第68話 馬車での移動
アリッサ達は、アースランドへ向かって馬車で移動をしていた。
「こっちなのじゃ!主がこっちにいるのじゃ!」
馬車ではミステルトが馬車の進行方向を指差していた。
港町を旅立ってしばらくすると、アリッサ達が予想していたことは違い、ミステルトはケイトの場所がわかる様で、ミステルトの指示通りに馬車での移動をしていた。
しかし、この移動方には欠点があり、ミステルトはケイトの場所を直線距離でしか把握できない事であった。
移動しては山にぶつかり馬車のでは移動できずに回り道、移動しては川にぶつかり橋を探すなど、無駄な移動が多い。
それを、何故アースランドに目的地を決めたかと言うと、勇者にアースランドへ招集の連絡が来た為である。
もしも、ケイトの目的地がアースランドならば、ケイトより先に辿り着いて王達に事情を説明して対策を取らなければ、ケイトは魔王として引き返せなくなるかもしれない。
もしも、途中でケイトにすれ違ったならば、二手に分かれての行動も視野に入れていた。
当初は、ミステルトがドラゴンの姿に戻り、ケイトを追いかけると言っていたのだが、ミステルトは外傷こそ治っているものの、背中、肩甲骨辺りに攻撃を受けた影響で、うまく飛べなくなっていた。
それに、魔王の噂でどこに行ってもピリピリしている中、ドラゴンの目撃情報まで出れば、各国の兵士達に狙われる可能性が高い。
ケイトの配下が各国の兵士達と戦ったなど、これから不利な証言にしかならないので、馬車での移動を余儀なくされているのだ。
「ミステルトさん、あんまり騒ぐと落ちるわよ」
「ぬ、それは困るのじゃ」
エルサの言葉に、ミステルトは大人しく馬車の中に頭を引っ込めた。
御者も、隣で騒ぐ人が居なくなって落ち着いて馬を操る事ができるだろう。
勿論『落ちる』とは、ミステルトが馬車から落ちると言った話ではない。
ミステルトの髪に付けられた髪留めが落ちてしまうと言う事だ。
この髪留めは、多分、ケイトがミステルトの為に手に入れた物だ。
砂浜でケイトが何かを落としたのを見たカルが、拾っていた物である。
ミステルトのネックレスとセットで付けると相性がいいから、そうなのだと予想できる。
だから、ミステルトにとってとても大切な物で、無くすわけには行かない物なのである。
「しかし、以前は徒歩よりも速くて便利だと思ったのじゃが、主が居ないと回り道がとてもまどろっこしいのじゃ!」
「落ち着いてください、ケイトの方へ向かっているのは確かなのでしょう?」
「そうじゃが……」
「あなたが無茶をして追いかけても、ケイトがみんなの敵になってしまいます。レティシアさんと約束したでしょう? 2人でまた戻って貝を食べるって」
「ぬ、ぬぅ」
エルサの説得で、ミステルトは大人しく馬車の中から行く先を見ている。
正座のような座り方で、じっと見ているのだが、足の動きで体が上下しているのを見ると、ソワソワするのを必死に我慢しているのが分かる。
焦るミステルトに、1番気を使って居るのはエルサであった。
急いては事を仕損じる。急がば回れ。
速く強くなりたいと思っていた頃に、違う武器の練習を進めてくれたケイトからの言葉だ。
エルサは、そっと自分の武器であるハルバートを撫でた。
間に合ってくれ。
その願いと共に、馬車はアースランドへの道を駆けて行くのだった。
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