第69話 進化

ケイトは、勇者達が集まると言う噂を聞きつけて、アースランドの首都に向かっていた。


アースランドの城が見え始めた頃、ケイトの索敵スキルが見知った反応を発見した。


感覚で誰だかわかるのは、ステータスを覗いた事があるからなのか、これまで索敵のスキルは使ったことが無かったので勝手に反応した事は不思議な感覚であるが、目的のグループであった為、ケイトは馬車から降りて反応があった方へ移動するのだった。


___________________________________________


アースランドの勇者とトモヤ、アスカ、レミントの3人はアースランドに向かって森の中を移動していた。


アースランドの勇者達の元に、魔王に関しての緊急の招集がかかった為に、アースランド城へ向かっている最中なのだが、何故森を移動しているかと言うと、理由があった。


レミントは、この招集でリオではなく、自分達がアクアリアの勇者だと認めさせようとしているのだ。


この招集では、各国の国王が集まると書かれていた。


アクアリアに戻れば、国王である父に何を言われるか分かったものでは無いが、他の王に勇者、いや、勇者より優れていると認めさせてしまえばそれでいい。


勇者である事を放り出してどこかへ行ったリオよりも、アースランドの勇者達と合流してレベルを上げ、実績を作ってきた自分達の方が勇者に相応しいと納得させる気でいるのだ。


しかし、街道を進めば、アースランドに移動してくる父に見つかって計画がおじゃんどころか強制送還なんて事になっては困る。


なので、人目を避けた森を移動しているのだ。


アースランドの勇者達は、街道を馬車で向かおうと言っていたが、これから魔王討伐の為に勇者が集まる。だから少しでもレベルを上げて向かった方が有利になる。とトモヤが説得していた。


向こうの世界のゲームでは途中でレベルを上げながら移動するのが当たり前なのだそうだ。



もうすぐアースランド城が見えてくるだろうという所で、前方に、人が立っているのが見えた為に停止の合図を出した。


アースランドの勇者やレミントのパーティがその合図で停止する。


こんな森の中に人が立っているのは怪しい。


自分達の事を棚に上げるなと言われそうだが、盗賊かなんかだと予測できる。


なので、招集の前の実績作りにはピッタリな相手であった。


「やっと見つけた。それに…後ろに居るのも日本人か?」


ローブを纏った盗賊がそんな言葉を口にした。


日本人。その言葉にトモヤやアスカ、アースランドの勇者達が反応した。


「なぜ日本人を知っている、誰だ?」


トモヤの言葉に、盗賊はローブのフードをハラリと後ろに脱いだ。


「お前は……」


「ケイトさん」


フードを取った盗賊は元パーティメンバーでお邪魔虫のクロノグラフ卿であった。


「クロノグラフ卿、なんの用だ!」


レミントは強気に話しかけるが、クロノグラフ卿はレミントの言葉を無視する様に話し始めた。


「やっと見つけた。お前らさ、もう向こうに帰ってくれよ」


クロノグラフ卿がそう言葉を発した後、クロノグラフ卿の姿は蜃気楼の様に歪んで消えた。



___________________________________________



ケイトが蜃気楼のスキルを使って現れた先は、いちばん手前にいたトモヤの目の前だった。


ケイトが急に現れた事に、トモヤもレミントも、ここに居る全員が驚いていた。


ケイトはトモヤの腹を適当に蹴り飛ばす。それだけでトモヤは吹き飛び、木を何本かへし折った。


アクアリアの宝物庫から貰った一級品の防具はただの一撃で砕け散ってしまった。


トモヤがうめき声をあげる側に、ケイトが近寄ると、うつ伏せで顔だけ上げた状態のトモヤの手の甲を踏み潰した。


地面が土なので砕くまではいかず、折れただけなのだが、今まで防具に頼りっきりで怪我らしい怪我をした事がないトモヤの絶叫が森にこだました。


「なあ、お前、向こうに帰れよ?」


ケイトの言葉にトモヤは痛みで返事を返せない。


「ケイト、やめて___」


アスカが為に入ろうと声を上げるが、ケイトは、聞く耳を持たないとばかりにアスカの目の前に雷を落とした。


アースランドの勇者の1人、タカヒロは腰を抜かしてへたり込んだ。


雷を当てなかったのは気絶でもすれば意思確認ができなくなるからだ。


ケイトは、静かになった外野を見て、またトモヤに話しかける。


「なあ、帰りたくなったか?」


ケイトの言葉に、ドーパミンが出たのか手の痛さが麻痺したトモヤは震える声でうわ言をかえす。


「なんだよこれ、俺は巻き込まれて、俺が主人公のはずで、アスカさんを手に____ぐぇ」


ケイトはトモヤの首を持って持ち上げた。


「うるせえよ、お前が主人公な訳ないだろ?早く帰れよ、なあ?手だけじゃまだ足りないか?」


ケイトは首を掴んでいる方と逆の手で火魔法を纏い、ゆっくりとトモヤに近づけ始めた。


その手がトモヤに触れればどうなるかは分かり切っている。


恐怖に負けたトモヤは閉められた首を通る空気を目一杯使って「帰りたい、もうこんなのは嫌だ」と叫んだ。


それを聞いたケイトは満足した様に手の火を消すと、強奪のスキルを使った。



使おうとしたのに、強奪のスキルは発動しなかった。


この強奪のスキルは勇者にしか使うことはできない。


帰らないトモヤに、ケイトは苛立って叫んだ。


「なあ、とっとと帰れよ、なあ、お前ら、邪魔なんだよ、俺の世界を壊すなよ!」


ケイトは何回も強奪を使うが、トモヤが送還される気配はない。


その時、何も無い空間から、白と黒の光が漏れ出した。


ケイトは、その光を不思議に思い、その空間に手を


その光が漏れた場所は、ケイトの収納の空間の裂け目であった。


ケイトが取り出したのは、何に使うか分からなかったダンジョン最深部で手に入れた王冠だった。


『契約者の欲望を確認。スキルを進化させます』


ケイトの脳内に響いた音声と共に、《強奪・勇者》のスキルは《強奪・異世界人》へと書き変わった。


その瞬間、トモヤは光の魔法陣に包まれて、この世界から消えていったのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る