第57話 謝罪

夜も更けて月も天辺を通り過ぎた頃、ケイトは自分の膝枕で寝てしまったミステルトを起こさない様に、自分のステータスの確認をしていた。


強奪のスキルを使った効果で、自分のステータスに、ツムギのスキルが追加されている。


《武術》《索敵》《察知》《下級土魔法》《下級風魔法》《下級雷魔法》《大地精霊の加護》《風精霊の加護》《雷精霊の加護》《アダマンタイト骨格》《勇者成長率》


変化があったのはスキルのみで、ステータスランクに変化はなく、また、勇者の称号も追加されていなかった。


しかし、加護を与えてくれる精霊に無理だと言われた加護を手に入れる事ができた。


しかし、この加護と魔法が手に入ってしまった事にやるせなさを感じている。


こんな形で得たくはなかった。


時間で言えば、アリッサ達やリオ達の方が長い時間を過ごしたはずである。にも関わらず、今回の様に別れの時に何の感情も浮かばなかった事を不思議に思う。


ツムギと違ってこの世界にいればまた会う事もあると言う考えがそうさせるのかもしれない。


ツムギにはもう会う事は叶わないのだから。


ケイトはツムギと、アリッサ達やリオ達との違いに気づく事はなかった。


時を止めて、数年経って気持ちが薄まってしまっている事実に至らなかった。


ツムギが怖がっていた、家族の顔を薄れていく恐怖。それが、高校からの友人であればほぼ忘れていたかもしれない。


ケイト自身にも同じ事が起きている事は、考えもしていなかった。



色々と考えていると、ミステルトが身じろいで目を覚ました様だ。


「ん……」


寝起きの顔で、ぼうっとケイトの顔を眺めながら、ミステルトはポツポツと話しだした。


「ツムギは、無事に帰れたじゃろうか?」


「ああ、大丈夫さ」


ケイトは優しい笑顔で返事をしながら、ミステルトにわかる様に自分の口元を指差した。


それを見て、ケイトの仕草の意図を理解したミステルトは恥ずかしそうに袖で口元を拭った。


「主、我は謝らなければいけない事があるのじゃ。落ち込むツムギの為に何かしようと考えた時、我は主に貰ったこれが嬉しかったからツムギにもしてあげたいと思ったのじゃ。でも、この村にはそんな物売ってなかったのじゃ。だから、主に止められていたにも関わらず、我は元の姿に戻ってあの町まで行ってきたのじゃ。勿論町でこの姿にならずに近くの森で変化したのじゃが、我は悪い子なのじゃ」


首元のネックレスをそっと触りながらミステルトは謝罪を口にした。


ミステルトの話を聞いたケイトは、ゆっくり立ち上がるとミステルトの頭を優しく撫でた。


立ち上がらなければ手が届かない身長差のせいで、やはり格好はあまりつかない。


「お前は優しい子だよ。自分が叱られるのを分かっていながらツムギの為に行動した」


「うむ……」


「安全な旅よりも、仲間の気持ちを大事にしたんだ、俺は叱らないよ。よくやった、ミステルト」


ケイトはミステルトを褒めた。自分よりも仲間を思って行動した事を、素直にすごいと思ったからだ。


これまで、自分にはできなかった事なのだから。


その日はミステルトが寂しがるのでそのまま2人同じベットで寝るのだが、ただ寝るだけであったケイトをいくじなしと責めてはいけない。



翌日、2人はまた旅に出る。

今度はまた目的のない旅だが、とりあえずは選択肢として勇者に会う為にフレミュリアに向かう事にするのであった。



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