第40話別れ
ケイトが宿へと戻ると、そこにはアスカとトモヤ、それにレミントが戻って来ていた。
「レミント、もう話は良かったのかい? 泊まってくるのかと思っていたよ」
気軽に話しかけるケイト。
呼び捨てで呼び合う事は、旅の中でギクシャクしていようとも冒険者と身分を偽る為に行っている事である。
レミントは先に帰って来た様で、リュクスは、姉であるシェリーヌと共に買い物に行っていて、今日は城に泊まってくるそうだ。
「ケイト、大事な話がある。 座りたまえ」
ケイトはそのままテーブルを挟んだレミントの対面に座った。
四角いテーブルを囲む形で両サイドにはアスカとトモヤが座っている。
「ケイト、君にはこのパーティを出て行って欲しい」
レミントの言葉に返事をしないケイトがショックを受けていると考えたレミントは、椅子から立ち上がると部屋を歩きながら続きを話し出した。
「ショックかい? 国王に選ばれたからと言って安心していたかい? 私たちもランクが上がって、更に厳しい戦いへと挑む事になるだろう。 そうなると、やはり足手まといがいると僕達の命も危ない。 言っている意味は分かるだろう?」
「俺はアクアリア王に頼まれているわけだが、それはいいのか?」
「うむ、私がそう判断した。 私は未来のアクアリア国王なのだから問題ないだろう。 最近のパーティの雰囲気は君のせいで揉めていた事だし、パーティがバラバラになってしまう前に、辞めてもらおうと言う訳だ」
ちょうど、アスカの背後まで歩いた所で、レミントはケイトを見てニタリと嫌らしい笑みを浮かべた。
トモヤには見えている事からトモヤは了承済みなのだろう。
ケイトは、アスカの方を見た。
「私も、ケイトさんにはもう無理だと思います。 初めにサポートしてもらった事には感謝していますが、今のケイトさんの実力では足手まといです。 ランクも上がっている所を見た事ありません。当たり前ですよね。討伐記録がタグにないんですから。 Bランクにならなければダンジョンにも一緒に行けないじゃないですか? だからもう無理でしょう? ふぅ、話したら喉が渇きましたね。 お茶でも入れましょうか」
アスカは早口でそう言うと、奥の部屋へとお茶を入れに行ってしまった。
「皆が了承済みの事だ。 優しいアスカにすがろうとしても無駄さ。 それと、私が国王になったら覚悟しておく事だね。 どうやって父に取り入ったのかは知らないが、クロノグラフ家は取り潰しだ。私達の旅を邪魔した罪は重い。死罪にならない事を感謝したまえ。 …では、クロノグラフ卿話は終わりだ。 まさか、図々しくもお茶を飲んで行くなんて言わないだろうね?」
言われるがまま、ケイトはアスカのお茶を待つ事なく退出した。
お茶を持ってきたアスカの目が、少しだけ赤くなっていたのはケイトは、知る由もないだろう。
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リオは、ユイトと話をして、覚悟を決めて宿へと帰ってきた。
冒険者との戦闘で、今の自分達では未来が無いとはっきりと分かったからだ。
ケイトに頭を下げて、もう一度1から教えてもらおうと、皆に連携の大切さを話し合おうと。
空気が悪くなっても逃げずに話し合って、みんなを説得しよう。 そう思って冒険者ギルドに寄らずに真っ直ぐ宿に帰ってきた。
「ただいま。 あら、ケイトとリュクスはまだ出かけているのね」
それじゃ、ケイトが戻るまでの間に皆を説得する所から始めるとしましょう。
リオがテーブルに座って話そうとした時にレミントが返事を返した。
「リュクスは姉上と出かけているさ。 ケイトは、残念だがこのパーティを出て行ってもらった」
リオは、レミントの言葉が理解できなかった。
「は、何を言っているの?」
「追放処分だよ。 足を引っ張るだけのヤツは仲間とは言わないさ。 あいつも自分が邪魔者だと分かっていたんだろう。 何も言わずに___」
「どうして!」
リオはバンッと机を叩きレミントの言葉を遮った。
「どうしてそんな事を? アスカは止めなかったの? ハシモト君は? ねえ、どうして?」
「止めたかったよ!」
叫んだのはアスカだった。
目にいっぱいの涙を溜めてリオを見上げて言い返した。
「止めたかったよ。 でも、仕方ないじゃない! このままじゃケイトさんは危ないよ。 これからモンスターは強くなるだろうけど、ケイトさんは一向に強くならないじゃない!」
堪えきれなかった涙がアスカの頬を伝う。
「なら何故、ケイトが教えてくれていた連携を取らなくなったの? 連携すれば、一緒に戦えていたのに」
「それは、私達がケイトさんのイメージよりも強くなりすぎたからだよ。 連携なんて必要ないくらいに!」
リオはアスカの言葉を聞いて悟ってしまった。
自分達はもう戻れない所まで進んでしまったのだ。
あの時、ケイトの言葉を聞いてもっと強く言うべきだったのだ。
そして、もしかしたら意図的にこうなる様に誘導されたのではないかと思ってしまった。
「ねぇハシモト君、養殖って意味わかるかしら?」
リオの言葉に対して、驚いた様に目を見開いたトモヤを見て、その考えは確信に変わった。
「…私も、このパーティを抜けるわ」
「何を言い出すんだい? 君はアクアリアの勇者だ。勝手な事を言ってはいけないよ?」
慌ててレミントが宥めようとしても、抱いた不信感は無くならなかった。
「アスカ、私と一緒に来る? 貴方だけなら、 友達だから__」
「リオ、それはおかしいよ。 ハシモト君たちを見捨てるの?」
なら、何故ケイトを追放したの? そう聞きたかったが、この話に意味は無いと割り切ることにした。
それよりも、急がなければいけない大切な事があると思ったからだ。
「そう」
リオはただそれだけ返事を返して、部屋を後にした。
レミント達の止める声を聞く気はさらさら無かった。
宿を出た後、リオはケイトを探した。
自身の索敵スキルをフル活用して必死に探した。
いつもはそれでも撒かれてしまうが、今日は呆気ないくらいにあっさりと見つけることが出来た。
街を出る門の方であった。ケイトを見つけたリオは、急いでケイトの場所に急いだ。
ここは前の町へと戻る道中であった。
リオは必死に追いかけて、ケイトに追いつき、呼び止めることが出来た。
「リオ、そんなに慌ててどうしたの?」
ケイトの返事は、とてもあっさりとした物だった。
まるでパーティを抜ける事をなんとも思っていないようで、リオは、いつもと違うケイトのその雰囲気がとても怖かった。
それでも、リオは心を奮い立たせてケイトに呼びかけた。
「ケイト、本当にパーティを出て行くの?」
「そろそろ潮時かとは思っていたしね。 アクアリア王との約束も、まあ一応は完了でいいかと思うし、俺があのパーティにいてあげる理由はもう無いだろう?」
リオの質問への返答は、今までオブラートに包まれていた物が全て外れたように聞こえた。
それが、リオを不安にさせた。
「王様との約束?」
「召喚した勇者が死ぬ事がないように守って欲しかったみたいだね。 彼には、負い目があったのかもしれない」
「まだ、私達だけではダメだと思うわ。 私も、今日負けたもの。あのままだったら私は…」
リオはケイトに今日あった事を話した。
冒険者の連携について行けずに、負けた事からボルティアの勇者、ユイトの事まで隠すこと無く話した。
そして、これからパーティを立て直したいことも含めて自分の考えを全て話した。
「リオ、それはもう無理だよ。彼らは、それぞれの思惑の為に動いているからね」
リオの思いは、その一言で無残にも散った。
「リオ、君には2つの道を与えてあげる」
「え?」
ニヤリと笑うケイトの雰囲気は、リオの知るケイトとはまるで別人だった。
「選ぶといい」
そう言って、ケイトは何も無い所から2つのアイテムを取り出した。
飾り気のない腕輪と飾り気のない剣。
「この剣は君の使う紛い物の聖剣、ミスリルの剣とは違う本物の聖剣だ。 こっちは封具、君のステータスを封じて初めからやり直す事ができる退化の道具。 片方はパーティを守る為の力だ。もう片方は1人で自分を鍛え直すには丁度いいアイテムだろ?さあ、どちらを選ぶ?」
少しの間、沈黙があったが、リオが選んだのは封具だった。
「私も貴方を追いかけてパーティを抜けてきたもの。私は鍛え直す方を選ぶわ」
リオの返答にケイトはニヤリと笑った。
そして、二つのアイテムを握り潰した。
リオは、驚いてケイトを見た。
「ふふふ。これも紛い物さ。 これと、これをリオに渡そうかな。 常にこの武器の誘惑に耐えて、強くなった後に使うといい。
君のステータス程度ならまだ封具など無くてもやり直せるよ。
ただ、この世界は日本とは違う。平和でもなければ、男女平等でもない」
そう言ってケイトはリオに2つのアイテムを渡した。
先程の剣とは違う少し装飾のある本物の聖剣と、一度だけケイトに連絡の取れる連絡の指輪。
「ケイト、貴方も__」
ケイトはリオの話を聞く事はなく、漆黒の立方体をルービックキューブの様に組み替えて起動した。
いつもは使わないが、とても威圧感のある形にトランフィヴノイズは変形した。
デスサイス。死神が持つ大鎌である。
そして、遠心力を使って振り回す様に一回転させると、リオの首元へ刃を添えた。
「力と仲間を蓄えてその指輪で連絡して来い。その時はこの魔王ケイトが相手をしてやろう」
ゆっくりと語るケイトの言葉にリオは目を見開いた。
今までのケイトとは明らかに違うオーラを感じた。
弓ではない武器に目で追えない内に首に添えられた大鎌。
そのどれもが想像できる幅を大きく越えていた。
「強くなって俺に会いに来い」
次の瞬間、ケイトはリオの目の前から消えていた。
いつもの様に、リオの索敵も役に立たず、ケイトは居なくなった。
ただ、今の出来事が事実だった事は、聖剣と指輪が証明していた。
「…よし!」
そして決意したように声を出すと、聖剣を鞄にしまって、指輪を装備した。
今までの、アクアリアに支援してもらった装備も鞄へとしまい、街の武具店で自分に合った装備を選んでもらって購入する。
アスカと喧嘩別れした形なのが心残りだが、この世界で生きると決めた以上、強くなる。
勇者としてではなく、この世界に生きる冒険者として。
ただ、自分だけの考えでは失敗する事はこれまでの旅で学んだ所だ。
リオは、1人だけ知識が頼れる人を思い浮かべて、その人物を探し始めるのだった。
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時の止まった世界を、ケイトは歩いていた。
少しは魔王の様に振る舞えただろうか?
希望としては、リオにはパーティを率いてもらいたかったが、レミントのあの様子ではそれも無理なのだろう。
レミント達に関しては、一応元パーティメンバーとして、死なない事を願っておこう。
トモヤとアスカに関しては、挫折して帰りたいと思ってくれれば、楽に送り返してやれる。
正直、最近の雰囲気ではパーティ解散も間近だとは思っていたので、また気ままな一人旅を満喫するのもいいかと思う。
とりあえず、勇者の気持ちを確認する為の旅だ。
エボルティアの勇者は、リオの話だと楽しんでいそうだったし後回しでいいだろう。
しかし、この状況はアクアリア王へ報告の義務があるのだろうか?
いや、一応は爵位を与えられているわけだし?
アクアリア王に聞けば他の勇者の位置もわかるかも知れない。
とりあえず、行くあてはないのだから、アクアリアへと向かう事にするケイトなのであった。
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