第44話 帰る妹
リュクスは馬車の中で頭を抱えていた。
その理由は兄の命令に背いて行動している真っ最中だったからだ。
何を今更と言われるかも知れないが、今回の兄の行動は国の王になるには余りにも不適格だと思った為、リュクスは1人アクアリアへ向かう馬車の中である。
話は、数日前迄遡る。
「兄様、ケイトとリオがパーティを抜けたってどうゆうこと?」
城に一泊して戻って来たリュクスはケイトとリオが居なくなったパーティを見て愕然とした様子でレミントの部屋へ行き、そう質問した。
「ふん、足手纏いの邪魔者を追放したらリオまで出て行ってしまった。 次期国王の私とぽっと出の父上のお気に入り、どちらに付けばいいのかも分からんとはな。 これまでも妙にケイトの肩を持っていたし、既に手をつけられたあばずれだったのかもしれんな」
「な、なにを言ってるの?」
リュクスはレミントの言動に驚きを隠せなかった。
「なに、魔王など、私の指揮能力と召喚勇者よりも強力な、巻き込まれ召喚者がいれば恐るるにたらんさ」
リュクスは意味の分からない事を自信満々に言うレミントに、感情の無い目を向けた。
「この状況は見過ごせないよ。旅を続けられる状態ではないし、お父様に報告に戻る」
「おい、勝手な事をするな。これは命令だ!」
レミントの命令。その言葉にリュクスはビクリと体を震わせて振り返った。
次期国王であるレミントの補佐をする為の教育を受けているリュクスにとって、レミントの言葉は絶対のはずだった。
しかし、今回の件はアクアリア王国を滅ぼすかもしれない行動だとリュクスは感じた。
これまでの旅でレミントの意見を優先して来たのは、父ケミルトがケイトに頭を下げ、国を率いるものとして成長を見守ってほしいと言っていた為である。
これまで、レミントのアフターフォローに動いて来たのはリュクスであった。
王族としての態度が抜けず、人々に迷惑をかけた時にレミント達が居なくなった後で迷惑をかけた人にリュクスは謝って回っていた。
皆の前ではレミントを立ててはいたものの、話し合いが終わったらケイトに謝りに行き、ケイトにパーティに残ってもらえる様に頭を下げていた。
面と向かってレミントを否定しなかったのはケミルトの言葉があり、それをケイトも了承していたから。
しかし、ケイトは旅の途中からパーティへの興味が薄れ始めた。
それまで、単独戦闘を優しく注意し、戦い方を指導してくれていたのに、ある時を境にそれがパタリと無くなった。
パーティの雰囲気は悪くなっていくばかりで、レミントの部屋に出向き、ケイトの指導を聞く様に説得しようとしたが、レミントは聞く耳を持たなかった。
何故皆の前で言うのでは無く、レミントの部屋に出向いたのかと言うと、レミントを立てる教育のせいであった。
皆の前でレミントを否定してしまうと面子を潰す事になると思ってできなかったのだ。
しかし、ケイトは去ってしまった。
それは、ケイトがレミントを見放したと言う意味でもあった。
「そうやって俺の言う事を聞いていればいい。 俺は次期国王だからな。 それに、ケイトの追放はガロン兄様も賛成してくれたのだぞ?」
兄様の偏った話を聞いただけの意見になんの意味があると言うのか。
リュクスはそう思った。
久々に姉様に会って話が盛り上がり、ガロン達の話など聞こえていなかったあの時の自分を怒りたくなった。
日本の偉人は何人もの言葉を聞き分けられたと言うが、普通の人はそうではない。
学生の時にクラスで友達と話している時、隣で誰かが喋っていようと、聞き耳を立てていなければ話しているな。位で内容など分からないのと同じである。
これは仕方のない事だが、こうなってしまった以上、リュクスはすぐに報告しなければいけないと思った。
次期国王ではあるが、まだ王太子でもないレミントのこの行動。そしてケイトに見放されたと言う事実は、現国王であるケミルトに報告しなければならないと思ったからだ。
「兄様、あなたの行動に次期国王たる素質がない様に思います。 ですのでお父様に報告させていただきます」
リュクスはそう告げてレミントの部屋を出て行った。
「おい、待て!命令だ!おい!」
レミントの静止の声は届く事なく、イライラしたレミントは椅子を蹴り上げるのだった。
その時の事を思い出してリュクスはため息を吐いた。
「どこへ行ってしまわれたのですか、ケイト様、リオ」
リュクスの呟きは昼の空へと消えていった。
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あとがき
食欲の錬金術師〜草しか食べれないエルフは禁断の錬金術に手をかける〜
https://kakuyomu.jp/works/16817330664101609771
忍者が箒を使って何が悪い!
https://kakuyomu.jp/works/16817330662918128563
の2作品をカクヨムコンテスト9に応募しています。
そちらの評価とコメントも頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
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