第29話旅の始まり

本日は、アクアリアの勇者達の旅立ちの日である。


アクアリア城にてケミルトに激励の言葉をもらい、リオ達、召喚者の3人は旅の為に魔法の鞄を貰った。

その鞄はウエストポーチの様に腰に付ける鞄で、容量は登山用位入る魔法の鞄である。

希少価値があり、国宝クラスの物だが、今回はレミントとリュクスを合わせた5人に渡されている。


ケイトはスキルがある事だし、ケミルトに言って辞退している。

旅の仲間が、ケイトだけ渡されていない事をどう思っているかはわからないが。


それはさておき旅立ちである。


アクアリアとしては、勇者を馬車で送り出そうとしたのだが、ケイトが、レベルを上げる為に次の街まで徒歩で行くことを提案した為に歩きである。


馬車での移動の方が楽ではあるが、王都に近い程警備が行き届いておりモンスターも弱い為、経験を積むには歩きの方が都合が良かった。


街道を歩いていると、たまにとても弱いモンスターが現れる。

初めての戦闘に、召喚されて日が浅い3人はおっかなびっくりした様子なのだが、レミントが3人、いや、2人を激励した。


「ほらリオ、アスカ、危なくなったら私が守るからやってごらん」


格好をつけた言葉だが、レミントは真面目に言っていると思う。

トモヤの名前がないのは、本能に正直なのだろう。

この辺りの魔物は弱く、死ぬことはない為、経験を積む為には一度怪我をしてみるのもいいかも知れない。


リオがケイトを見て大丈夫か確認してくる辺りまだ信用は得られてないようであるが。


ケイトは頷いて大丈夫だと合図をする。

言葉を出してレミントの邪魔はしない様に取り計らったつもりである。


一応、黒い立方体、トランフィヴノイズを手に持って備えておく。


リオとトモヤは難なくモンスターを倒せたのだが、アスカは初めての戦闘で上手く武器を扱えずにあたふたしてしまい、中々モンスターに攻撃できないでいた。


ケイトは、もしもの時はいつでも援護できる様に、トランフィヴノイズを弓の形状に変形させる。


アスカがタイミングが取れないのを見かねて、レミントがモンスターとアスカの間へ割り込み、モンスターを一撃で倒してしまった。


「危なかったな、アスカ! 大丈夫だ。まだチャンスはある。 頑張ろうじゃないか!」


まだ弱いモンスターであるし、割り込むには、いや、痺れを切らすには早かったと思う。


レミントがリオをチラチラと見ながらアスカを激励するあたり、リオにいい所を見せたいのだろう。


リオは苦笑いしているし、リュクスも「お兄様…」と嘆いているが、レミントは気にしていないのか気づいていないのか、どこ吹く風といった様子で、次はケイトに話しかけてきた。


「クロノグラフ卿は弓術士なのかね?」


「はい、基本はそうですね」


「そうか…いや、確かにサポートには良さそだな。 優秀と聞いているから索敵の漏らしが無いようにしっかり頼むよ」


レミントは、ケイトの肩をポンポンと叩きながらそう話した。


「俺は索敵系のスキルは持ってないですね。

遠視系のスキルなら持っていますが?」


「な、索敵系スキルを持っていないだと!

ハハハ、笑わせてくれるじゃないか。なら、卿に何の価値があると言うんだい?」


「まあ色々と役には立ちますよ。 知識もありますし」


「な、良くもまあその様な事を!」


レミントの言葉に、ケイトは事実だけを答えた。

この一回の戦闘で価値など分からないだろうに。ケイトとしても、索敵は持っていない物の、代わりはある。

それを話さないのは、ただ説明が面倒くさいからである。


「まあまあレミントさん落ち着いて、アスカも次は頑張ろうね!」


「ち! まぁ、いい。 どれほど役にたつのか見せてもらおうじゃないか!」


ヒートアップしそうになったレミントもリオの言葉に押し黙って先へと進んだ。


険悪なムードが流れ、旅立ちの1歩としては最悪のスタートであろう。


その後のモンスターもリオとトモヤは魔物を倒せるものの、アスカは頑張っているところに苛立ったレミントに横取りされるというアスカの経験にならない旅が始まった。


その日1日、レミントに獲物を取られてアスカは一撃も当てる事が出来なかった。


武器の性能で見れば、5発ほど殴れば倒せただろう。

防具の性能がいい為、攻撃を受けても痛くも痒くもないだろう。 だから、一回1人で倒してみれば、恐怖心も取れて戦える様になるだろう。


しかし、討伐の機会はレミントに全て奪われ、何もできなかったアスカは落ち込んでいた。


街道を進んだ先にある、小さな村にある宿で夜は過ごすこととなった。


レミントは造りに文句を言っていたが、こんな小さな村で王族が泊まるような宿は無いし、この旅は王族である事は隠している。

小さな村に宿があっただけでも有難いのだが、旅の経験のないレミントはそのありがたみがわからない様であった。


宿側としては、レミントはクレーマーなうるさい客であり、日本の様な接客意識の高くないこの世界では、店主からは塩対応をくらう事になった。

それでも、追い出されずに泊まれたから良しとしよう。


部屋は3部屋借りる事になった。

女子3人が一部屋。ケイトとトモヤが相部屋。 レミントは一人部屋であった。

男も3人一部屋で使えれば旅費が浮くのだが、レミントは了承しなかった。


夕食を食べた後は自由時間である。各自好きな様に過ごしていい。

ケイトは、風にあたろうと宿の外に出た。


すると、外には土手に1人で座るアスカがいた。

肩を落として落ち込んでいる様に見える。


「アスカ、こんな所でどうしたんだ?」


ケイトの声にハッと振り返るアスカは、ケイトを見て安心したようにぎこちない笑顔を返した。


「悩み事か?」


「はい。…私だけ足でまといですよね?」


「リオとトモヤもあまり変わらないな。

アスカは少し戦闘が苦手なだけだろう。レミント殿下が邪魔しなければ、簡単に追いつく程度だ」


ケイトの言葉にアスカは苦笑いだ。


「レミントさんは、見かねて倒してくれたんだと思います。 リオちゃんもハシモト君もあんなに簡単に倒せていたのに…」


「それはアスカが棍を武器に選んだからだろう?

スキルが無いから扱えなくても無理はない。 スキルを覚えるまではまともに戦うのも難しいと思うぞ?」


「私のせい…ですよね…」


アスカの落ち込みようにケイトは溜息を吐くとおもむろに立ち上がった。

ケイトの行動に、見放されたかとアスカは泣きそうな目でケイトを見上げた。


「アスカ、ちょっと着いてこい」


そう言ってケイトがアスカを連れ出したのは街道の側の草原。

夜なので昼とはまた違ったモンスターも出現するし、出現頻度も高くなっている。


モンスターを見つけたケイトはアスカへある物を渡した。


それはケイトが宝物庫でアスカへ勧めたショートスピアである。あの時、ノーンに了承を得て持ち出していたのだ。


「サポートしてやるから、それで1回戦ってみろ」


アスカは言われるがままショートスピアを受け取り狼のモンスターに向き直った。


アスカがショートスピアを構えると、昼間の動きは嘘だったかのように体が滑らかに動き、アスカはモンスターを倒した。


アスカは驚きに目を開いてケイトを見た。


ケイトは、優しい笑顔で棍棒を差し出し、同じ様に戦うようにアスカに言った。


「大丈夫だから」と念押しして。


アスカは意を決して棍棒を握りしめ、新たに出会ったモンスターと戦い始めた。


今度は、スキルがないのでドギマギしながら。

だけど昼間と違ってなんとか攻撃を繰り出し、空振りした。

モンスターは、その隙をついて攻撃へと移り、アスカに突進する!


アスカはモンスターの突進を受けて、反射的に「う、」と声を漏らしたが、実際は痛みさえも感じなかった。


相手にダメージがない事にモンスターも戸惑って足を止める。


先に動いたのはアスカだった。


振り下ろした棍棒に気づいたモンスターも避けようとするが、間に合わずに、アスカの攻撃が頭にヒットする。


当たってさえしまえば宝物庫に置かれていた強力な武器の威力である。


モンスターは脳震盪でガクガクと足を震わせて座り込んでしまう。


あとはアスカの撲殺Timeである。

先程モンスターを倒していた事もあり、躊躇はなかった。


「ケイト君やったよ!」


そう言って、ケイトに話しかけたアスカの顔は晴れ晴れとしていた。


「ほらな。邪魔が入らなければアスカ1人でなんとかなっただろ?

この辺りのモンスターは弱い。それに対してアスカの武具は強いんだ。

だから怖がらずに戦えばいい。そうすれば、スキルも覚えてさっきの槍みたいに戦いやすくなるさ。

これから先、もっと強いモンスターと戦う事になれば、連携だったりその他の技術も必要になってくる。

それまでは今みたいに経験を積んで成長しておくといい」


「うん、私頑張る!」


アスカはとびきりの笑顔でそう言った。

元気になった様で何よりである。


この日以降、昼間はレミントがしゃしゃり出てくる為、スキルを覚えるまで、夜の狩りにケイトが付き合わされる日々が続くのだが、その甲斐あってアスカは棍スキルを一早く覚えたのだった。

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