第36話別行動

ケイトが休暇を取った初日、レミントは清々しい朝を迎えていた。



今日からあの鬱陶しいやつが居ない。


レミントを祝福するかのように外は晴れ渡っている。


リオ達は、ヤツの事を頼っているようだが、俺に言わせればヤツの弱さに合わせる内にチーム全体の質が落ちている。


わざわざ国宝級の武具を使って戦っているのだ。


1人一体倒すのが得策であり、モンスターの反撃なんぞではダメージを食らう訳が無い。


なのにあの男、ケイト・クロノグラフときたら、父上が推薦したからと、ちまちました連携を得意げに教え、後方から下手くそな矢を放ってはサポートをしていると言い張っている。


タチが悪いのは父上の覚えが良い事だ。


父上は初代国王陛下を敬い過ぎている。 過去の栄光など廃れるものなのだ。


だから私が勇者を導き、勇者の血を再び王族に入れようと頑張っていると言うのに。


とまぁ、愚痴を考えるのもここまでにしておこう。


ヤツは私が国王になった時に名を取り上げて下民に落としてしまえば良いだけの事。


ヤツが居ない間に、自分達の本当の強さとアイツの教えの無意味さをリオ達にちゃんと教え、アイツが邪魔だと言う事を理解してもらわねばな。


そして、私の素晴らしさを知ったリオは私と結ばれるのだ!


「うん、やはり清々しい朝だ!」


これからの未来を想像しながらレミントは窓を開けて外の空気をめいっぱい肺に取り込んだ。



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「それでは、今日は私が指示を出そうではないか!」


今日はレミントさんが妙に張り切っている。


ケイト君が今日から用事で休む事になったので、チームを引っ張ろうとしているみたい。


大丈夫かな? と胸の内では思いながら、アスカは樹海へと足を踏み入れた。



モンスターの攻撃を腕で弾き返し、反対の手で棍棒をモンスターの顎に向けて思いきり振り上げる。


顎に強打を食らったモンスターはたたらを踏み、反撃の威力も低くなった。


その攻撃をアスカは肩で受止め、微弱なダメージを無視して、両手で横薙に棍棒を足に向けてフルスイングした。


ゴキリ、と骨の折れる音が聞こえてアスカは顔を顰める。


これまで聞いた音だが、今だに慣れる事はない。


それでも、手を止めることなく、足が折れ、立ち上がれなくなったモンスターを撲殺した。



周りではほかのモンスターを皆がバラバラに倒している。


初めは、いつもの様に連携を取ろうとしていたアスカ達だが、ケイトの指示なしでは連携が上手く取れずに四苦八苦していた。


そこへ、今日はレミントがしきりに、連携せずに各自別々に戦う事を主張して来た。


無駄な連携をするよりも、各自別々に戦う方が効率が良く、連携等は一般の冒険者が、力が足りないやっている愚策だと力説していた。



そして、うまくいかない連携に、魔が差した様に、レミントの意見に耳を傾けた。



アスカ達は、試しにレミントの提案を受け入れ、各自戦う様に作戦を切り替えたのである。


あぶなければ、即時撤退と決め事をした上で。


結果的に言えば、レミントの意見は正しかった。


今まで連携していた時よりも効率よくモンスターを撃破して、ギルドランク昇格に必要なポイントを稼いでいる。


各自別々に戦えば、人数分早くモンスターを倒せるから当たり前かもしれない。


このまま行けば、ランクがひとつ上がるのもあっと言う間だろう。


その日はそのまま、日が暮れ始めるまで、ケイトがいる時よりも長い時間モンスターを各自バラバラに狩り続けた。


連携の事を考えない分、無意識下の精神的な疲労が減り、長時間狩りをする事が出来たのだった。


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「「「「「乾杯!!」」」」」



狩りを終えた後の食事の席で、リオ達はジョッキをカチンと合わせた。


こういう事が出来るようになったのはレミントが旅に慣れてきた証拠だと思う。


旅を始めた頃は下品な行為だと言って、1人だけグラスをクイッと上に上げるだけで済ませていたのだから。


これだけ盛り上がるのは、今日の狩りの成果がいつもの3倍以上あり、気軽に話せる程に仲良くなった受付嬢に驚かれて「この調子ならFに上がるのも時間の問題ですね」と笑顔で言われたので、いつもよりテンションが高くなっていた。


テーブルには料理が並び、メンバーはそれをつまみながらそれぞれ会話を楽しんでいる。


リュクスは、必死に食べ物をリスの様に口に詰め込みもきゅもきゅと咀嚼し、アスカに口を拭いてもらっている。


そのアスカには、トモヤが必死な様子で話しかけようとしていた。


最近のトモヤの様子を見て、トモヤはアスカのことが、好きなんだろうなとリオは思っている。


そんな事を考えながら、その光景を見守るリオは、それと同時に自分の今日の成果を武勇伝の様に話してくるレミントを話半分に相手をしていた。


もう慣れたもので、この鬱陶しさを流しながら相手をするのに違和感はない。


自分でも大人になったと思う。


日本むこうにいた頃ならこんな話は切って捨てていた所だろう。


自分は、この世界に来てよかったのだと思う。


あの男の事などどうでもいいが、お母さんは、その方が幸せになれると思うから。


「聞いているか? リオよ、 私が指示を出せばあやつより上手くいくのだ!」


「はいはい。 聞いていますよ、殿下」


少し沈みかけた気持ちをレミントの言葉が遮ってくれた。


こういう時は、彼の鬱陶しい話も少しは役に立つ。と失礼な事を考えてしまったことをリオは愛想笑いで誤魔化すのだった。



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食事が終わり、リオ達が各自の部屋に戻って休んでいる頃、一人の男が自室にてほくそ笑んでいた。


「俺の思いどうりに行くなんて、やっぱり俺がこの世界の主人公だったんだ!」


あの日、俺はあの人の前で恥を欠かされようとしていた。


俺を虐めるDQN達に、好きなあの子のスカートをめくってくる様に命令されていた。


そのままでは、接点もないまま変態扱いされて、嫌われるはずだった。


だけど天は俺を見捨てなかった。


俺とあの人をお邪魔虫がついて来たものの、異世界へ送ってくれたのだ。


そのおかげで、俺はあの人に嫌われずに済んだ。


そして、俺は勇者では無く巻き込まれたと言う主人公足り得る状況でこちらの世界に送られたのだ。


これは運命だった。


あの女は、勇者なのに、努力して夜な夜な剣を振っているらしいが、俺はそんな事をしなくても楽々とモンスターを倒している。


最近は魔法をアレンジできないか考えている所だ。

俺はこの世界の主人公なのに、俺の考えを否定して来た嫌な男がいたが、アレは無視だ。


っと、話がそれたな。


しかし、あの男はこのパーティで唯一まともだった。


だが、あの人の信頼を得ようとしていたあの男は、用事が有るとかでしばらくパーティからいなくなったのだ。


だから、王子を少しそそのかしてやった。


「今の内にあの男の間違いを正して、あの男の必要の無さを教えましょう」


ってな。


この世界で弓職は最低職らしいし、それだけで十分だった。


連携と言うまともな戦法を棄てるのは危険だが、主人公たる俺の強さがあれば、あの人を守ることは可能だろうしな。


後は、頃合いを見てあの人を連れてパーティを離脱して、邪魔者の居ない旅を楽しみながら魔王を倒して貴族にでもなって、あの人と幸せに暮らす。


いや、いっそ王様になるのも面白いかもしれないなぁ。前の勇者は王になったそうだしな。


こうして、男の妄想よくぼうは広がっていく。


「待ってて下さいね。 アスカさん!」


その言葉は、誰の耳にも入らずに夜の帳へと消えていった。

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