第33話樹海の先

樹海へ入ったリオ達は、ケイトの後方からのアドバイスを貰って、連携の動きを練習しながら浅いエリアの中でも最も浅いエリアを進んでいた。


しかし、連携の練習の熱量にも温度差があった。

レミントは、弓術士であるケイトに後ろから指示されているのが気に入らないようで、連携を無視しての単独行動が目立つ。


そのレミントの行動が原因で隙ができてしまい、モンスターの反撃を許してしまう。


連携が崩れていないのは、ケイトの弓がモンスターを牽制しているからなのだが、レミントは気づいていないだろう。


今も、レミントに飛びかかろうとした虎型のモンスターの顔の前をケイトの矢が通ってモンスターを怯ませた。

その怯んだ隙に、体制を整えたレミントは振り向いた遠心力を利用して逆袈裟斬りにバスターソードを振り抜いた。


モンスターは血飛沫を吹上げるが、まだ絶命には至っておらず、反撃の為に鋭い牙を光らせてレミントへ飛びかかろうとした。


しかし、後ろで構えていたリュクスが、その隙を与えずに、モンスターの眉間へと槍を突き出した。

飛びかかろうとしたモンスターは、動き出した体を止める事も横に避ける事も出来ずに眉間から槍に貫かれて絶命した。


モンスターを倒したリュクスを、守るようにリオとアスカが武器を構える。


槍を魔物から抜くまでに、大きな隙が出来てしまうため、仲間がフォローするのだ。


本来なら、レミントがフォローするのがベストなのだが、次のモンスターへと向かってしまっている為、期待できない。

トモヤは、レミントのフォローに追いかけ動いている。


そんなこんなで、この日は連携を崩すレミントをフォローしながら浅めの所で狩りを続けた。


それでも初めの頃よりは連携は取れてきた。

レミントの動きを皆が予想できて来たのもあるし、レベルが少し上がったり、人によっては新しいスキルを覚えたのではないだろうか?


まだ冒険者ランクが上がる程ではないが、これを続けていけばGランクもすぐだろう。


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ハスアマの樹海で狩りを続けて数日。


本日は疲れを取る為に休みにした。

連日なれない連携をとりながらの戦闘で、集中力もすり減らされる為に2日程完全休日としたのである。


朝からレミントは外出している。

トモヤも、レミントに連れられて早くから出て行ってしまった。


このハスアマは樹海の近くであり、素材を持ち帰る冒険者も多い事から、それによって賑わいをみせ、豊かな街である事からレミントも退屈しないのであろう。


そして、ケイトはと言うと。


冒険者ギルドの許可を取り、1人で樹海へとやって来ていた。


ケイトが居るのは、ギルド内では樹海の深層エリアと呼ばれる冒険者達が入った事のある到達点である。

その奥はまだ未開の地であり、どうなっているかはまだ分かっていない。


そんな深層エリアをケイトは軽快に走っていた。

時を止めているわけでもなく、リオ達なら一撃でやられてしまう様なモンスターが出現する。

しかも、群れを作っているモンスターもおり、今、ケイトの目の前には群れを成したモンスターが群がっていた。


そこへ突入すると、ケイトはトランフィヴノイズを取り出した。


ケイトはニヤリと口角を吊り上げるとその黒い立方体をルービックキューブの様に指を使って回転させた。


すると、いつもの弓とは違って、雰囲気は似ているのだが、剣を2本持ち手でくっつけた両剣が現れた。

モンスターの中心で、両剣を振り回して踊るように舞った。

スキル《演舞》《両剣術》を利用した戦闘法だ。


ケイトが舞い終わった時、両剣トランフィヴノイズの届く距離に居たモンスターは細切れになって息絶え、崩れ落ちた。


そして、ケイトは残ったモンスター達の方へ向かう。


走りながらトランフィヴノイズを瞬時に組み替える。

一度、立方体の状態に戻して、またルービックキューブの様に組み替えた。


次は双剣トランフィヴノイズ。


先程とはまた形状の違う2本の少し短い剣が現れ、それを逆手で持った。


ケイトは迫り来るモンスターを片方の剣で切り伏せ、逆の剣でまた別のモンスターの攻撃を受け流し、また逆の剣で切る。


ケイトは残りのモンスターの群れを残らず全滅させた。


ふぅっとケイトは一息つくと、ゆっくりと歩きながら双剣トランフィヴノイズを立方体の状態に戻した。


ケイトの目的は別に深層エリアでモンスターを倒してレベルを上げることなどでは無い。

未開の地の先には何があるのかが見たかったのであった。


何処からが未開の地なのかは区切りがされている訳では無い。


出会うモンスターがほぼ一撃の元に倒せてしまうケイトは、何処からが未開の地なのかの分からぬままに、樹海を抜けてしまった。


樹海を抜けた先に現れたのは岩場であった。


正確には軽く傾斜が始まり、その先は山へと繋がっている。


ケイトはそのまま山を登るべく、足を踏み出した。


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「そこのお前、止まれ!」



ケイトは声をかけられて足を止めた。


ケイトの進む方向に、5人の男が槍を構えていた。


ケイトは、未開の地の先に人が居るのに興味を引かれ、そして争うことは考えていない為に両手を上げて抵抗の意思がないことを表した。


「お前、だな。 どうやってここへ来た?」


「普通に樹海を越えて来たけど?」


ただびとと言う言葉は気になるが、鑑定した所、ステータス的にケイトの敵ではない。

その為、なんでもないように話した。


鑑定で気になった事もあるが、それは置いておいてもいいだろう。


「ただびとが森を越えてきた? 目的はなんだ?」


「いや、未開の地の先はどうなってるのか気になってさ」


「我々と敵対の意思はないと?」


「人が居るのも知らなかったし、何か面白いものでもないかと思ってさ」


「…我が村に招待する。 只、拘束させてもらうが良いか?」


「それで納得できるのなら」


ケイトは、大人しく手枷をされてついて行く事にする。

5人の内1人が先に走って行ったが伝令役だろうか?


「こちらから拘束しておいてなんだが、俺達がお前をまともに扱う保証はないぞ?」


「そう聞く時点で何もしないだろう?」


この手枷を付けた途端に気だるい感じがしたのを不思議に思い鑑定した所、ステータスを半分にする特殊な手枷だった。


半分だからどうとでもなるのだが、もっと凄いバットステータスならと考えると冷や汗が流れる。

次からは付ける前に鑑定を行おうと思ったのは秘密である。


「お前面白い奴だな! まぁ安心しろ、悪い様にはしない!」


男はそう言った後、村に着くまで話す事はなかった。




村に着くと、伝令が伝わっていたのか最も奥に立つ、一際大きい建物へと連れていかれる。


中では6人の男性が長机に座って立っており、ケイトを連れて来た男は緊張からピンと背筋を伸ばしている。


「さて、ゲイツよ。そやつが森を越えてきたただびとか?」


「はい、 本人はそう言っております」


「さて皆よ、どうしたものか?」


1番上座に座る男が質問を投げかけた。


ちなみに、ゲイツと呼ばれたのはケイトを連れてきた男で、上座に座る男は髭を蓄えた老人だ。


「斥候の恐れがある。 殺してしまうのが良いのではないか?」


「それは早計だろう。 こやつが斥候ならただびとは森を越える力を手に入れた事になる」


「確かにそうだ。 こやつの目的が我々に害をなさないなら認めるのもありではないか?」


「なにを! ただびとを受け入れろというのか?」


「そうは言っておらん。 褒美みたいな物だ。 ただびとにしては強いと言うことだしな」


ケイトについての議題が進んでいく。


「お前を殺すべきと言う意見もあるが、 お前は何をしに来た? 龍の祠にでも忍びに来たか?」


上座の男がケイトに質問した。


「龍の祠?」


男の質問にあった言葉にケイトは興味を引かれた。

まさに冒険らしく素敵ワードではないか。


「違うのか? なら何用で森を越えてきた?」


「森の先に興味があったので」


ケイトが和かに答えるが、部屋の中は「戯言を!」「騙されてはいけません!」などと意見が飛ぶ。


「はっはっはっ。 しかし興味を持っただけで殺されるかも知れんぞ? 今は反対側の意見の方が多い」


「大丈夫ですよ。 俺は強いですから」


「ほう、この状況でそれを言うか。 その手枷は特別製。 お主はこの状況をどう覆す?」


男は質問と共にケイトを見定めるように睨み、周りが殺気立つ。


「こういう感じですで、どうですか?」


ケイトは上座に座る男の後ろに立ち首筋に剣を添えていた。


男が押し黙り、部屋に緊張がはしった。


ケイトのやった事は簡単だ。

時を止めてゲイツの腰から剣を抜き、男の後ろへ回って剣を首筋に添えて時を動かした。

たったそれだけ。


「まあ、やりませんけどね。 俺はここを潰す事なんて簡単。 だけどそれをしない。 これで答えにはならないだろうか?」


ケイトの言葉に部屋に漂った緊張が緩んだ。

部屋全体を笑い声が包んだ。


「はーっはっは! 済まない客人よ。イタズラが過ぎた。 コレは儀式みたいな物だ。 どうか、怒らないでほしい」


そう言って上座の男以外がケイトに向かって謝った。


聞けば、これはこの村に伝わる昔話に準えたイタズラの様なものらしい。

昔、森を越えてきた勇者がこの状況から村人達との腕試しによって力を認められ、仲を深めた話に準えて、腕試しを誘う為の演技と言う訳だ。

しかし、その上を行く行動をケイトが取った為に皆笑いだしてしまったのだった。


「客人よ、ただびとでは失礼だ。 名を教えてはくれないか?」


「ケイト。 それより、聞きたいことがある」


「ど、どうしたケイトよ?」


ケイトの食い気味の反応に上座の男は引き気味に返事を返した。


「龍の祠ってのはなんだ?」


このケイトの発言に、自分の発言を少し後悔し、顔を引き攣らせる上座の男だった。


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