第51話 街での買い物

「はいよ、美人な姉ちゃんには一本サービスね!」


「ありがとうなのじゃ」


街へ繰り出したケイトとミステルトは、ミステルトの嗅覚の赴くままにグルメツアーを行っていた。


ケイトの感覚としては、子供のお守りである。


今まで町では、宿などきちんとした所で食事をしていたので問題にならなかったが、こうして休日に町を散策した為のトラブルが起こった。


出店の並ぶ路地を散策し始めて初っ端から、ミステルトは匂いに釣られて屋台の店主に勧められるがままにお金を払う前にぱくりとやってしまったのだ。


ケイトが慌てて店主にお金を払ったのでトラブルは大きくならなかった。


ミステルトは見た目は大人の女性で、ケイトの保護者の様に見える。


しかし所詮はドラゴンであり、人の常識など知ったことではない。


子供が目を離した隙にお惣菜コーナーのコロッケを食べていた時の様に「美味しそうだからたべた」と無邪気に言ったのだ。


店主は料金を払ってもらったし、褒められたのだからニコニコであったが、ケイトとしては、ミステルトに常識を学ばせなければいけない。

と決意をした出来事であった。


そんなこんなで屋台を巡り、ミステルトにお金を渡して自分で購入して、お釣りを受けとらせるところまでは理解させた。


人間の一般常識が無いだけで、計算は簡単にやってのけるので、お金の価値さえ理解させればなんとかなった。


この姿だと分からないが、食欲はドラゴンの姿の時と同じらしく、出店を制覇してもまだ腹には余裕があるそうだ。


ミステルトが言うには、腹が減るから食べるのでは無く、美味そうだから食べるそうで、食欲はコントロールできるみたいだが。


ちなみに宝石、装飾店の通りも通ったがミステルトは全く興味を持たなかった。


「なんの効果も無い小さな石ころをなんで買わないといけないのじゃ?」


と店先にでて接客に来た店員に不思議そうに聞いていた。


あの店員はミステルトに店の装飾品を付けて貰えば宣伝になると思ったのだろうな。 喋らなければ相当な美人だから。


ミステルトとしては、ダンジョンの自分の棲家まで行けばステータスに効果のあるアイテムはあるだろうし、宝石にしても、もっ大きい物を持っていそうであるから、不思議だったのだろう。


その言葉を聞いた店員は、ミステルトの事を勝手にお金持ちや貴族と勘違いしたのか、苦笑いで店の中へ帰って行った。


街の中で、買い物としてミステルトが興味を示したのは食べ物だけであったが、色々な常識は散策の間に教えられたかと思う。


今は、食べ物の出店のエリアを通り過ぎて、色々な物を売っている市場を歩いている。


この辺りには、ミステルトが興味を持ちそうな物は無いだろうな。


ケイトがそんな事を考えていると、出店から2人に声がかかった。


「お二人さん、どうだい? 見ていかないか?」


雑貨やアクセサリーの並ぶ出店で、露店を出しているのだから、先程の装飾店と比べてしまうと見劣りする商品ばかりであった。


「先程の娘は答えてくれなかったが、どうしてなんの効果も無い物を買わないといけないのじゃ?」


ミステルトの質問に店主の青年は苦笑いだ。


しかし、少し考えながら答えを話し出した。


「んー、例えばだが、その少年がお姉さんのとても大切な人だとするだろう?」


「うむ、大切なのじゃ」


「その少年がお姉さんにプレゼントとして買ってくれた物ならなんの変哲のない物でも身に付けたいと思わないか?」


「おお、それは嬉しいかもしれんな! なるほど、主からの贈り物か」


店主の話に、ミステルトは想像してニコニコしている。


「あ、主? どうだい少年、お姉さんはこう言ってるが、プレゼントしてあげないのかい?」


店主の提案にミステルトはケイトに期待の眼差しを送っている。 いや、目つきは食べ物を目の前にした時に似ている気はするが……


しかし、ケイトはため息を吐いて出店の商品を見た。


店主の口のうまさに完敗だ。今日はミステルトに付き合う約束だし、ミステルトが欲しいと言うなら買おうと思った。


確かに、装飾店通りに比べたら高価な物では無いが、彫金としては、造りがいい。

もしかしたら店主は駆け出しの彫金師なのかも知れない。などと考えながら、ミステルトの雰囲気に合いそうなネックレスを選んだ。



ケイトからネックレスを受け取ったミステルトは、目をキラキラとさせながら、ネックレスを見つめると、嬉しさの余りまるで少女の様にくるくると回った。


そして、勢いあまって、通行人にぶつかってしまったのだった。



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