第52話 ぶつかった男

「うお、大丈夫か? 嬢ちゃん」


ミステルトは勢い余って通行人にぶつかってしまった。


「すみません」


「すまないのじゃ」


ガタイのいいおじさんであったが、ケイトが謝ると、ミステルトも続いて頭を下げた。


「はん、嬢ちゃんくらいなら当たっても俺はびくともしないぜ!」


おじさんは右腕で力こぶを作ってニカっと笑った。


「そうよ。こんな綺麗なお嬢さんにぶつかられたら逆にお礼を言わないとね」


おじさんの横を歩いていた女性が笑顔でそう言った。

おじさんも女性の言葉に「ちげーねえや」と笑っている。


2人の格好からして冒険者の様であった。


「それで、嬢ちゃんは何をそんなに喜んでたんだ?」


「これなのじゃ!」


ミステルトはおじさん冒険者の質問にとびきりの笑顔でネックレスをグイッと突き出した。


「あら、素敵なネックレスね」


「うむ、主がプレゼントしてくれたのだ」


「おい、お前そんな自慢する物でもないだろう」


ミステルトが胸を張って自慢するのを、ケイトはそう言って嗜めた。


「そんな事言うものじゃないわ。大切な人からもらった物はなんでも飛び切りの宝物だもの。私もほら」


「お、おい、メリピア」


おじさんにメリピアと呼ばれた女性は、自分の指にはまった指輪をミステルトに見せた。


「これはね、まだ駆け出しの頃にガルマンがなけなしのお金で買ってくれたのよ」


おじさんの名前はガルマンと言うらしい。

ガルマンは照れている様でそっぽを向いてツルツルの頭をかいた。


「それがお主の宝物なのじゃな」


「ええ」


ミステルトとメリピアは、種族は違えど女性同士通じ合っているのか口数少なく笑っている。


「それはそうとボウズ達は見ない顔だが旅の途中か?」


「ああ、馬車が出るのを待ってる所だ」


「なんだ、えらくしっかりしたボウズだな、馬車によっては同じになるな」


ガルマンはそう言ってガハハハと笑った。


「おっさん達もどこか行くのか?」


「俺達は引退して故郷に帰るのさ。メリピアが妊娠してな、冒険者としては結構稼いだしいなかでゆっくりな」


ガルマンは説明しながら照れくさそうに鼻を擦っている。


「それは良かったな。元気な子が産まれてくる事を願ってるよ」


ケイトは社交辞令として適当に返した言葉であったが、ガルマンは胡散臭そうにケイトを見た。


「ボウズ、お前本当にいくつだよ」


「見た目通りだよ、多分」


ケイトは言葉を適当に濁したが、ガルマンは「ふーん」と言って話を流した。

踏み込んでは行けないと察したのかもしてない。


「ミステルト、そろそろ行くぞ」


ガルマンとの話が途切れた所で、ケイトはミステルトを呼んだ。


女子2人は話が盛り上がっていた様だが、ケイトが呼んだ事でミステルトは振り向いてパタパタとやってきた。


「主、つけて欲しいのじゃ!」


「は? ミステルト、嫌味か? とどかねえんだけど?」


「は、しゃがむのじゃ!」


ミステルトは道路の真ん中で慌ててしゃがみこんだ。


ケイトはため息を吐いてミステルトからネックレスを受け取ると、ミステルトの首にネックレスをつけた。


「ありがとうなのじゃ!」


「もぅ、こうゆう時は褒めてあげないとダメよ?」


メリピアが腰に手を当ててそう言うのに、ケイトは逆らってはダメだと悟った。


「ミステルト、似合ってるぞ」


「ありがとうなのじゃ!大切にするのじゃ!」


その後、ガルマン達と別れてからも、ミステルトは上機嫌で、宿に戻るまで鼻歌が止まらなかったのだとか。


数日後、馬車に乗ったケイト達は、ガルマンの予想通りに、2人と再会するのだった。











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