第26話宝物庫

「それではリオ様、アスカ様、トモヤ様。

こちらの中よりより良い武具をお選びください。

勿論レミント様、リュクス様にもその後にお選び頂きます」


「あの、その、クロノグラフさんにはダメなのでしょうか?」


宰相ノーンにアスカが質問した。


ケイトは馴れない家名なので自分の話だと気付くのが遅れて塩対応になってしまうが、代わりにノーンがキッチリと回答してくれていた。


「クロノグラフ卿はご自分の武具が宝物庫の物に引けを取らない物だそうで不要と仰せつかっております。

ですが、観覧されてめぼしい物があれば持ち出して良いと仰せつかっております」


ノーンの説明にアスカも納得した様だった。

レミントがやって来た所で、皆で宝物庫を物色し始めた。

先程の回答、事情を知らないレミントが聞いていればまた何か言いそうだが、聞いてなかったのでそれは置いておこう。


宝物庫の中には、国宝クラスと言える武具や道具、調度品などが所狭しと並んでいた。


その中を、ケイトは何もしないのも暇なので、ブラブラと見物しながら回っていた。


一つ一つ鑑定を掛けて物色する様は、興味無さそうに棚をただ眺めているだけの様に見える。


宝物庫の物は、正直ケイトがダンジョンの奥深くで貯蔵したアイテムに遠く及ばない物ばかりである。


ざっと見た感じで言うと、ケイトが持つような聖剣と言った様な物は見当たらない。


ミスリル製の武器が一つあった。

これがアクアリアの勇者が使っていた武器なのだろうなと思いながら見ている。

しかし、使い古した見た目からか、誰もが選ぼうとはしない。

ケイトがフェルメロウに貰った鑑定は特別な様で、このクラスの鑑定を使える人はいないようである。


皆が思い思いに見て周り、それぞれが良いと思った物を一様に持って入り口に集まった。


レミントやリュクスは流石この世界の王族。

そして学園で戦闘の心得もあるのだろう。


レミントの武器はバスターソードと言われる種類で大型の剣を選んでいる


リュクスは槍だ。

と言っても初級スキルで扱えるショートランスでは無くより扱いの難しいロングランスである。


2人とも、目利きは良いのかそれなりの物を選んできた。


対照的に勇者達は何がいいとも分からずにとりあえず好みで選んだのが丸わかりだ。


「お前達は何でそれを選んだ?」


「え? 一応ステータスを見た感じで強そうな物を選んだつもりなのだけど?」


「何か不味かったですか? クロノグラフさん」


「…ケイトでいい」


ケイトの質問に答えた2人の回答にそれもそうかとため息が出そうになるのをグッとこらえた。


そしてとりあえず、ケイトは家名で呼ばれるのに慣れないために先ずは呼び方を訂正した。


「お前はその剣を使いたいのか?」


「一応家が剣道を教えている家だったから刀みたいな形のが良いとおもったの。

それよりも、リオって呼んでくれるかしら? お前は嫌だわ」


「おい、リオさんに文句でもあるのか? ちゃんと選んでるんだから良いだろう!」


ケイトの質問の途中で、召喚された最後の一人であるトモヤが口を挟んできた。

ケイトはイラッとしたが、相手は子供だと言い聞かせ、説明を続ける。


「いや、今のお前達のスキルだと扱い切れない。

スキルは初期スキルの他に無数に派生スキル、上位スキルがあり、そのスキルに従って体に武器の扱いが馴染む。

派生スキルを覚えていないお前達にとってその武器は扱えきれないガラクタに過ぎない」


またもや口を挟もうとするトモヤが口を開きかけたのを無視して話を続ける。


「だからリオ、お前が選ぶべきは召喚される前に得意だった物ではなく、今のスキルに合った武器だ。

勿論、その刀が使いたいのであれば、その刀も一緒に持っていき、スキルを覚えてから使えばいい。ちょっと待っていろ」


そう言ってケイトはその場を離れると数分で戻ってくる。


「リオにはコレ、アスカにはコレかコレ、トモヤにはコレかコレだな。

あと防具はこんな感じだろう」


ケイトが持ってきた物を見てノーンは驚きに目を大きくしている。


なぜならこの宝物庫の中でとびきり物ばかり持って来たのだから。


「これが私達に合う武器なの?」


「お前、リオさんの物だけ適当に選んだんじゃ無いだろうな?」


リオがケイトに質問した。それに、リオの武器だけ他の2人よりも使い古してある様に見える為、不安になったのかもしれない。

それに気づいたのか、トモヤはケイトを責めた。


ケイトがなんと話そうかと悩んでいると、ノーンが助け舟をだしてくれた。


「皆様、これらの武具はこの宝物庫の中でもとても優れた物です。

特にリオさんに渡された武具は、この国の初代国王。つまり前の勇者が使っていた聖剣です。

私も、ケイト様の目利きには太鼓判を推しましょう」


ノーンの言葉に勇者達の顔は驚きに変わった。

勇者の聖剣の存在にレミントも興味を持った様である。


「派生スキルを覚えてそっちの方が使いやすければ、その時に武器を取り替えればいいさ

とりあえず今はそれを使っておけ。

違う武器も他の五大大国に協力を頼めば見せてくれるだろう。協力関係にある訳だしな。

まあ、他の勇者が持って行って残ってるかは分からないが」


物語にはつきものの聖剣と言われた武器をじっと眺めていたリオがケイトの言葉に反応してケイトの方へ顔を上げた。


「他の勇者?」


「ああ。勇者召喚は五大大国と呼ばれる5つの国が合同で行い、各国に勇者が召喚される。

各国に象徴される属性の加護を受けた勇者達がこの世界に召喚されるんだ。

この国なら水の加護。 リオ達の髪の色が青に変色しているのもその恩恵だ 」


「リオ達は元々青色の髪じゃ無かったの?」


「え、ええ」


「ケイト様はよく知ってらっしゃいましたね?」


「伝承の勇者達の記述に有るからな」


リュクスの反応をケイトは淡々とやり過ごしたが、内心ドキドキである。

今、自分が召喚者だと気づかれる訳には行かないのだから。


「つまりは、他の国にも勇者が召喚されていて、同じ様に旅をする訳だ。

だから、各国共に支援しあう。 他の勇者に会うこともあるだろう」


「そう、知り合いだといいわね。アスカ」


「そうだね、リオちゃん!」


笑顔で話すリオとアスカを見るトモヤに暗い影が差したような気がした。

しかしそれは一瞬で、誰も気づくことは無かった。


「何にしても先ずは装備だ。

アスカ、お前は槍スキルを持っているがそのスキルはショートスピアを使うスキルだ。

お前が持って来たハルバートは派生スキルがないと使えない。重いだけの荷物だ。

長い武器は取り回しもしずらいからその武器を使いたいなら魔法も伸ばす必要がある。

だからまずはその短槍を使ってみるといい。


トモヤは棍術のスキルが有るからこれなわけだが、不満そうだな?」


トモヤの持ってきたのは煌びやかに装飾された儀礼用の剣である。

いかにもゲームの終盤に登場しそうな見た目である。


「棍術って唯の棒じゃないか。二刀流とかもあるのか?」


「二刀流?あるだろうが、どうしたら覚えられるかは分かっていない。

剣術スキルならレミント殿下の中剣術スキルや大剣術スキルなんかは努力すれば覚えられる事はわかっているし、棍術スキルで言うと錫杖スキルや変化昆スキルが有名だな」


「なら俺は棒なんか使わずに剣術を覚える」


「そうか。剣術は基本スキルだから覚えやすいだろうし、お前は剣道と言うスキルがあるから覚えるのが早いかもしれないな」


トモヤの返事にケイトは面倒に思ってそう返答した。


「あの、私が棍術を使う事は出来ないんでしょうか? 派生スキルの錫杖が魔法と相性がいい気がするんですけど…」


アスカの質問にケイトは笑顔で答える


「それは可能だ。

錫杖には魔法をブーストする物が多くあると聞く。 魔法は使える様だから遠距離で魔法主体の戦い方をするならありだと思うが、初めは今あるスキルのもので戦った方が安心だ」


「まあ、初級スキルは成長も早いしいいではないか!

やる気があるならそれを使わせてやろう!」


話しに入ってきたレミントはアスカにトモヤが使わなかった棍棒を渡した。


ケイトの説明は無視である。


各自武具を装備すればそれなりに見えるから不思議である。


その後は国王であるケミルトへ報告して各自解散である。


召喚された3人には各々部屋を与えられているし、城など散策したければ、案内にメイドが付けられている。


数日後、勇者達の冒険が始まる。

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