第38話勘違い
リオは1人で帰ったケイトに追いついて、声をかけた。
しかし、ケイトは気づかずに歩いて行ってしまう。
諦めずに、近づきながら声量を上げて声をかけるもケイトの耳には届いていない様であった。
最終的には、叫んで周りにいた人に注目されるが、そのおかげでケイトは気づいた様で、リオの方へと振り向いた。
「あれ、リオ?どうした?」
「どうしたじゃないわよ! 貴方、怒ってるんでしょ?」
リオの質問に、ケイトは驚いた顔をした。
「どうしてそう思うの?」
ケイトは怒っている風ではなく、ただただ疑問だと言った風に質問する。
「何となく、ショックを受けていると言うよりは行動が拗ねてどこかへ行く子供のように見えたから」
リオは、自分が通う道場で負けた子供がどこかへ行くのと似ていると感じたのだ。
思いどうりに行かないで拗ねてしまう子供。
それは当たらずとも遠からずなのかもしれないが、ケイトはそれを聞いてリオに1つの質問をした。
「リオは出来るとすれば、元の世界へ帰りたいと思うかい?」
「何よ急に? まあ、私はあまり帰りたいとは思わないわ」
「そうなのか?」
ケイトは意外に思った。思っていた返答と違ったからだ。
「ええ。私は日本、私達が居た世界で自分が居ていいのか分からなかったわ。 私の育て方で両親が喧嘩して離婚したの。それからお母さんは別の男と再婚したわ。 幸せそうなお母かあさん、新しい父を見ていると私は要らないんじゃ無いかと思った。 そして、私を見るあの男の目がその幸せそうな母の笑顔を壊してしまいそうで悩んでいた時に、この世界に来たわ。 だから私は、帰らなくてもいいの」
リオの話を聞いて、ケイトは今までの自分の考えの間違いに気付いた。
誰もが帰りたいと思う訳では無い。
そう、
初めは帰りたいと言う人もいるならと考えていた。
それがいつしか皆が考えていると思い込んでいた。
しかし、こちらの世界で生きたいとなると、やはり今のままではいけないだろう。
今のままでは、待っているのは死だろう。勇者と言う肩書きを背負っているのだから。
「この世界で、勇者として生きたいのなら、君達は今のままだと死ぬよ?」
ケイトの突拍子のない言葉に、リオは顔を顰めた。
今、ケイトのやり方からレミントのやり方に変えて順調に目標であるBランクに向けて進み始めた所なのだ。
水をさされたくないと思ってしまう。
「確かに、君達の防具は強い。 だから、今の所はダメージもあまりないだろう。 だけど、勇者が挑むのは魔王や、それに値するモンスターだ。 連携も無しに、装備に頼っただけの戦い方で勝てるなんて思わない方がいい。 単独で戦う癖が着く前に、連携を覚えてもらいたかったんだけどね」
ケイトは、リオ達の欠点を指摘した。
それが、リオに届くかは分からない。 しかし、自分が関わった人間が死ぬのは余り受け入れられないのだから、道だけは示しておかなければと考えたのだ。
「今の君達は、重なるランクアップで調子に乗っているかもしれない。 だけど、これからこのパーティをまとめるのは勇者であるリオの役目になるだろう。 今のままランクを上げていくのも構わない。 その場合、僕のようなサポートは要らなくなるだろうけどね」
最後に、自嘲気味に肩を竦めるとリオに笑いかけ、その場を後にする。
ケイトの後をリオは追わなかった。
ケイトの言葉を一考しているのかは分からない。
余計に拗ねているだけと思われたかもしれない。
ただ、自分が居るうちは、皆が死なないようにサポートはしようと考えるケイトだった。
数ヶ月が経ち、ハスアマでランクの上がったリオ達アクアリアの勇者パーティは長距離のクエストも受けられる様になった為に、目的であるエボルティアへと足を進めていた。
道中の戦闘は各自で撃破。道中のモンスターは樹海よりも弱い為楽勝である。
ケイトは何もせずに、歩いていた。
連携を取らなければ、弓術士の出番はない。
リオも連携をとろうとしている様だが、上手くいっていないようである。
リュクスとはたまに連携を取れている位。
個人戦組、下手な連携組、
リオはあの時のケイトの言葉を受け止めてくれたみたいであるが、やはり、1度覚えた簡単な戦い方を変える様に説得する事は難しかったのだろう。
今、パーティの指揮は勇者のリオではなくレミントが行っている。 と言っても、指示などない各自撃破主義で、パーティの意味があるのかは分からない。
レミントに必要なのは勇者のパーティと言う肩書きだけなのだろう。
そんな雰囲気でエボルティアまで辿り着いた。
エボルティアに着いたら先ずは城へと向かい、王族へ挨拶をする。
冒険に出た勇者の顔見せも、この旅の重要な要素の1つである。
謁見の間に通されて、玉座の前で片膝を付き、頭を下げた。
リオを中心として全員がこの体制をとり、エボルティア王の言葉をじっと待つ。
「アクアリアの勇者達よ、楽にするとよい。 ワシは畏まったのは苦手じゃ!」
エボルティア王の声で、顔を上げることを許された。そうは言っても、言葉通りに崩していい訳では無い。 顔を上げ、エボルティア王の言葉を待つだけである。
「ホッホッホ、 同じ勇者でもこうも違うか 」
エボルティア王は自国が召喚した勇者と見比べ、リオ達を品定めしていた。
それから、当たり障りない社交的な言葉をエボルティア王から賜り、謁見の間を退出する。
その後は、別室に通されてまた話をする事になる。
今度は、エボルティアの王子達にその妻や婚約者も集まり、謁見の間とは違って会話する事も許されている。
レミントやリュクスも久々の姉との話に花が咲いている。
エボルティア王は召喚勇者のリオ達に興味を持ち、色々と話を聞いていた。
そしてケイトは、場の雰囲気を壊さぬ程度に、相槌を打つ程度だったとか。
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