第43話報告

アクアリア王国の王城の執務室


そこで、ケミルト王と宰相のノーンが来客用のソファに座って話をしていた。


「今頃、王子達はエボルティアですか、久々にシェリーヌ様と会うのですから、リュクス様は甘えているでしょうな」


「ああ。 あの子はシェリーヌと仲が良かったからな。しかし、旅は上手く行っているのだろうか?」


「老けましたな。 それほど心配せずともよろしいでしょう。レミント様はきちんと定期的な連絡を送って来てくださる。多少の誤差はありましょうがちゃんと旅をしているのが分かります。今エボルティアに居るのが分かるのもその連絡のおかげでしょう。この間も、冒険者登録をしてランクが Fまで上がったとか」


ケミルトとノーンは定期的にこの話題を話している。


定期的にレミントから報告が届くのだが、上手くやっているとの事ではある。


報告は冒険者経由の手紙の為、タイムリーな情報では無い。

経験として、色々な場所に行ってもらいたいので、旅のルートは任せている。

条件としては、王族やら勇者と言う事を言わないのがルール。それだけである。


「私はレミントのケイトへの扱いが心配なのだよ」


「それはケミルト様が彼に支援を依頼した時から分かっていたことでしょう」


ケミルトのこの言葉は毎回である。


この2人はケイトが魔王であると知っている。

しかし、ケイトの人となりまでは知らないのである。


なので、ケイトを怒らせてしまわないか、民達に横暴な態度をとっていないか等の不安が付きまとうのである。


「レミントの成長の為になるかと思って行かせたが、やはりレミントには正体を伝えるべきだったか?リュクスなら、ケイトの正体を知っているから上手くやってくれているとは思うのだが…」


「リュクス様はレミント様に意見できないですからな…」


そう言う育て方をされたのだ。


王位継承権が上の者の支えになる様にと。


だからリュクスはなにか発言しようとしてもレミントのひと睨みで口をつぐむ。

それに、ケイトの正体についてはケミルトが箝口令を言い渡している。


「ま、結果から言うとあのパーティは解散した訳だけどね」


部屋に響いた第三者の言葉にケミルトとノーンはビクリと体を震わせた。


「手続きとかは面倒臭いから勝手に入らせてもらったよ」


執務室のテーブルの上に座っていたのはケイトであった。


その事実に部屋にいた2人は食い気味にケイトへ質問した。


「な、何故ここにいらっしゃるのですか?」


国王であるケミルトが敬語を使っている事で緊張の度合いが伺える。


「あのパーティが解散になったから一応報告しておこうかと思ってね。彼らも自信はついている様だし、貴方の依頼は完了で良いかな?」


「そ、それは、いえ、もう少し詳しくお話を聞かせて貰えますかな?」


早々に気を取り直したのはノーンであった。


ケイトは軽く今までの話を織り交ぜながらパーティの現状を説明した。


初めの連携から個人戦闘への移行の話。


それから後衛の廃止からパーティの解散までの話


勇者パーティはレミントに乗っ取られ、そのパーティからはケイトが追放され、リオは去っていった。


今までの話をしていると、自分は何もしていないな。と思いながら、目的である勇者との繋がりはしっかり作っている事にケイトは満足していた。


ケイトが楽しそうに話をする中、アクアリアの2人はどんどん顔色が悪くなっていった。


「済まなかった。ケイトよ、この通りだ」


そして2人はケイトに深々と頭を下げた。

2人とも、勇者召喚の時の様に、先祖から伝わる最上級の謝罪である土下座をして額を地面に擦り付けた。


「おいおい、どうしてそうなるんだよ?」


「今、私達が出来ることはこの国の平和の維持だ。 君を怒らせればこの国が無くなってもおかしくない」


「言い過ぎじゃないかな?」


「魔王とはそう言う物なのだ。逆鱗に触れれば国が滅びる。それに対抗する力が勇者だ。 力を失った我が国は君を怒らせない様に震えながら生きるしかない」


ケイトはやれやれと首を振るが、ケミルトとノーンは顔を上げる事はなかった。


ケイトが「もういい、顔を上げろ」と言ってやっと頭を上げた。


まるで玉座での謁見の様である。



「ま、そちらから攻撃してこない限り、敵対なんて事にはならないさ」


「こちらから手を出す事はない。絶対にだ」


「ケミルト様、こうしてはおれませんぞ! レミント様達を一旦呼び戻した方が良いでしょう」


「そうだな。ケイト殿の事を伏せたとしても、リオ殿を失った事を問い詰め、罰を与えねばならない。 それはそうとケイト殿、やはりクロノグラフの名は返上されるので?」


ケミルトが、そう質問してケイトの方を向いた時にはケイトは既にいなくなっていた。


「行ってしまわれましたな」


「ああ。どの様なスキルか分からんが、末恐ろしい人だ。城の警備に気づかれずに侵入して、忽然と姿を消す隠密性と、ドラゴンさえも簡単に殺す攻撃力。絶対に人が争ってはならん。 どうにかして、勇者達を誘導できれば良いのだが…」


「無理でしょうな。できる事は神頼みかと」


ケイトが去った執務室ではそんな話がされていたとかいないとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る