第31話弓術士の扱い
冒険者ギルドで冒険者登録をした日の夜。
ケイト達は、今後の方針について話し合う為にケイトとトモヤの部屋へ集まっていた。
良い宿を取っただけあってテーブルスペースは広く、全員が円になってテーブルを囲むことが出来る。
「それで、今後についてだけど、どうすればいいと思う?」
リオはテーブルを囲む仲間を見渡し、最後にケイトで目線を止めた。
「まずは外交的面を考えて他の国を順番にを回るべきだろう」
レミントの意見に頷きながらも、リオはケイトにも質問した。
「あなたはどう思うかしら?」
「何か気にいらない所があるのかね、クロノグラフ卿?」
リオの言葉を聞いて、レミントはケイトに不機嫌そうに尋ねた。
「いえ、殿下の仰る通りだとおもいますよ」
ケイトはレミントの意見を肯定した。
特に間違った事は言っておらず、道中に色々なモンスターと戦ってレベルアップもできる。
それに、ケイトの目的の為に、他の国の勇者とも接触しておきたかった。
「そう…」
レミントはケイトの返事に満足したようだったが、リオの返事は少し歯切れが悪かった。
「リオ、何か気になることでもあるの?」
リュクスがその様子を見て、リオへと質問する。
「ええ。 私達もモンスターを倒して経験を積んではいるのだけれど、強くなっている実感が少なくて。 他に何か強くなる方法はないかと思って」
「それは武具が強いのだから当然だろう。聖剣を使っていて苦戦する様では勇者としての実力も疑われると言うものだ」
レミントはさも当然と言った様に語る。
しかしリオはそう言った事を聞きたかったのではない。
レミントの言う様に武器の力でモンスターを難なく倒して来れた。
それなら自分達でなくても良いのでは無いかと考えたのだった。
アスカ以外はこれまでの旅でスキルを取得してもいない為、余計にそう思うのかも知れない。
「まだ町や村の周辺で弱いモンスターしか出ていないからな。そう簡単に強くなれるなら勇者になど頼ったりしないだろうさ。
まだ旅は始まったばかりだ。人の生活圏外である樹海の先、それからダンジョンへ潜れば普通の冒険者では適わないモンスターが出てくる。 過去の勇者様でもダンジョンの途中までしか行けなかったそうだ。
そこまで行けば、武器だけの力では無く、自分のステータスを上げないとモンスターに太刀打ちできない」
「ふん、そこまで行けば索敵能力のない後方支援など役に立つかどうか」
レミントがケイトに嘲笑のこもった言葉で返事をした。
リオは、嫌な空気になりそうだったので、話題を変える為にトモヤへ話しかけた。
「ハシモト君は漫画とか好きだったわよね。他に強くなる方法は思いつかない?」
「えっと、漫画とかだと、まずは体や武器に魔力を流せないか試すんだ。 そうやって始まる漫画が多いかな。試行錯誤の初歩の初歩だよ」
トモヤがイキイキと知識を披露するが、この世界でそれが通用しない事はレミントもリュクスも知っていた。
何故ならこの世界で体や武器に魔力を流す事は馬鹿がする事だと教えられるからだ。
「それは無理だよトモヤ。 先代の勇者もそれは試みたらしいんだけど。 失敗したんだよ。 武器は砕け散り骨が砕けたんだって。 そのせいで旅が中断したって本には乗ってる」
リュクスの一言でトモヤは顔を青くした。
試していればこの旅も中断したか、トモヤを置いて行ったであろう。
しかし、トモヤの発言は半分は正解であった。
何故なら、リオの武器はミスリルの剣あり、魔力との順応性が良く、鉄の剣の様に砕けたりしない。
それが聖剣と呼ばれる由縁であろうが、その戦い方は伝わっておらず、勇者が使う聖剣は青く光を放つとだけ伝わっている。
しかし、剣に魔力を流す事はタブーとされている為、聖剣に認められれば光を放つと伝わってしまっているのだ。
ケイトはマトイを使って戦うし、ダンジョンでミスリルや他の魔力と親和性の良い武器を持っている為、知っているのだが、あえて言う事はしない。
今言っても、面倒くさいだけだからだ。
「だからこそ、ステータスが求められるのだ。
勇者はステータスの成長速度が普通の人とは違うからな。
勿論、アスカやトモヤも同じだと思うがな。
しかし、それ故に父上が貴様をこのパーティに入れたのかが分からない。
ステータスで強さが決まると言うのに、何故弓術士などと」
「どういう事なのレミントさん?」
「弓術など狩人の技でしかない。
勇者のパーティには相応しくないのだ! 矢にステータスが乗る訳ではない。 弓での攻撃など小動物を倒す事にしか使えない。モンスター相手では牽制の意味しかない」
「でも兄様___」
「リュクスは黙っていなさい。この旅でクロノグラフ卿が倒したモンスターはいないだろう? それは倒せないからだ。故に国から武器も渡されていない。 違うかね?」
レミントの発言はケイトを見下した発言であるが、弓の扱いはこの世界においてはこんな物だ。当のケイトは肩を竦めて苦笑するだけに留まった。
それはケイトも何も知らずに弓術を覚えた時にそれに使った時間を後悔した経験があるからだった。
それに、この場でケイトが反論したとしても、負け犬の遠吠えの様に聞こえるだろうし、レミントにどう思われていようと興味もなかった。
この話も雰囲気が悪くなると分かってか、リオはまた話題を変える。
「でも他の国を巡るとなると、どの順番が良いのかしら?」
リオの質問にレミントは、王太子として、国の配置や行きやすい順場を提案した。
そして決定したのは、エボルティア、ウィンダム、アースランド、フレミュリアの順番であった。
エボルティアは場所で言えばウィンダムより遠い場所にあるのだが、アクアリアの長女、つまりはレミントやリュクスの
それ以外の場所は巡りやすい順番である。
冒険者ランクを上げてダンジョンに入れる様になる事も考えなければいけない。
今のランクでは厳しいかも知れないが、後には護衛なども受けてランクを早く上げようと言う事も決まった。
これからの予定も色々と決まり、この日は解散となった。
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話し合いの後に、恒例となった特訓にやって来たリオとアスカは、先程の話の内容で、気になった所を話していた。
ちなみにリオだが、アスカに特訓の話を聞いて、この特訓に参加する様になっていた。
トモヤにも声を掛けたが、自分はいいと断られた。
「だけど、レミントさんの言い方はケイトさんに対して失礼ですよね」
モンスターを一撃で仕留めたアスカは先程のレミントの言葉に対しての不満を漏らした。
「それが、この世界の常識だから仕方が無さ。弓術士は矢にお金がかかる金食い虫で、その矢もモンスターにはたいしたダメージを与えられないからな」
「でも、強い弓矢を使えば変わるんじゃないんですか?」
「単純に矢を丈夫にすれば、重くて飛距離が減る。弦を強く張れば弾くのにそれ相応の力がいる。それなら剣術を覚えた方が役に立つ。
弓を使うのはそれだけの能力が低く、遠距離魔法の才能もないから。 上級冒険者のパーティには弓術士はいない位には常識だな」
「でも貴方は違うのよね? 勇者のパーティに国王自ら推薦するのだから」
ケイトの弓術士に対しての酷評にリオが質問した。
「所詮、弓術士さ。国王に君たちのサポートを頼まれる程度のね」
ケイトはリオの鋭い指摘に苦笑いで答えた。
「ほら、またモンスターがやって来たぞ?」
ちょうど良くモンスターが現れた事で話がそらせた。次のモンスターにリオが挑んで行く。
今はまだケイトの状態を話すには早い。
アスカがじっとケイトを見ている事を考えると、二人に何か勘付かれているのかも知れないが、自分から言う事はないだろう。
着実にこの2人は成長している。
もう弱いモンスター単体なら簡単に倒せてしまうほどに。
ただ経験値を稼ぐ様な時間はこうして過ぎていくのだった。
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