精霊を求めて編

第45話 馬車移動

ケイトは格好をつけて、アクアリアから時を止めて忽然と消えた事を後悔していた。


本来、アクアリアで他の勇者達の情報を聞くのが目的であり、レミント達の行動はついでであったはず。


しかし、格好をつけたせいで、聞き逃していたのだ。


流石に、今更戻って聞くわけにはいかないだろう。


とりあえず、アースランドかフレミュリアのどちらかに向かおうと考えているが、どうしたものだろうか?


そして、ああいった形でアクアリアを離れた訳だし、クロノグラフの名前は使えないだろう。


その為、勇者を見つけた後にどうやってコンタクトを取ろうかと言うのも悩みの種であった。


ちなみに、ウィンダムやエボルティアの勇者も居るじゃないかと言われそうだが、その二つにはケイトの顔を知っている人がいるからパスと言うのと、勇者に出会うのがケイトの目的ではなく、この世界を楽しむと言う目的がある為、行った事のある国は除外したのであった。



ケイトは、乗り合い馬車の時刻表を見て、アースランドの方が出発時刻が早かった為、アースランドへ向かう事にする。


パーティで無くなったから、馬車を使えるのはとても良い。


今まではパーティメンバーの成長の為にモンスターとの戦闘を考慮して徒歩で移動していたが、それを考えなければこれ程までに楽な旅になるのだ。


確かに、物語で語られる様に、馬車は酷い乗り心地で体が痛くなるだろうが、ステータスが上がっている為そこまで酷い事にはならない。


乗り合いの馬車なので他の冒険者や一般人も移動の為に乗っている。


冒険者達はパーティで会話したり、一般人も家族や友人など連れ立っている場合は和気藹々としている。


ちなみに、乗り合い馬車は冒険者であれば値段が安くなる。

その理由は道中にモンスターが出た場合は冒険者が対処する事になるから保険料みたいな物である。


馬車は街道を通る為、モンスターが出る事も少ない上、弱いモンスターしか出ない為、低ランクでもパーティであれば対処可能な事が前提の取り決めである。


この取り決めがあるから、馬車の中は、この様に和気藹々とした雰囲気で過ごす事ができる。


最近の旅は、殺伐とした雰囲気の悪い旅だった為、ケイトは周りの楽しそうな声をBGMにしてアースランドへ向かうのだった。



アースランドに向かって数日経った頃、道中馬車が止まった。


これまでもモンスターが現れた時はこうして止まって、冒険者達がちょっと体を動かすか、位で対処していたのだが、今回は御者の雰囲気が違った。


「やばい、終わりだ……」


冒険者達も、馬車を降りた所で空を見て固まってしまっている。


「ドラゴンだ……」


冒険者の1人が力の無い声で呟いて棒立ちになり、隣の冒険者は腰を抜かして座り込んでしまった。


馬車の中の乗客も、知り合い同士で抱き合ったりして震えてしまっている。


そんな中、1人の少年が馬車の前に立った。


「あ、ここは俺が引き受けるんで先に行ってもらっていいですか?」


「しかし、少年……」


御者は、苦笑いで話す少年の覚悟を汲み取って鞭を握りしめた。


「死にたく無い奴は早く乗れ! 少年の覚悟を無駄にするな!」


外にいた冒険者達が腰を抜かした仲間を引きずって馬車に乗せると、御者は勢いよく鞭を叩いた。


「すまない」


その言葉を残して馬車は少年を置いて去っていった。


残された少年、ケイトの苦笑いの理由は、勿論囮になる事を決めたからでは無い。


「主!やっと追いついたのじゃ!」


やって来たドラゴンが自分を追って来た事に気づいた故の苦笑いであった。


ドラゴンがケイトの前に着地すると、ドラゴンの背中からひょこりと覗く少女が目に入った。


「誰?」


それがケイトとミステルトの再会の第一声になった。

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