第66話 追いかける

「ねえ、ケイトが魔王って事をあなたは知っていたの?」


アリッサが唐突にミステルトに質問をした。


アリッサと話していたミステルトはアリッサの方を向くと、首を傾げた。


「お主は誰なのじゃ?」


まだ自己紹介すらしていなかったアリッサは、はやる気持ちに色々と順番を飛ばしてしまった自分の行動に顔を赤くした。


「ミステルトちゃん、この人達はミステルトちゃんをここまで運んでくれたんだよ」


「そうなのだったのじゃ?ありがとうなのじゃ」


レティシアの紹介を聞いて、ミステルトはアリッサ達に礼を言った。


「いえ。あの、私達はケイトの元同級生なんだけど、ケイトが魔王ってどう言う事なの?」


教科書で習った魔王とは人間を滅ぼす世界の破壊者だ。


キイとカリンが召喚されている事から魔王が現れた事実は受け入れているが、ケイトと魔王はどう考えても結びつかない存在であった。


いや、あの迷惑勇者を消した姿を除けばと言う話であるが。


「一階層の住人は王の存在を把握してないのじゃ?」


この世界は大きな箱庭ダンジョンと言う認識であり、地上が一階層である。


一階層以外の階層には壁で仕切られており、種族が混ざり合う事はない。


壁で仕切られているという事が地上一階層の人間にダンジョンと言う認識を持たれてる由縁なのだが、ミステルトはそんな事は知らない。


地上以外の階層には一種族しかいない為、種族の王が分かりやすい。


その為、ミステルトにとって、階層の王を住人が把握していないのは不思議に思えた。


「その、一階層ってなに?王ってなんなの?」


ミステルトは、世界のシステムについて説明した。


石板に刻まれる王の名前の本当の意味を、アリッサ達に伝えた。


石板については一階層だけ神が手を抜いたせいで名前の表示がない中途半端な物なのだが、それは置いておこう。


ミステルトの話に「なるほど」と、エルサが頷いた。


他のメンバーは話は分かるが理解はできていないと言った様に難しい顔をしている。


「エルサ、私たちにも分かる様に説明できる?」


アリッサはエルサに頼る事にした。


このチームは成績上位者の為、大体の把握はできるのだが、応用する力はエルサが1番優れている。


「分かりました、今の話を聞いて、推測してみたのですが聞いてください」


エルサは自分の推測と言う前提で考察を話した。


その内容は異端と呼ばれそうではあるが、事実にとても近い話であった。


前回の魔王は人の敵であっただけで他の種族の王であった。


他の種の王であったからこそ一階層の覇権を握っている人種を滅ぼして自分の種族で覇権を握ろうとしたのだ。


言わば種族同士の戦争だった訳だが、自分達が世界の中心と考えていた人種は魔王を悪として勇者を召喚し、勇者が魔王を倒した事で人種の覇権の世が続いている。


と言った話だ。


そして、前回の事で魔王に悪のイメージがついてしまった為に、今回の魔王が人種にも関わらず、勇者召喚を行い、敵意の無い魔王に刃を向けた。


そして、魔王であるケイトの配下であるミステルトに手を出した事で、ケイトの逆鱗に触れたのだ。


「多分ですが、ミステルトさんをケイトが置いて行ったのは、あの状況でミステルトさんが死んだと思ったのか、それとも自分と居ると危ないと思ったのか」


エルサの考察に、部屋はしんとなった。自分達がどうしたらいいか分からなかったからだ。


ミステルトは、アリッサ達と違って首を傾げているだけであるが。


「ミステルトちゃん、主ちゃんを呼び戻せるのはあんたしかいないって事だよ!」


場の空気を破って話し出したのは、先ほどの話を横で聞いていたレティシアであった。


「私もおじいさんに先立たれた時はこの世の全てが真っ暗に見えたさ、おじいさんのいない世界なんて要らないと思った事もあったよ。でもね、私をそんなどん底から救ってくれたのは娘や孫、それに町のみんなだったよ。 だから、ミステルトちゃんと過ごす時間を無駄にしてる主ちゃんに、もっと大事な物があるって教えてやるんだよ。 それに、ミステルトちゃんだけじゃない、この子達も主ちゃんの事を考えてる、自分は1人じゃないって教えてあげるんだよ」


「当たり前なのじゃ!主を追いかけるのじゃ!」


レティシアの言葉に、置いて行かれた事実よりもこれから追いかける事に意欲満々なミステルトを見て、アリッサ達も、過去を見るのではなく、ケイトが魔王として敵対するのではなく、和平の道を目指す事を決めた。


「ミステルトちゃん、主ちゃんを連れてまた戻っておいでね、美味しい貝料理を食べさせる約束をしたまんまだからね」


「レーちゃん、任せるのじゃ!この前の貝よりもおっきいのをご馳走様するのじゃ!」


そうして、ミステルトとアリッサ達はケイトを追って旅に出る


途中で、勇者達に向けての緊急連絡を受け取り、ケイトを探す目的のない旅をするよりは、各国の王に魔王の真実を理解してもらおうと、会議の場所に向けて馬車で移動するのであった。






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