第42話 旅立った勇者の出会い

旅へ出て数週間、少女は現実を突きつけられた。


モンスターなど苦ではないし、モンスターを倒せばお金は手に入る。


情報もお金を払えば手に入るものの、精霊についての情報は物語の話か、雲を掴むような嘘であった。


それに、知らない土地で1人で行動するのは、方向音痴でない私でも迷ってしまう。


案内板などある訳でないし、ざっくりとした看板がたまにあるものの、あまり役に立たない。


コンパスや地図が読めなければ、街間の移動すら難しかった。


そしてここは異世界の樹海。


どっちに何があるかも分からない場所。


つまり、少女は1人樹海で遭難したのである。


こんな事なら2日ほど乗合馬車を待てばよかったと後悔しても仕方が無い。


「どうしたのじゃ? 人がこんな所にいるとは珍しいのじゃ」


途方に暮れていた少女に、そう声を掛けてくる人が現れた。


私は、助かったと全力で振り向いた。


するとそこに居たのは、青みがかった腰まである銀髪の巻き髪に真紅の瞳をした美しい女性であった。


その美しい女性は、申し訳程度の防具が付いたドレスを着た姿で、1人樹海の中に立っていた。


ため息が出そうになるのを、少女は全力で堪えた。


この人も迷ったのかな? 少女がそう考えた時、目の前の女性は話しかけてきた。


「人よ、分かるのじゃ。道に迷っておるのじゃな。 分かるぞ、人は飛べないからすぐに迷う」


正直、何を言っているのか分からなかった。

この世界で流行っているジョークなのだろうか?と少女は首を傾げた。


「人よ、付いてくるがいいのじゃ。 森から出してやるのじゃ」


「ちょっと待って、貴方も迷っているんじゃ無いの?」


「何を言ってるのじゃ? あるじと同じような匂いがあったから来たらお主が迷っていただけなのじゃ。 迷っているのでなければ付いてくることはないが___」


「ついて行く!」


少女は食い気味に返事をしてしまったが、森を抜けられるチャンスなのだから仕方が無い。


女性と並んで樹海を歩きながら、色々なことを話した。


女性の雰囲気は豪快に笑う人。

何処かのお姫様の様な見た目なのに何だか残念な人である。


少女は、この世界へ来ての引きこもり生活、なぜ旅を始めたのか。


そして、少女は女性に、雷精霊を探している事を話した。


誰も情報を持っていない事を、ネタになればと言う思い、空元気で投げやりに話した。


これまでの情報収集も精霊と契約したいと言ったら、聞く人聞く人に笑われたのだから。


しかし、この女性は訝しむ顔も見せずに予想外の返事を返した。


「なんじゃ、お主精霊に会いたいのか?」


「契約して魔法を使いたいと思ってて」


魔法を重要視していなさそうなこの世界では笑われそうな話だが、またしても普通の人とは違う返事だった。


「魔法の使い方を知っているとは見所があるのじゃ。 うむ、あるじに追いつく事は最優先じゃが、その後で良ければ精霊の所に案内してやるのじゃ!」


「ほ、本当に?」


「嘘をついてどうするのじゃ? それに、お主もあるじの配下になれば良いのじゃ! あるじならばお主の住み良い場所を作ってくれるのじゃ!」


この女性のあるじは何処かの領主かなにかなのだろうか?


女性の中では私も共に配下になる事が決定のようだが、私は電力を得て引きこもりたいのだ。


この時の私は知らない。


この出会いが私の悩みを全て解決してしまう鍵になる事になろうとは。


「それではこの森もさっさと抜けてしまうのじゃ! おっと、名乗っても居なかったのじゃ。 我が名はミステルトなのじゃ!」


にこやかに笑って手を差し出した女性の正体や、先程までの女性の言葉の意味を少女が知るのは、もう少し先の話である。

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