第35話悪魔
この龍の祠と言うダンジョン、国や冒険者ギルドの管理下に無いダンジョンな訳だが、ドラゴンが守っていただけあって、トランフィヴノイズを手に入れたダンジョンとは入り口からレベルが違っていた。
フェルメロウは途中で箱庭を作るのを諦めたと言っていたから、Fランクダンジョンは頑張ったダンジョン。
そしてここの様に強い魔物から始まるダンジョンは早々に投げ出した箱庭だと言う事だろう。
ケイトは現在5階層。
それも、下の階層へと繋がる階段の前にいた。
BOSSモンスターと言っても、体格のいいモンスターで、ステータスが高かったと言う印象だけで、BOSSと言う概念があるのか、この階層の王なのかは分からない。
1度ダンジョンを踏破したケイトにとって、入り口のモンスターからすでに強かろうが、全く問題にならなかった。
あの時は、時を動かすまではレベルアップもしなかった為に大変であったが、今はレベルも上がり、使う武器も比較にならない程強い物だ。
時が止まっているのを抜きにしても、この辺りのモンスターなど相手にならなかった。
本当は、時を止めずにどこまでやれるかやってみたかったが、今回はリオ達に数日留守にすると伝えてきただけである。
その為、一階層から時を止めて攻略していた。
レベルが上がって止まった雑魚を殺していくのは、拾った枝で畦道の雑草を刈って歩く様な物で、今回はマトイも完璧にできる様になった事から練習の必要もないので、サクサクと足を進めた。
その結果、44階層までやって来た。
目の前には止まってはいるが、竜の群れがいた。
あの青色のドラゴンは、このダンジョンに無駄に人、だけではないかもしれないが、地上の生物が入って無駄に死なない様に守ってくれていた。
だから、この階層のモンスターを皆殺しにするのは不義理な気がして、この階層のドラゴンは、殺さずに素通りする事にしてケイトは先に進んだ。
それからどんどんと下へ進んでいき、気づけば体感2年ほどが過ぎ去っていた。
そしてケイトは、ふと思いついたことがある。
これくらいまで降りてこれば、あのドラゴンの様にモンスターは会話できるのだろうか?
と言う疑問であった。
試しに時間を動かしても、数日なら問題はないだろうと思い、ケイトは時を動かした。
久々の事なので忘れていたが、レベルアップの反動で胸が締め付けられるように痛み、息ができずに、必死に酸素を求めた。
前回の様にすぐに気を失わなかったのを褒めたいくらいだ。
ケイトは、自身が倒れるとわかった瞬間、時を止めてから意識を手放した。
ケイトが目を覚ますと、周りは何も変わっていなかった。
どれくらい気を失っていただろう?
気を失っても、時魔法は解除されなかった様だ。
目の前のモンスター達も、動いていなかったのだから分かりやすい。
ケイトは気を取り直して、再び時を解除して、今度こそ目の前のモンスターに話しかけて見た。
しかし、目の前の鎧を着たモンスターは呻き声を上げながらピクリと反応して、ケイトを視野に入れると、手に持った枝分かれした片手剣を振り上げケイトを攻撃してきた。
どうやら、話す事はできない様だ。あのドラゴンが特殊なだけなのだろうか?
間合いの外から、一瞬で距離を詰め、振り下ろされるモンスターの剣。
それをケイトは素早く
交差させた双剣とモンスターの剣が重なり、拮抗したちからで剣同士がカタカタと震える。
ケイトはゆっくりと顔の近くまで双剣を引き寄せると一気に力を入れて剣を弾き返した。
拮抗していた状況が嘘だったかの様に、モンスターの剣は弾かれた力ではるか後方へと飛んでいき、勢いよく壁に刺さった。
先程まで唸りを上げていたモンスターも呆気に取られた様に壁に刺さった剣を見て静まり返る。
その行動を見ていると、話せはしない物の、モンスターにも意思思考がある様に思える。
しかし、相手はこちらを攻撃して来た敵である。
動きの止まったモンスターをケイトは一方的に倒した。
一撃で倒せるわけではないが、一方的な物であった。
終わってみれば、あっけない物だった。
この程度であれば、命の心配はない為、次の回でも試してみようかと思い、そのまま下に降りる事にした。
しかし、あのモンスターは門番だった様で、下の階は、白い部屋だった。
ケイトが部屋へと足を踏み入れた時、白い部屋の真ん中へ巨大な箱が落ちて来た。
今回は時を止めて無かった為にギミックが発動したようだ。
前回のダンジョンにも、この仕掛けはあったんだろうな。なんか、ゴメン。
ケイトがそんな事を考えている内に、箱は自動的に開いて、中から鎖で雁字搦めにされた人型の何かが出てきた。
その何かは、鎖を引きちぎりながら外へと出ると雄叫びを上げて飛び上がった。
飛び上がる時に鎖の中に閉じ込められていたであろう翼を広げて鎖を完全に引きちぎる。
何かは手足をだらりと下げて空中からケイトを見下ろした。
顔、上半身は包帯で巻かれ、手首、足首には引きちぎった鎖の枷。
包帯から出る髪の毛は人の様だが、背中のあたりから2対4の羽。
蝙蝠のような特徴があるその羽根、金の刺繍が入った黒のズボン、上半身裸に包帯。
何処か悪魔を彷彿とさせる見た目だった。
飛び散った鎖がケイトの方まで飛んでくるが、鎖を意に介さずに悪魔の様な何かをケイトは見上げた。
「majp'otp/#Dat&A,md.t@!!」
悪魔のような何かが言葉を発するが、ケイトに意味は理解できなかった。
「tdmw.t@aj/…あ、あー。 これか? なんだ、1階層の生き物がここまでたどり着いたのか?
貴様、名はなんと言う」
突然、言葉が理解出来るようになった事に驚きながら、ケイトは言われるがままに名前を名乗った。
「…ケイトだ」
「くくくく、1階層の生き物ケイトよ。 名をそんなに簡単に名乗らぬ方がよいぞ? 名が分かれば意思を縛られ、従属させる魔法を使う者もおる。 しかし、俺は気分がいい! 神に守護者として閉じ込められどれくらい立ったことか。 我が役目を果たし貴様を屠ってやろう! しかし、我を倒せた暁には、我が後ろにある箱を開けるがいい。 では行くぞ!!」
悪魔の様な何かは、長ったらしいセリフを言った後に、ケイトへ向かって急降下した。
ケイトは、双剣のままだったトランフィヴノイズで、悪魔の様な何かの拳を受け止めた。
鑑定で調べた悪魔の様な何かのステータスはunknownであり、力のせめぎあいから見ればケイトと同程度。
先程の様に、途中から圧倒する事は出来なかった。
「くくくく、その力を使うのかケイトよ。アヤツを倒すほどの力、我に示せ!」
間合いを取った悪魔の様な何かは影で槍を作り出した。
ケイトは
槍と
「ケイトよ、楽しいがこれで終いだ! 我の最大級の力を見せてやろう! 死にたくなければ
悪魔の様な何かは再び空中へと舞い上がり槍を腰に溜めて構え、突撃体勢をとった。
その身体中から濃霧の様な闇色の霧を出して、全身を覆い、その濃霧が槍の切っ先を先頭にドリルのような螺旋状を描きながら高速回転する。
悪魔の様な何かが踏み出そうと翼を羽ばたかせた瞬間、その体勢で止まる。
ケイトが時を止めたのだ。
「俺に
いつの間にか可変させ、弓の形に変えたトランフィヴノイズを引き絞り、ケイトは悪魔の様な何かへと語りかける。
「ま、聞こえちゃいないだろうけどさ」
ケイトはゆっくり悪魔の様な何かの周りを円を描く様に、飛んでは
「アデュー」
何となく、使ってみたくなったそんな別れの言葉を口にしてケイトは時を動かした。
時が動くと同時、悪魔の様な何かは死を悟った。
自分が相手にした1階層の住人は自分よりも凄い隠し球を持っていたのだと。
それも神の如き技なのだろう。
手に構えた槍を砕かれ、自分の周りに作った衝撃対策用の濃霧のバリアも貫かれ、体を引き裂くように矢が四方八方から撃ち抜かれる。
悪魔の様な何かは驚愕に顔を歪めたまま、塵さえも残さずに消滅した。
今のケイトのステータスを持ってしても時を止めなければ互角の戦いを繰り広げた相手であった。
悪魔の様な何かが居なくなったこの階層にはポツンと置かれた箱だけになった。
この箱、以前のダンジョンでは時を止めてトラップの類を防いでいた。
なので今回も時を止めて箱を開けることにする。
箱の中から出てきたのは一枚のローブだった。
色合いは先程の悪魔の様な何かが使った濃霧の様な濃い闇色であった。
どこかトランフィヴノイズと似ている気もする。
《ノアイルロズィ》契約者ケイト
あの時の様に契約者として登録された様だ。
ケイトは、今着ているローブを脱いで、ノアイルロズィを着てみる。
「色が濃くなっただけで、装飾品が減ったから地味に見える?まあ、いいか」
装備して、ステータスをチェックすると、ステータスは下がっていた。
この装備も、トランフィヴノイズの様に倒した生物の数で能力が上がっていくのだろう。
そう思うと、今はまだ使う時ではないか。
一旦ローブを元に戻して、ケイトは地上へと引き返していく。
時を止めるのを忘れてしまい、空腹で気づいた時には相当の時が過ぎていた。
途中で止めたはいい物の、戦闘で使った時間やや村での事を考えると、約束の期日を過ぎてしまうだろう。
戻った時にリオ達になんて言おうか、言い訳を考えながら、地上へと向かうのだった。
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