第24話勇者召喚

「さて、頼みと言うのは他でもない。 ケイト君、君に勇者のパーティに入って貰いたいのだ」


ケイトはケミルト王のに頼みに一瞬固まった。 だってそうだろう、渡りに船、棚から牡丹餅の様な状況だ。

しかしすぐに頷くのは、不自然な様に思えたので、質問する事にした。


「なぜ俺を勇者のパーティに?

勇者の目的は俺を倒す事だろう。そんな勇者を育てろと?

それとも懐柔しろとでも言うのか?」


ケイトがクイッと眉を上げるようにケミルトに訊ねる


「できれば、君には各国の勇者をまとめてもらいたい。

さっき君は人を滅ぼす気はないと言った。

だとすれば、矛先を失った勇者は只の武力。各国の戦争の道具にされる事も考えられる。

実際、戦争の為に勇者召喚を企んでいる小国もあると言う」


多分その小国に召喚されたのが自分です。などと言い出す気はないが、大国ともなれば情報を掴んでいるのだなとケイトは感心しながら聞いている


「それに、どんな人物が召喚されるかは分からない。

君の様に人を滅ぼさない考えの魔王がいる様に、勇者でも性格に不安がある者も居るだろう。

だとしたら、勇者に対抗できるのは魔王だけだ」


ケイトはなるほどと思った。ケミルトの言う事も一理ある。

フェルメロウは勇者召喚に関わっていないと言っていた。

物語の様に、神が選ばないのなら、悪人が召喚されてもおかしくはない。いや、最近はそんな話もあるか?


「勇者は皆、別の世界からやってくる。

神の加護を受け、ステータスの成長率は高く、強力なスキルなんかも覚えているそうだ。

そんな勇者が悪人なら手がつけられない。

それを見極め、抑止力になってもらいたいのだ。

頼めないだろうか」


そう言ってケミルト王は頭を下げた。


「おいおい、国王が頭を下げるのはまずいだろ。

それに、勇者が悪人前提だけどそうじゃない可能性のがデカいだろ?」


「それならそれでいいのだ。

我が国は召喚した勇者を安全に送り出す事ができる」


ケミルト王はそう言って豪快に笑う。

ケイトには、これが王の器なのかと感じる事ができた。


「俺をそんなに簡単に信用していいのか?

それに、勇者のお供なんてポッと出の俺が入れるのか?」



「なに、君はドラゴンからこの子を助けてくれた。ドラゴンは災害で、放っておいも問題ないのに助けてくれたのだ。

私の王としての直感が言っているよ。君は信頼できると。

それに、勇者の共を選ぶのは私だ。

息子とリュクスが決まっているが、君を押し込むことくらいなんでもない。

リュクス、ケイト君の補佐を頑張るのだぞ!」


「はい、父様!」


こうして俺は勇者との接点を持つ事ができた。 フェルメロウの助言様様である。


___________________________________________



ケミルトとケイトが対談してから1週間ほどたった。


その間にケミルトはケイトが勇者のパーティに加わる為の根回しをおこなっていた。


そして、今日は勇者召喚が行われる日。


ケイトは、召喚場所に立ち会う事になり、召喚場所にやってきていた。


アクアリア王国の有力者達が見守る中、部屋の中心に魔法陣が描かれ、勇者召喚の準備が整っていた。


勇者召喚には手順がある。


その1つは魔王の石版が5つ埋まる事。


そして、城の決められた部屋に魔法陣を描く事。


そして月と太陽の位置。


最後に、召喚の順番である。

五大大国を頂点として、円を書く様に地脈が通っている。

そして、5箇所の召喚点に石板が存在し、その場所に五大大国である。

そして、地脈の関係で、どの国から召喚を始めるかなどの順番もまた決まっている。


南の空に黄色い光が天まで立ち上がり、続いて東、アクアヴィアの隣にあるウィンダムから緑の光が立ち上がる。

その後、アクアヴィアにある魔法陣が光出し、光が城を満たし、青色の光が天へと立ち上がった。

続いて北、そして西と赤、オレンジと光が立ち上がる。

空へと届いたそれぞれの光は互いを結び合うように動き、空に1つの魔法陣が完成する。


そして、今度は一際輝く光の塊が5色の光を通って城へと降り注ぐと空に描かれた魔法陣は揺らめくように消えていった。



アクアリア城内の魔法陣が描かれた部屋に降り注いだ光の塊が、徐々に輝きを失い、中から人影が現れる。


部屋に居た人々の視力も急な光の出現に一旦失われていたが、徐々に視力が戻り、見える様になった時には魔法陣の中心で召喚された3人の勇者がキョロキョロと周りを見ているのがわかった。


ケイトはその3人を先ずは鑑定する。


【リオ】

ステータス

LV1


HP A

MP D

物攻 A

魔攻 A

物防 B

魔防 A

運 C


称号

異世界人 勇者


スキル :《剣術》 《水精霊の加護》 《氷結魔法》《勇者成長率》


【アスカ】


ステータス

LV1


HP B

MP B

物攻 B

魔攻 B

物防 B

魔防 B

運 B


称号

異世界人 勇者の隣人


スキル:《槍術》《水精霊の加護》《上級水魔法》


【トモヤ】


ステータス

LV1


HP B

MP D

物攻 B

魔攻E

物防 B

魔防 B

運E


称号

異世界人 勇者の隣人


スキル:《剣道》《棍術》《水精霊の加護》《武具の才能》


ケイトは良くある巻き添え召喚かな? と考えながら勇者のステータスがチート級では無かったことに驚きを覚えた。


いや、確かにLv1でコレなら学園の首席より上なのだけれど、ケイトの様にステータスにSがある訳でもないし、スキルも、言っては何だが常識の範囲内な気がする。


あの勇者成長率と言うスキルに秘密があるのだろうか?


ケイトがそうこう考えている内に宰相が勇者達の前に出て状況を説明をしている。


「貴方達は召喚によって呼び出された勇者であり、この世界を救ってほしい」といったテンプレ内容だろうか?

遠目に驚いて居るのは分かるが、ケイトは鑑定や考え事で聞いていなかった為に、なにを話しているのか聞いていなかった。


「それで、私達は魔王でも倒さない限り帰れないのかしら?」


鑑定で見たリオ。高身長なキツめのツリ目美人。

姫カットのポニーテールがよく似合う少女だが、日本人らしからぬ青髪と青い瞳をしている。

残りの2人も色の濃さに差はあるが青髪である。


これは、召喚と同時に国を守護する精霊の加護を授かる事で髪色と瞳の色が変わる。

聞いてはいた物の、日本人なのにその色に違和感がない事にビックリである。


リオの質問にはノーンは答えず、ケミルトが前に進み出て召喚された3人の前に行くと膝を折り、両掌を地面について頭を下げた。


土下座である。


勇者達は分かっていないがこの部屋にいた人々は何事かと騒ぎ出す。


「静まれ!」


ノーンが周りを一喝して騒ぎを収め、部屋が静かになったのを見てケミルトが話し出した。


戸惑っている勇者達に「失礼した」と前置きをした後に、土下座のままである。


「私はこの国の王ケミルト。

先ずは貴方達を勝手に召喚した事についての謝罪、そして、帰る手立てのない事についての謝罪である。

本当にすまないと思っている。 しかし、伝承によればこうしないとこの世界が滅ぶとされている。 勝手ながら助けて貰いたい!」


勇者達は土下座しているのが国王だと知って、驚愕により返事を返せていない。


この世界に来てしばらくだが、土下座と言う知識はない。

あれは勇者召喚の伝承に書かれた作法だそうな。


初めに返事をしたのはアスカと言う少女だった。


三つ編みを織り込んだサイドアップでまとめた華奢な少女は、クルリと愛らしい瞳を不安に揺らしながらケミルトに問いかけた。


「あの、魔王を倒しても帰れないとなると私達はどうすれば良いのでしょうか?」


「この国、この世界を巡って、この世界をより良く、平和にして頂きたい。

確かに魔王の石版は魔王がいる事を表している。

魔王と戦うにしても、Lv上げが必要になるし、この世界を巡ってこの世界を知りつつ、貴方達がより良いと思った事をして貰いたい」


ケミルトの抽象的な言葉に勇者達は混乱する。


今の言葉では召喚したものの好きにしてくれと放り出しているようにも聞こえる。


「父上! 王がその様に頭を下げるべきではない!」


勇者達が混乱に沈黙する中、声を上げたのは第1王子のレミントであった。


「レミント、コレは国王にかけられた使命なのだ。下がりなさい」


「しかし…」


「王様、とりあえず頭を上げて貰えないかしら?

このままの雰囲気では話しにくそうだし、どういう事か説明もいりそうだし」


リオが辺りを見回すと王の態度に不信感を顕にしている重鎮もいるようである。


ケミルトは頭を上げ、立ち上がった後、一呼吸置いて話し始める。


「皆の者に説明が無く済まなかった。

俺も緊張していたのだろう。 何せ勇者召喚だ!

皆もこの国、しいては五大大国を興したのが過去の勇者である事は知ってのだろう。

初代国王は自分達の経験を元に次に召喚が行われる時に自分達が召喚された時の事を元にこうするようにと語り継がれた。

その1つが初めの謝罪だ。 勝手に連れてきたあげく、上から目線で世界を周り魔王を倒せ!

その後は知らん。

その様な態度では協力してもらえないだろう。

国王が頭を下げ、説明するのが礼だと伝わっているのだ」


ケミルトの言葉で重鎮達は静かに納得した。

それだけ初代国王の名は重いと言うことだろう。


レミントや若い貴族も渋々と言った様子ではあるが納得したようだ。


「何となく収まったようだし、私達の質問に答えてくれるかしら?」


状況が収まった事を察してリオがケミルトに質問する。


ようやく質問形式で勇者達へと説明が行われるようである。

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