第30話冒険者ギルドのテンプレート
王都アクアリアを旅立って数週間が経った。
ケイト達は、小さな村を何個か通って、少し大きな町へとたどり着いた。
これまで村ばかりを経由して旅をして来た。
そして、村がない場合には野宿まであった。
それはもう散々な旅路だったのだが、そのおかげもあってか、アスカが棍術を習得した。
そして、レミントが村のボロ宿、はたまた野宿でも文句を言わなくなるという成果があった。
いや、少し小言程度には言っているが、最初の頃に比べれば可愛い物である。
そんなレミントはこの街に来る手前で「町では1番いい宿をとるぞ!」と豪語する辺り、そろそろ我慢の限界だったのだろう。
しかし、この町に着いて1番にする事は宿で休憩ではなく、冒険者登録である。
勇者として、レベルアップして強くなる為にダンジョンへ潜る事は欠かせない。
なので、最低でもBランクになってダンジョンに入る為の資格を取らなければ行けなかった。
アクアリアの城下町で登録してもよかったのだが、あちらでは勇者の噂が立っており、レミントやリュクスが王族なのもあって、トラブルに巻き込まれる事を考えた結果、次の町まで登録を見送ったのであった。
冒険者ギルドへと入ると、昼前になっていた事もあり、冒険者はクエストに出かけたのか、ギルドは比較的空いていた。
「皆はあっちで登録して来てくれ、俺は向こうで討伐報告して来るから」
ケイトはそう言って首に付けてある冒険者タグを摘んでをヒラヒラと揺らした。
リオ達はケイトが既に冒険者登録していた事に驚いていたが、ケイトは返事を返さずに窓口へと向かった。
「討伐報告をお願いしたいんだけどここでいいかな?」
「はい、それではタグをコチラにかざして頂けますか?」
そう言えば、冒険者タグがバージョンアップしたのだ。
と言っても、ケイトが召喚された国の端末が古かっただけで、ウィンダムですぐに新しい物に変わったのだけど、学園に通っていて遂には使う機会はなかった。
以前はモンスターを倒したら討伐部位を持ち帰って報告を行っていた。
一般的な冒険者は、ケイトの様な
なので、討伐部位を持ち帰って来るのも大変であった。
ゴブリンの耳だとしても量が多ければ嵩張るし、強いモンスターほど大きい物になる。
それに、モンスターの中には素材が売れるものもあり、持って帰るのも一苦労。
帰還途中にモンスターと出くわせばそれだけで不利な状況となる。
そして、報告へ帰ってくる冒険者を狙って成果を奪う冒険者狩りも過去には流行していた。
それを踏まえた上で開発されたのがモンスターのデータベースにリンクさせ、討伐したモンスターの情報を冒険者タグへ取り込んでカウントすると言うシステムであった。
基本的に勇者が見つけたオーパーツが使われており、オーバーテクノロジーであるが、討伐数のカウントに間違いはなく、魔物の強さも予測値として保存される為、討伐部位などよりも信頼されている。
ただ、五大大国でしかシステムが起動しないのがネックである。
多分、地脈と関係があるのだろうが、研究は進んでいない。
ともあれ、冒険者タグの情報を読み込んだ機械を、受付嬢は慣れた手つきで操作し始めた。
「ケイト様ですね。 えっと、討伐数は……」
笑顔で話しながら操作する受付嬢の笑顔がヒクリと不自然に動いた。
「ケイト様、少し、すこーしお待ちいただけますか?」
受付嬢の言葉にケイトが了承すると、受付嬢はいそいそと奥へと向かっていった。
手持ち無沙汰になったケイトは、カウンターを肘置きにしながら、冒険者登録用の受付の方を見た。リオ達は今から受付を行う様である。
懐かしさを感じながら、ぼうっとリオ達が真剣に話を聞く様子をみていると、先程の受付嬢が戻って来て奥の部屋へと通される事になった。
この状況は過去にギルドマスターの部屋に倒された時と同じである。
ケイトはトラブルの予感に背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
この状況で、時を止めて逃げる事はできない。
リオ達を置き去りにするわけにはいかないのである。
なんて思っていたのも束の間、このギルドのギルドマスターは、ケミルト王から話が伝わっていたらしく、騒ぎにならない様にこの部屋へ通してもらったようだ。
タグの情報には、ドラゴン他、ダンジョンの奥の化け物達の情報がはいっているので、ケミルト王の機転に感謝である
「それにしても、ケミルト王に聞いていた以上の情報がダグに刻まれているのですが?」
「知らない方が幸せな事もあるぞ?」
ケイトは出された紅茶をふうふうと冷ましながらゆっくりと飲んだ。
「そうですね。タグの情報を見るに噂の少年の様だし、全て納得する方が良さそうだ」
「噂の少年?」
「はい。何年か前に1人でゴブリンの森を壊滅させた子供のルーキーが居たみたいですね」
「懐かしい話だな」
ケイトは茶請けのクッキーに手を伸ばし、久々の甘味に頬が緩んだ。
「やはり貴方ですよね。しかし、同一人物で良かった。ポンポン化け物みたいな実力の子供が居ても怖いだけだからな」
「化け物ですか?」
ギルドマスターの棘のある言葉にケイトは何でもない様な感じで質問した。
「ドラゴンを単身で倒せる人は化け物でしょう? 過去に勇者が倒した記録はあるが、勇者5人でなんとか倒したと言う事だからね」
ギルドマスターはやれやれといったジェスチャーを混ぜながらはなす。
「さて、ギルドマスターと国王の推薦があるんだ。これで君もAランクだ。ドラゴンを倒しているのにAランクかと不満もあるかも知れないが、 Sランクは3カ国の王と3人のギルドマスターの推薦と承認が必要だ。 Aで勘弁してくれ」
「 Bでもいいですよ?ダンジョンに入れればそれで」
「ハハハ…それでは私が後々怒られるでしょうからAにしてくださいね」
ギルドマスターはケイトの反応に疲れた様子で答えた。
「はぁ。頼みますからクロノグラフ卿でいてくださいね」
「 今の所これはべんりですからね」
「私は貴方と敵対しない事を心から誓いますよ」
「…そうですか。 それじゃ、俺は仲間達の所へ戻りますかね」
この日のギルドマスターは精神的な疲れで仕事が手につかなかったとかなんとか。
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時間は少し巻き戻り、リオ達は冒険者登録をしていた。
「それでは、これで登録完了になります。 続いて冒険者タグの機能を説明させていただきます」
登録を担当してくれた受付嬢が、冒険者タグについての説明をしてくれている。
リオは、そのタグをマジマジと観察した。
この小さなタグが身分証明になるのは免許証みたいな物だと親近感が湧いた。
しかし、倒したモンスターを自動で記憶していくのは正にファンタジーな世界なのだと今更ながらに実感する。
ここまでの旅が地球よりも文明が進んでいない印象だっただけに尚更だ。
「これはこれは新人さんですかい? 良ければあっし達が手取り足取り教えてあげやしょうか?」
受付嬢の説明が終わって、別行動のケイトを探そうとした所で3人組の冒険者に声をかけられた。
「僕達は先を急ぐ旅ですし、他の仲間も居ますから___」
「お嬢ちゃん、新米冒険者だけでの旅なんて危ない危ない。一緒にいる男も頼んなさそうじゃないの? 俺達はFランクの冒険者だしそいつらより頼りになるぜ?」
リュクスの断りの言葉を聞かずに話して来たのはFランクの冒険者だった。
たしかに
「私達は私達だけで大丈夫だから、貴方達の助けはいらないわ」
「馬鹿言っちゃ行けないよ。 町の外には怖いモンスターだって出るんだぜ? そんなたいした防御力も無さそうな装備で新米が出て行ったら怪我じゃすまない!」
冒険者達は自分達の有用性をはなした。
先輩の親切は聞いておけとでも言う様な感じだ。
リオ達は、ここまでモンスターと戦いながら旅をして来たし、この冒険者の話し方は胡散臭いと感じてしまう。
「要らないと言っているのが分からないのか?」
「あん! 俺達がせっかく親切で言ってやってんのに___」
「すいません、彼女達に何か御用ですか?」
レミントの鬱陶しそうに言った言葉に、冒険者達が逆切れしそうになった所で、戻って来たケイトが話しかけた。
冒険者達はケイトに視線を向け、見た目中学生なケイトにため息を吐いた。
「ボウズ、やめときな。上玉だからって子供が首を突っ込むとケガするぞ、コラァ!」
冒険者はドスの効いた声でケイト威圧した。
「いや、俺は彼女達の連れなんですよ。それに彼女達に手を出さない方が良いですよ?」
ケイトの言葉に冒険者の1人が痺れを切らしたのか、アスカの腕を引っ張って連れ出そうとした。
冒険者の手がアスカに触れた瞬間であった。
「きゃーーー!」
冒険者ギルドに響き渡るかのような声と共に、アスカの右腕のフルスイングが左手を掴んだ冒険者に炸裂して、その冒険者を壁まで吹っ飛ばした。
「だから言ったのに。 ほら、俺は案内役なんです」
壁まで飛んで気を失っている冒険者に溜息をつきならがらケイトが笑顔で言った。
「な、なんだぁ。 意地を張って言ってるんじゃ無かったんですかい。えっと、それじゃあっし達はこれで」
2人の冒険者は気を失った冒険者を肩に抱えると全速力でギルドを出て行った。
召喚によるステータス補正のあるアスカなら、装備もあることだし、あの位の冒険者ならやっつけられるだろう。
冒険者が去った後、他に絡んでくる人はいない。
「やはり冒険者と言う者は品位にかけるな」
「ま、まあ、無事だったんだから良かったんじゃ無いですか?」
「ふん、次に絡んで来たら私が懲らしめてやる!」
後ろでレミントとトモヤが色々とはなしている。
この2人は、数週間の間に仲良くなった様だ。
トモヤが下手に出て、レミントを持ち上げ、腰巾着の様ではあるが、トモヤが上手い事レミントをコントロールするおかげで旅はスムーズである。
「皆、お待たせ」
「今のは颯爽と助けてくれるんじゃないのかしら?」
「怖かったです!」
「あの人達、人の話聞かないんだよ!」
ケイトには女性陣からの
「まあ、アスカの一撃で何とかなったわけだし一件落着じゃない?
それより早めに宿を取らないとね。レミント様、良い宿をとるのでしょう?」
ケイトの提案にレミントの眉がピクリと反応した。
周りの目があるから、殿下を付けなかったことにたいしての不満ではないだろう。
すると、良い宿に泊まれる事が嬉しいのだろうか?あ、目尻が下がっている。
次のトラブルが起こらない内にケイト達は冒険者ギルドを出ようとした。
するとそこへ、ギルド職員がドタドタとやって来た。
「あ、あれ? 絡まれている新人の方がいらっしゃると伺ったのですが?」
「ああ、もう解決しましたよ」
ケイトの言葉にギルド職員は申し訳なさそうに頭を下げた。
「いつもは重鎮のDランク冒険者のスミルノさんが目を光らせてくれているのでこのような事は起きないのですが、今は長期依頼に行っているらしくて、その、対応が遅れて申し訳ありません!」
「今日は無事だったからいいよ。だけど、これが無事じゃなかったら、こんなに穏便に済まないからこれからは気をつける事だね」
ケイトはそう言って抑揚の無い声で注意した。
怒りがぶり返していそうなリオ達をなだめつつ良い宿屋の予約に向かった。
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その日の終業前のギルド
「しかし、今日の騒ぎは凄かったッスね!
俺、ホントにFランク冒険者を止めないとダメだったらと思うとゾッとしますよ!」
「でもそれもギルドの職員に求められる事だよ?治安の悪い他国のギルドと違って五大大国のギルド何だからちゃんとしないと。
私はギルドマスターの所へ行ってていなかったけれど、こちらの不手際には間違いないわ。 反省して次の機会に備えないとね」
「次があるんすかね? その時の為にハービィさんみたいな実力者をもう1人雇ってどちらかは居るようにしません?」
「確かに、僕達が束になってかかってもFランク冒険者に適う気はしません」
冒険者の居なくなったギルドで、5人のギルド職員が話し込んでいた。
終業作業をしながら、話題は昼間におきた騒ぎの事である。
「それか、スミルノさんに常時依頼を出しておくのもありかも知れませんよ?」
「それだと、どれだけお金がかかるんでしょう?」
「やっぱダメっすかー!」
「ま、私くらいの実力の冒険者を1人職員として引き抜くのは一考の余地があるかもしれませんね」
「でもあれ、面白くなかったですか?」
「あれ?」
「ボビンさんは面と向かって話してたじゃないですか。これからは気をつけておく事だ。ってやつですよ!」
「ああ、あれか」
「正直言うと、Fランク冒険者を止めるよりもHランク冒険者の皆さんに後で対応した方が安全じゃ無いッスか。 なのに、子供がイキっちゃって」
「ガート、お前そんな気持ちで!」
「でも自分の身が大事っスよ」
「ガート君、貴方はギルド職員としての誇りをもう少し持つべきだわ。 それに、その言葉を言ったのは私が聞いた感じだとケイトさんだと思うけど?彼、
「え?」
ハービィの言葉に、自分達が無事だった事を噛み締めながら、終業後に今後について真剣に話し合い、冒険者ギルドは朝方まで明かりがついていたそうな。
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