
ケイトが日本に送り返す事が出来ると知らなければ、トモヤを殺した様にも見えるだろう。
ケイトは、1番近くに居たアスカを睨んだ。
「トモヤ君を、殺したんですか!」
アスカは、一緒に旅をした時と雰囲気の変わってしまったケイトに、恐怖を感じながらも、目の前で起こった事実に怒りのまま叫んだ。
「なあ、お前も日本に帰ってくれよ?」
ケイトは、本人の意思確認もなく、恐怖を与え、この世界に居たくないと思わせる為にアスカにも手を伸ばした。
しかし、アスカに手が届く前に横から小さな体が割って入ってきた。
立ち尽くしていたはずのアースランドの勇者。
小柄な少女のサナであった。
ケイトに向かって武器を構え、刃を震わせながらもキッと睨んだ。
「これ以上、殺させません」
サナの震える声がケイトを威嚇する。
その様子を、ケイトは鼻で笑った。
「別に、トモヤは死んじゃいないさ。この世界に、死体としても残ってほしくないからな。日本に帰ってもらったんだ」
「日本には、帰れないと聞きましたけど?」
「帰りたいか?」
ケイトが無理に聞き出すのではなく、質問したのは気まぐれだった。
トモヤを送還して、少し気が晴れていたのかもしれない。
「帰れるのなら……」
サナの言葉を聞いたケイトは、満足気に口を三日月型に割いた。
手をかざして、強奪を使用する。
サナは光に包まれ、魔法陣の中に吸い込まれる様にして向こうへ帰っていった。
トモヤの様に、痛めつけられた訳ではないので、近くで見ていた者にはケイトとサナの会話の意味が理解できた。
「お、俺も返してくれ!」
そう声を上げたのは、腰を抜かして股の辺りを濡らした少年タカヒロであった。
そして、同じ様にアスカも声を上げた。
アスカも、帰れるのなら帰りたいと思っていた。
冒険の始まり、ケイトから戦闘を教えてもらっていた時に、聞かれればその時でもすぐに帰りたいと言っていただろう。
あいにく、あの時はケイトの魔力が足りなかったし、ケイトの怒りによって強奪が進化していなければ、帰ることはできなかったであろう。
ケイトは、2人の願いを叶え日本に返す為に強奪を使用した。
まずはタカヒロが帰り、次はアスカの番。
ケイトが手をかざした時、ケイトの指輪の交換が発動してオートで防御した。
普通の人間の腕なら簡単に落とせる様な一撃は、ケイトのアダマンタイトの骨にすら届かず、皮膚に遮られた。
「チッ」
舌打ちをしたのは、この場には居なかった人物である。
雷の勇者、ユイト。
離れた場所から雷魔法を使った攻撃で、雷鳴の速さで距離を詰めたのだが、相手が悪かった。
距離を取ろうとするが、ケイトが殴る方が早かった。
ユイトは防御しようとするが、銅の剣はユイトの魔法に耐えきれず蒸発してしまった。
そのまま殴り飛ばされ、ユイトは地面を転がった。
「大丈夫、ユイト!」
後から追いかけて来てユイトの無事を確かめたのはリオだった。
「ああ、大丈夫だよ」
ユイトはすぐに立ち上がって、地面に血の混ざった唾を吐いた。
その様子を見て、リオはアスカを庇う様にしてアスカの前に立った。
「魔王、ケイト」
ケイトは飛んで火に入る夏の虫に嬉しそうに口を歪めた。
なぜリオとユイトがここに現れたのかと言えば、晴天の空からこの森に雷が落ちたのを見て、不吉を感じたからだった。
当たらずとも遠からずだった訳だが、ケイトにとっては、嬉しい誤算である。
鞄から剣を取り出して、まだ戦う意思のあるユイトを見て、ケイトはまずエボルティアの勇者の心を折り、先に日本に返すことを決めた。
ケイトは瞬く間にユイトに近づき、ユイトの剣を握る腕を掴むと力を込めた。
ボキッと嫌な音がして、ユイトは剣を地面に落とした。
しかし、モトキと違ってユイトは、玉の汗を額に浮かべながらも、叫ぶ事はしなかった。
「クソが!」
ユイトは折れた腕と反対の手でケイトを殴ろうとするが、剣さえも効かなかったケイトに利き手ではないパンチなど勿論聞くわけもない。
殴る腕をケイトに掴まれて、ゆっくりと力を加えられる。
骨が悲鳴を上げる中、ケイトはユイトに問いかける。
「なあ、お前も日本に帰ってくれよ?」
「嫌だね、俺はこの世界を気に入ってるんだ」
骨が軋み、反対の腕は骨折して痛いであろうにユイトはそう言って、不敵に笑うとケイトに向かって唾を吐いた。
勿論、そんな物がケイトに当たる訳が無いのだが。
ケイトは、ユイトの心を完璧に折って、帰りたいと願うまで痛めつける為、行動に移そうともう片方の腕も折る為に力を入れようとした。
その時、森の中に大声が響き渡った。
「主〜!止めるのじゃ〜!」
ケイトに向かって、突然現れたミステルトがタックルする様に突っ込んできた。
カウンターで、動きそうになった体を、ケイトは自分の意思で無理矢理に止めた。
ユイトから手を離し、抱きつく様にタックルして来たミステルトを、ケイトは優しく受け止めた。
「……ミステルト?」
「主、置いて行っては嫌なのじゃ!」
身長差的に、膝立ちでケイトの腰に抱きついたミステルトが、ケイトの顔を見上げながら戸惑うケイトに話しかける。
「主、我は生きてるのじゃ!それに、我が死んでたとしても、勇者を殺しても意味がない事なのじゃ!」
ミステルトは、鼻息を荒くしながら、ケイトにそう言い切った。
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