第23話アクアリア

ドラゴンを消し飛ばしたケイトは背後に庇った少女の方へと向き直った。


「大丈夫で、すか?」


ケイトは、助けた少女に話しかけながら鑑定を行った事により言葉を詰まらせてしまった。


「ありがとうございます。僕の名前はリュクス・アクアリア」


そう、《アクアリア》


五大大国の一つであり、今ケイトがいる国の名前である。

アクアリアを名前に持つのはこの国の王族である証であろう。


ケイトは、フェルメロウの御告げの意味を理解した。


南に向かって、このリュクスと言う少女と出会う事で召喚される勇者と接点を持つ事が出来るのだろう。


「うん、君は大丈夫みたいだね。とりあえずは倒れている人達を治療しようか」


ケイトは出来るだけ印象が良くなるように、笑顔でそう話しかけた。


そして、倒れている騎士達に迷宮産のハイポーションを飲ませて周った。


この行動が、後に自分の居心地の悪さの原因になるとも知らずに


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そう言った出来事があって、ケイトはリュクス達と馬車を共にしていた。


ドラゴンを倒す所を見ていない騎士達は、ドラゴンの死体がない状況を見て、気絶したリュクスに自分が助けたのだとケイトが嘘をついているのだと思っている。


そんな嘘に騙されていると分かっていながらも、自分達も回復薬て助けてもらった恩がある為にはっきりと嘘つきと言えないでいた。


いや、初めはリュクスに嘘つきだと進言していたのだが、リュクスが否定した為に押し黙るしかなかった。


ケイトを馬車に乗せたのは、国王に伝われば嘘を見抜かれて罰を受けるだろうと考えての事だ。


そうした騎士達の視線が突き刺さる馬車の中はケイトにとって肩身が狭く居心地が悪い場所であった。


騎士達が全員女性だった事も居心地の悪さに拍車をかけていた。

甲冑から覗く目が怖いんです。


居心地の悪さから逃れるためにルービックキューブをいじり始めたケイトだったのだが、見た事の無い玩具を見たリュクスが興味を待ち、ルービックキューブを組み替えるケイトの手元をキラキラとした目ではじめてしまった。


それにより、周りの騎士達の目は更に鋭くなった気がするのはケイトの気のせいではないだろう。


とは言え、勇者に会うと言う目的の為にはこの機会は逃せるはずもなく、居心地の悪いままに馬車で揺られるのだった。


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馬車に揺られながら王都アクアリアの門を王女リュクスの顔パスで通り過ぎたあと、そのまま城へとやって来た。


部屋へ通されて待つ間は、誰もおらず1人だった。


勿論部屋の外には先程の騎士達が居るのだが、どちらかと言うとこの部屋から出さないと言った意味合いが強そうである。


しばらくすると、部屋に数人が入って来た。


リュクスと壮年の男性がケイトの向かい側に座り、その後ろでもう1人男性が座らずに立った。


ケイトを観察するよう座る壮年の男性は、リュクスの父、国王のケミルト・アクアリア。


その後ろに立つのはケミルトの右腕。

宰相のノーン・カイスヘグであった。


2人は厳しい顔でケイトを見たあと、話しはじめたのは国王のケミルトだった。


「君は…魔王かね?」


「何のことかな?」


質問に質問で返すのは良くないことだが、確信をついた質問にケイトは惚けるしかなかった。


「ふむ、やはりそうか。

ケイト君、普通は魔王と聞いてもそんな反応はしないよ」


ケミルトが頷きながら答えた事にケイトはしまったと思った。


国王達には確信は無かったのだ。

リュクスの話を聞いてかまをかけられたわけだ。


しかし、惚けたつもりだったのに何故バレたのか分からなかった。


「人が魔王になるなどと考える人はいないよ。御伽噺では化け物だ。

人だと知っているのは各国の王か、魔王の関係者だ」


ケイトは自分の考え無さに呆れた。

言われてみれば、フェルメロウも過去は違う種族だと言っていた気がする。


しかしどうする?時を止めてとっとと逃げ出してしまおうか。


ケイトがそう思考している表情に険しさが出ていたのかケミルトは足早に言葉をつないだ。


「そう難しい顔をしなくてもいい。 君に聞きたい。 人と、敵対する気はあるかね?」


こちらを伺うケミルトの目はギラリと光るかと思う程に鋭い。


ケイトはとりあえず素直に答えることにした。



「とりあえず今はその予定は無い」



ケミルトはその言葉に驚いた顔をした。

魔王の伝承とは違ったからだ。


「本当に?」


「嘘をついてどうする。俺には別の目的があるのさ」


「では、それを信じるとしよう。

ドラゴンを倒してしまう人間にここまで入り込まれた時点で私達は従うか滅びるかの2択な訳だしな」


ケミルトがはっはっはと大笑いするが、その真意はケイトには分からなかった。


所詮、平民に政治まつりごとは分からないし、駆け引きもできない。


「で、俺が戦う気が無いと言ったからどうだって言うんだ? 勇者召喚を辞めてくれるのか?」


「それはできない。

勇者召喚は5大大国で行う物だ。私の一存でどうこうできる問題では無い。

なぜ辞めるのか。

それを説明するには君の事を話さなければいけない。

各国が私の様に友好的とは限らないだろう?

だとしたら、言うのは得策ではない。

それに、君が今は戦う気が無くとも、未来が分からない以上、抑止力が必要なのだよ」


「ぶっちゃけるな」


「隠して後で拗れるよりましだろう?」


本当にそれが本心か、ケイトには分からないが、信じるしかなさそうである。


「では、我々の首根っ子を押さえる為に一つ提案があるのだがどうだろうか?」


やはり狸か、ケイトはケミルトの言葉に踊らされながら、とりあえずは提案を聞いてみることにした。


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