第54話 加護
馬車の旅も終わり、冒険者の夫婦とも町で別れた。
2人は無事に辿り着けたのはケイト達のおかげだと言って最後まで頭を下げていた。
また町による事があったら寄ってくれと見送られ、ケイト達は町を旅立った。
「覚えたのじゃ! 急がば回れなのじゃ。確かに歩くよりも何倍も早くついたのじゃ!」
ここからは徒歩である。
と言っても、ミステルトが言う目的地まではもうすぐの場所だ。
町で聞いた所によると、手前に小さな村があり、そこを過ぎると樹海に入ってしまうのでもう村はないそうだ。
ケイトは、目的地の場所を絞る中で、ふと気づいた事があった。
地脈の場所の予想地点の事である。
五大大国の位置関係は地図を北向きに見ると逆五角形になっている。
そしてミステルトの示した場所は五角形の頂点とは真逆の場所であった。
そこが一番近い場所だと言う。
試しに他の場所を聞くと、だいぶと南西に下らなければいけなかった。
そこでふと、ケイトはミステルトにここは? とある場所を質問した。
するとミステルトは驚いた様に「主はこの短期間で地脈の流れを読める様になったのじゃな! すごいのじゃ!」と大はしゃぎしていたが、ケイトは人の気配さえ読めねえよ、と乾いた笑いを返した。
では、なぜ、地脈の場所を言い当てる事が出来たのか。
地脈の集まる場所は五芒星を描いていて、五大大国が中の五角形、そして五芒星の頂点の位置する所に他の場所があるのである。
そのどれもが人の生活圏から外れた樹海の中の為、人に尋ねても精霊の情報に辿り着かなかったのであろう。
と言う事で、樹海に入って目的地に向かう。
本来なら、冒険者登録していないミステルトやツムギは入場制限をくらうのだが、2人が護衛依頼を出し、Aランクのケイトが受ける事で樹海の手前までは立ち入りを許可され、樹海に入る事ができた。
入って仕舞えばこっちの物で、奥へ進んでしまおう。
普通の冒険者でギルドが許可を出す様な冒険者であれば、自分の命を優先して無理はしないのだが、ケイト達は事情が違うのだ。
目的地に向けて真っ直ぐと進み、モンスターが出てきても敵にならない。
驚いたのは、ツムギも奥深くのモンスターを楽々倒していくのだ。
やはり、勇者としてのステータスアップに、常にマトイと同じ様な戦い方ができるアドバンテージは同じ勇者でも特別な様だ。
しばらく探した後、ミステルトが言っていた様に祭壇を見つけた。
祭壇は苔が生えて汚れてはいるが、不思議と周りに木々が生い茂る事なく、ひらけた空間になっていた。
祭壇の中心には石板が聳え立ち、城にあるであろう石板と同じ文字が刻まれている。
石板の前に、小さな椅子があり、ケイト達が祭壇に近づくと突風が吹いたかと思えばその椅子に緑色に透けた人間の様な鳥の様な獣人の様な存在が座っていた。
「ここに人が来るとは珍しいな。ん? 勇者とドラゴン、それから……1階層の覇王か。さらに面白い、私に何か用か?」
不思議な存在はそう話しかけてきた。
「うん、電気が欲しい」
「おい! 俺達は精霊の加護を求めてここまで来たんだ。コイツは雷魔法を求めている。俺は、全ての魔法を使ってみたい。加護を貰う事はできるのだろうか?」
ツムギの率直な意見では伝わるはずもなく、ケイトが説明した。この不思議な存在が精霊であると信じて。
「ふむ。雷魔法となると雷精霊に頼まなくてはならん。私は風の精霊だから風の加護になってしまう」
その言葉に、ツムギは明らかに肩を落とした。
「そうあからさまに落ち込まれてもな。なに、雷の奴は我の次にやって来る。十五回の夜が過ぎた頃にここにまた来ればいい」
ツムギは元気を取り戻して、精霊に向かってコクコクと頷いた。
「さて、お主だが、私の加護を与える事ができない」
「な、どうしてですか?」
精霊の言葉にケイトは狼狽えて質問した。
「私達の加護はこの世界の人間にしか与える事はできない。彼女の様に、この世界の理を焼き付けられていれば加護を与えられるが、お主は何故かそれが無い。理から外れた存在だ」
「それは、つまり俺はどの精霊からも加護をもらう事はできないと?」
「然り」
ケイトの、希望は崩れ去った。ケイトは神に与えられた時魔法しか使う事はできないようだ。
「すまぬな。これはなんともできない事だ。私達精霊は神ではない」
「ああ。大丈夫だ」
明らかに落ち込んでいるケイトに、精霊も苦笑いであった。
「ここまで来たのに何もないのはつまらないだろう。私の加護はきちんと与えてやろう」
精霊がそう言うと、竜巻の様に祭壇の周りに風が吹いた。
風がおさまった時には、精霊は居なくなっていた。
そして、ミステルトとツムギの髪の毛は、一房緑色の髪が混じっていた。
風の精霊は、宣言通りに加護を与えて去って行った様だ。
その後は、祭壇に変化は起こらなかった。
ケイト達は、雷精霊が来る日にもう一度来る事にして、村まで引き返すのだった。
村の宿屋で、ツムギとミステルトに、慰められるケイトがいたとかいなかったとか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます