第22話出会い

「ちょっと待て、俺も手違いとは言え勇者召喚で呼ばれたんじゃ無いのか?」


ケイトもこの世界に勇者召喚で呼ばれたはずである。


ケイトが本来の召喚者を追い抜いてしまっただけで、異世界から召喚されて来た事に変わりはない。


「違うわよ?

ケイトがこっちに来たのは勇者召喚を真似て作られた唯の召喚魔法。

本来はバカみたいに魔力がいる魔法で成功しないはずなんだけど、大量の命と魔力を消費してなんか成功しそうだったの。

暇で暇で仕方なかったし、面白そうだったから私が力を貸して成功させてみようとしたら貴方が飛び込んじゃったのよ。

私が手を貸してあげた召喚だから貴方にはこうやってアフターサービスしてあげてるのよ?」


フェルメロウの言葉にケイトは声が出ないほど驚いた。


詳しく聞けば、ケイトを召喚した国は五大大国に成り代わろうと魔王が居ない状況で勇者召喚を行い、勇者の力で国力を上げようとしたのだそうだ。


実際の勇者召喚は色々な手順や段取り、状況が必要な為に無理だと分かっており、昔に勇者召喚に憧れて研究された召喚論文の内容を行使したのだそうだ。


魔王が魔王になる為、つまりレベルを上げる為に倒した命の代わりに別の命を使った倫理観の外れた召喚魔法。


そこにフェルメロウの悪戯が加わって召喚魔法は見事に成功した。


しかし今回は状況が違った。


条件である魔王が現れてしまった。


そうすれば五大大国は伝承に従って勇者召喚を行うだろう。

そうしなければ世界が滅ぶと言われているから。


そして勇者召喚は成功する。


前提条件である魔王が出現して世界に魔力が満ちているから。


タイミングなど細かな条件が必要だが、その辺は伝承に記されている事である。


フェルメロウは自分の作った箱庭で行われる喜劇をより楽しく見る為にケイトに事実を伝えに来たみたいだ。

フェルメロウの無機質な笑顔にケイトは何も文句を言えなかった。


「フェルメロウ、他の召喚者もやっぱり元の世界には帰れないのか?」


ケイトの質問をフェルメロウは驚いたように、しかし面白そうな物を見る様な目で微笑んだ。


「ふふふ。貴方の時とは状況が違うんだけど、勇者召喚された人は特別な力を手に入れるわ。 強制的に体に焼き付けられるの。

強力なスキル、特殊なステータス。色々。

そんな人間をね、元の世界に帰すわけには行かないの。 形跡が残っていたとしても、向こうの世界が壊れてしまうから。

それに、もう一度召喚門を開くのにも勇者召喚と同等の魔力が必要になる。現実的ではないでしょう?」


「…そうか」


「でもどうして? 」


少し考える素振り見せるケイトを見てフェルメロウは興味深そうに尋ねた


「いや、俺もう大人だったしこの状況を納得したから良いんだけど、俺の時も本来召喚されるのは中学生だったわけだろ?

そして今回の召喚者もまた子供なんだろう?なら、現実を受け止めるには酷だなと思ってな。

アニメや本みたいに初めは喜ぶかも知れないけど、現実と創作が違うのはこれまでで少し理解したつもりだ」


「そうかもね。 実際、昔の勇者の中には帰りたがる子も居たわ。

それでもこっちで過ごすうちに折り合いを付けて、冒険の末にこの世界の人と絆を作り、幸せに過ごしていったんじゃない?国を作って余生を全うしたわけだし。知らんけど」


「そうか」


「そうだ、それじゃあこうしましょう。

私は出来るだけ世界の間で時差を作ってあげる。

そしてこのスキルを上げるわ。《強奪・勇者》

これは勇者が望んだ場合のみ勇者の全てのスキルや能力を奪うことができる様に今作ったわ。

その力で勇者の力を取り除けるなら、勇者を元の世界へ戻してあげる。

でも簡単じゃ無いわよ?門を開く為の魔力も必要だからケイトはもっとレベルをあげて魔力を上げないとね。

それに、時間制限もある。 時差による制御にも限界があるし、そもそも勇者達が死んでしまうかも知れない。 それでも、やる?」


フェルメロウの試すような言葉。


その言葉に、ケイトは快く頷いた。


自分のステータスを上げるのは冒険の醍醐味であるし、クエストの様だと思った。


子供を守る。向こうでする事のなかったケイトの大人としてのエゴだろうが、もし創作物とは違って勇者達がこの世界から帰りたいと思うなら、その希望くらいにはなろうと思った。


本の様に魔王を倒せば元の世界に戻れる。と言うわけでは無いが、魔王に会えば元の世界に戻れる様に頑張ってやろうと思う。


「やっぱり君は面白いな」


「え?」


「なんでも無いよ。それより、君も気をつけるんだよ?」


フェルメロウは、そう言ってケイトにある物を手渡す。


「ルービックキューブ?」


「飽きちゃったからあげる。それと、南に行きなさい」


笑いながらルービックキューブを渡されるとケイトの意識が遠のいて行く。


『神に近づきすぎると、心が壊れていくから気をつけてね。心の支えになる人と会えるといいね』


遠くでフェルメロウが何かを言っているが、ケイトには聞こえなかった。



朝起きると、宿屋のベットの手元にルービックキューブがあり、あれが夢でなかった事がわかる。


とりあえず、女神に言われた通りに南に行ってみる事にする。


旅をして5日ほどたったある日、休息を取りながらもらったルービックキューブを解いていると、悲鳴と魔物の声が聞こえてきた。


ケイトが時を止めて声のした方へ向かうと、そこではモンスターに馬車が襲われていた。


周りには戦っていたであろう騎士達が倒れており、それをかばう様に鎧を身につけた青い髪の少女が剣を抜いていた。


それに対峙するモンスターはドラゴンであった。


普通はこんな場所に現れないはずであるが、目の前で、少女に向けて鋭い爪のついた腕を振り下ろしていた。


座学ではドラゴンは今の時代現れた話を聞かない天災だと習った。


やはり何かが変わったのか?


ケイトは時を止めて少女とドラゴンの間までゆっくりと歩いて行き、ルービックキューブでは無い方の立方体を取り出した。


魔力を流すと立方体は形を変えて、弓の形状を取った。


ケイトは更に魔力を込めて魔力の矢を創り出し、矢を放つ。


矢は発射された直後にその場で停止する。

この行為を何百と行った後、ケイトは格好をつけながら指を鳴らして時を動かした。


本の様なシチュエーションに、厨二病全開で調子に乗った行動を行った事を思い出し、後で身悶える事になるのだが、今はその話は置いておこう。


___________________________________________


僕は今、夢を見ているのだろうか?

目の前に映るのはドラゴン災害


現れれば国が滅ぶかも知れないと語られ、過去の勇者時代にしか目撃さえされた事もないモンスター。


もうダメだ。

仲間が羽の羽ばたき一つでやられてしまい、僕だけが耐えてしまった。


一緒に気絶していたらどれだけ楽だっただろう。


足が震え、ドラゴンにやられるのを待つばかりだった僕とドラゴンの間に、突如として現れた黒いローブの人。


その後ろ姿は多分男の子で、彼が現れた瞬間、私の目の前は大量の光の矢で埋め尽くされた。


そして次の瞬間…


絶対的強者であるドラゴンは、光の矢に穿たれ、破片のかけらも残さずに消滅してしまった。


見開かれた少女の瞳に写るのは、ドラゴンから少女を助けた黒いローブの男の子だけになった。


少女は、物語に出てくるドラゴンを倒す登場人物と男の子を重ね合わせた。


「僕の勇者様…」


未だ恐怖で震える少女のその言葉は、誰にも聞こえない様な小さな声だった。

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