第39話 邂逅
今、この部屋にはレミントとリュクス、それに2人の姉であるシェリーヌそれからシェリーヌの夫で、エボルティア王太子のガロンが楽しく会話をしていた。
残りのメンバーは兄弟水入らずでと気を使って先に退室し、城下町へ出かけて行った。
「ガロン兄さん、お久しぶりです」
レミントがややかしこまった喋り方をしているのに違和感があるかもしれないが、彼も王族なので、他国への礼儀は弁えている。
それに、ガロンはレミントの憧れでもあった。
武国ボルティアの王太子にして、エボルティア国最強と名高い
難しい
「レミント、君が勇者様の旅に同行しているとは驚いたよ。 どうだい、旅の方は?」
「はい、見事勇者を牽引して、共に成長しています。しかし、父からお荷物を付けられたせいで大変ではありましたが」
苦笑いするレミントの言葉に、やはり旅は大変そうだと笑みを返すガロンであった。
リュクスとシェリーヌは、2人で楽しそうに別の会話に花を咲かせている。久しぶりの再会に、いつまでも話題は尽きなさそうである。
「リュクスは想い人はできたのかしら?」
「ね、姉様、想い人だなんてそんな」
「あらあら、どちらなのかしら?」
「ね、姉様! 尊敬する方はいらっしゃいます。だけど、恋愛はよくわかりません」
「リュクス、隠してはダメよ? 自分の思いに気づいたら行動に起こさないと国に縛られて後悔する事になるわ!」
と女子の話題は妹の恋の行方に興味津々なあねである。
実際行動に移してやり遂げた姉な言葉の重みに、リュクスはタジタジの様である。
「しかし、アクアリア王も考えもなしに勇者の旅にお荷物となる人物は選ばないと思うが?」
「ガロン兄さん、父は勇者の血を引く誇りを忘れて腑抜けてしまっているのです。 現に召喚した勇者に膝をつき、頭を下げるなどと言った王にあるまじき行為をしていましたし、それに、索敵の使えない弓術士を贔屓するなど。正気の沙汰ではありません」
「ハハハ。 この国でも勇者召喚の場で国王が勇者に謝ったのは衝撃があったさ。しかし、弓か。 戦争など、ステータスの低い人間を総動員する場合は役にも立つが、俺達位になると矢は装備でかすり傷にもならないからな。しかし勇者は初めから強いわけでは無い。本当は後衛も必要ないが、初めは保険として付けたのではないか?
「まぁ、そうかも知れませんが、しかしそれは、心配のしすぎと言うものです。戦争などではありませんから」
ガロンの話に少し拗ねた様にレミントは口を窄めた。やはり尊敬している人物の意見だと、考える頭はある様だ。
「そう言うな。 アクアリア王は君達の事が心配だったのだろう。 しかし、君達もどんどん強くなってきているようだし、弓の援護は必要ないのだろう。足手まといと感じているのなら、連れて行くのにも限界があるかも知れないな。 暇を出すかどうかも考えないと、パーティのリーダーならそういう事も考えなければな」
「はい! ガロン兄さんの話はいつも勉強になります!」
レミントとガロンは気が合うらしく、話は盛り上がっている。
微妙な食い違いはあるのかもしれないが、その話に違和感なく、まだまだ終わりそうにはないのである。
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リオは、辺りを見回して、探していた人物が居ないことにため息を吐いた。
エボルティア城から出た後、ケイトの後をつけていたのだが、いつの間にか人混みに紛れて見失っていまったのである。
またであった。
リオは、ケイトの実力に疑念を抱いている。
他の皆は気づいていないのか、気にしていないのか分からないが、初めの頃の戦闘指導や、今の様に戦う様になる前の指示の出し方を思い返せば、武器の特徴を捉え、教える事ができている。
だとすれば、弓以外の戦い方も出来るのにあえて後衛として居るのではないか?
そしてそれには何かの意図があるのではないかと疑問に思ったのだ。
なので正体を探ろうと、後をつけて数回チャレンジしているのだが、毎回いつのまにか見失ってしまうのである。
リオは、今日は諦めてその足で冒険者ギルドに向かった。
無難な討伐クエストを受けてストレス発散するためである。
この辺りのモンスターに対しては1人で戦っても問題ない事はここまでの道中で分かっている。むしゃくしゃする思いをモンスターにぶつけて発散するのはパーティの雰囲気が悪くなってからする様になったことで、こうして1人でクエストを受ける事も多くなった。
アスカとトモヤが仲が良くなり、孤立する事が増えたからである。
「ふふ、私が一線引いてしまってるからよね」
一言呟いて考える。
私が入ると、連携の話等で揉めてしまうことが分かっている為に一線引いてしまっている。
リュクスもその雰囲気が嫌なのか、席を外して出て行く事が多くなった。
まあ、レミントは気づいていないようだけど。
それもこれも、ケイトの言葉で私が色々と考えさせられた所為なのだけど、その本人は逆に我関せずと言ったように、最近は完全に孤立している。
旅の途中では、私が無理矢理連携を取ろうとして失敗した所にフォローをしてくれるものの、その程度で戦闘への参加は少ない。
個人バラバラの戦い方ではフォローの必要がないと言う事なのかもしれないけど…
「それでも、ちょっとは私の気持ちを掻き乱した責任を取れ!」
クエストを受けて街の外に出たリオは、叫びながら、ムシャクシャした気持ちをモンスターにぶつける。
この辺りに居たモンスターを全て倒し終わったところで、声を掛けてくる数名の冒険者がいた。
その装備で冒険者と分かるだけで、いかにも柄が悪そうに見える冒険者だ。
「よう嬢ちゃん、中々やるじゃねえの。 とは言え帰りの道中消耗したままじゃ不安だろう? 俺達が一緒に送って行ってやるよ」
「その心配入らないわ。 1人で帰れるから」
白々しいと、リオは思った。
リオも一人で行動するからには気配察知、すなわち索敵スキルには自信がある。
勇者成長率があるので、リオはスキルを覚えやすく、その精度も一般より高い。
なので、この冒険者達がリオがモンスターを倒している間、隠れて見ていたのは分かっているのだ。
コレは、帰った途端護衛料などのイチャモンを付けてくるつもりに違いない。そうリオは考えた。
「まあまあ、冒険者なんて持ちつ持たれつじゃないの。 ほら、遠慮なんかしなさんなって」
しつこい冒険者に、せっかく発散したイライラがまたぶり返してきた。
キッ!と睨んだリオに、冒険者はニヤリと笑い返した。
しかし、目は不自然にも笑っていなかった。
「おいおい、せっかくの先輩冒険者の誘いを断るなんてなってないじゃないの? コレはお仕置きが必要かもな」
その冒険者の発言と共に、1パーティ5人の冒険者達は武器を構えた。
「あら、冒険者同士の死闘はご法度じゃなくて?」
「コレは躾だよ躾! 物分りの悪い後輩へのな」
「リーダー、俺からだからな。 俺から!」
「まあ上玉だし、後で売るにしても躾が必要か」
「あんま無茶苦茶するなよ? 装備も高く売れそうだ」
ただまあ、対処は簡単だろう。 能力的に圧倒的有利だろうから。
そして、どちら共なく戦闘は始まった。
戦ってみると、リオが思っていたのとは逆で、相当分が悪かった。
実力はリオの方が上なのは明らかだし、装備の質も全く違う。
しかし、冒険者達は実力を連携で補って、言いたくはないが。テクニックでリオに攻撃の隙を与えてはくれない。
後衛からリオが攻撃するタイミングでの牽制、リオは中途半端な攻撃を無理矢理繰り出すも、武器の力を出しきれずに、避けられて、当たっても擦り傷程度。
そのダメージを貰ったメンバーへのフォローもしっかりしていて、この冒険者達の戦い方は、性格に反してきちんとした者だった。
リオは思う様に攻撃が展開できず、徐々に追い詰められていた。
今までのモンスターとは違う、洗練された連携。
何を隠そうこの冒険者達、一人一人のランクはEランクだが、チームでの戦闘ではCやBの下のランクの仕事をこなす上級冒険者なのだ。
残念な事に、悪事に手を染めてしまっているという事実はあるが、冒険者ギルドに置いて、一目置かれる存在である。
リオは、自分が追い詰められて初めて、ケイトの言葉の意味を今更ながらにキチンと理解していた。
理解したつもりになって自分がとった行動は、場を掻き乱すだけだった。
まず、きちんと理解していたならばこうやって1人で外に出る訳がなかったのだ。
心のどこかで、1人で大丈夫と思ってしまっていたのだ。
悔しいが、ちゃんと、しっかりと連携の取れる人達にレクチャーして貰い、その大切さをパーティで共有すべきだったとこの冒険者達を見て思った。
そうやってパーティをまとめるのが勇者の役目なのだと今更ながらに理解した。
しかし、その後悔は既に遅かった。
追い詰められたリオは、力の入らない体制で剣を掬い上げられ、武器を手放してしまった。
後は追い詰められ、冒険者達の良いようにされてしまうだけ。
リオはそう思い、戦闘中にタブーであるのに反射的に目を瞑ってしまった。
「何やってんだぁ、テメーら?」
そこへ声を掛けてきたのはたった1人の少年だった。
かきあげた金髪に銅の片手剣、防具もその辺で売っている一般的な物。
ただし、漂う雰囲気は普通では無かった。
「坊ちゃん、俺達の喧嘩に手出さないで貰えます? 今なら気分が良いので見逃しますけど、お坊ちゃんにも躾が必要ですか?」
「おいおいおいおい、なんだそりゃ? オレが
金髪の冒険者はそう言うとその場から消えた。
いや、ここにいる誰の目にも見えない速さで
その剣は
飛ばされた
幸い、金髪の冒険者が使ったのが銅の片手剣だった為に火傷のような傷跡だけで死にははしなかったようだ。
「チッ、やっぱ
金髪の冒険者がそう言うと、手に持つ片手剣はブスブスと煙を上げながら無くなってしまった。
リーダーが倒された事により、動揺を見せていた
しかし、金髪の冒険者はなんでもない様に鞄からまた銅の片手剣を取り出すと獰猛に笑った。
そして、
一撃毎に剣は煙と共に無くなるのだが、あの小さな鞄に何本銅の片手剣が入っているのだろうか?
その答えは、リオ達と同じ魔法の鞄であった。
そして、容量の80%は銅の片手剣である。
勿論使い捨てにする為に大量に持っているのだ。
「あん゛? なんだ、お前のステータス、養殖か?」
「え?」
冒険者を全員倒した後、金髪の冒険者が言った言葉の意味をリオは理解できなかった。
その意味は、
それにより、結局は仲のいい先発組と後発組では遊ぶ事が難しく、後発組は次々とそのゲームをやめて行くことになった。
プレイヤースキルがない為に、強い敵に出くわせば、避ける等の行動が取れず、ゴリ押しの戦法で勝てる敵でなければ倒せず、作戦やチームでの戦闘が出来ずに飽きるのが早かったと言う背景もある。
説明はこれくらいにしておこう。
ともあれ、そんな事を知らないリオはポカンとした顔で、助けて貰ったお礼さえ忘れてしまっていた。
「いや、何でもない。 元の世界の言葉だ」
「貴方も、地球の人なの?」
「あぁ?」
ひょんな所で2人の勇者が出会った瞬間である。
「なんだ、テメェも勇者かよ。マジの養殖か?」
「ねぇ、養殖ってどう言う意味か教えてもらえるかしら?」
そして、リオはその意味を教えて貰い、納得し、そして、落ち込んだ。
「まあ、ゲームもやった事ねぇヤツが召喚された国の方針で養殖になっても仕方ねえんじゃねえか?
話を聞いて金髪の冒険者。
いや、エボルティアの勇者ユイトは的確にアドバイスをした。
金髪のヤンキーで言葉は悪いが、根は真面目だったりする。
「俺は、1人で強くなる為に今の戦い方を編み出した。 周りには笑われるが、魔力を通して武器の威力を高める。 だから鞄の中は安い剣でいっぱいだ。 まァ、鞄は国から押し付けられたとは言え、他人の力だがな。お前も勇者を名乗るなら、自分の戦い方を見つけてみな」
「リオ」
「ぁあ?」
「リオよ、私の名前。 ユイト、私も強くなるわ、貴方に負けないくらいに」
それだけ一方的に伝えるとリオは街に向けて歩き出した。
「へェ」
ユイトが見たリオの顔は、先程までのイライラや絶望は無く、晴れやかで決意に満ちていた。
「次に会う時は、楽しみかもな」
ユイトの呟きも、その後の不敵な笑みも誰にも伝わる事は無かったが、2人の共闘を、示唆していたのかもしれない。
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