第19話残された少女達の決意

アリッサは昼間からベッドに横になって考え事をしていた。

最近1人になると居なくなった彼の事ばかり考えてしまう。


彼との出会いは学園に入学して初めての授業だった。

初等科に入ってしばらくは座学の授業が続くのだが、その時に隣の席に座っていたのが彼、ケイトだった。

入学当初の私は家庭教師に太鼓判を押してもらい、しかもお父様に言われてランクが1番下のブリゼに入学式したので、授業はクラスで一番だと確信していた。

エクスプロズィにも入る事ができると家庭教師が言っていたのだから、それも当たり前の考えだったと思う。

授業の中で、先生が出した問題を解いていた時だった。

私は、出された10問の問題を半分くらい解いた所で顔を上げて周りを見渡した。

難しい問題に苦しむクラスメイト達を見て、躓く事なく半分解いた自分の賢さに口がにやけるのが分かった。

今思い返せば、当時の私は性格が悪かった。

隣の席のケイトも、悩んで顔を歪ませている事だろう。

そう思ってケイトの方を覗くと、ケイトは既に全てを解き終えており、解答の横には見たこともない計算式がメモ書きされていた。

その後、先生が1人終わっているケイトに気づいて先に答案をチェックすると、全問正解で、先生も回答の早さに驚いていた。


授業が終わると、私は悔しさ半分、興味半分でケイトに話しかけていた。

彼の算術は、家庭教師に習ったやり方より、先生が教えている算術より、ずっと斬新で効率的。何より簡単に答えを導き出せた。


それを聞いて、私は彼に教えてくれるように頼んだ。より優れたやり方を学びたいと教えを乞うた。


そして、私は彼から座学を教わるかわりに私はケイトに剣術を教えることになった。


ケイトと一緒に過ごせば過ごす程に彼を尊敬した。

算術以外の知識、常識も彼の考え方は斬新で聞けばなんで今までその考え方に至らなかったのかと思い、私の常識が変えられていくのがわかった。


少し、彼から距離を感じるようになったのは中等科に上がってチームを組んでしばらくした頃だった。

チームの中でケイトの成長が遅かった。

この頃から彼は剣を使わなくなり、私と行っていた剣の稽古もしなくなっていった。

代わりに彼が選んだのは弓だった。

学生ではあまり選ぶ人がいない珍しい選択だった。

でも、彼の作戦立案能力を使って後衛と言う選択は彼だからこそできる選択だと思った。


しかしケイトは索敵スキルの取得に手間取っていた。

だから戦闘の指示は私が出すようになった。

それは班の中で彼に近い指示を出せるのが私だったから。初等科の頃から彼の考え方に触れ、彼の作戦をより理解できるからだった。


戦闘外のミーティングで皆んなにアドバイスするケイトの戦術知識は斬新だったが、今までに習ったどの戦術よりも上を言っていたと思う。 だから初めは彼の事を目の敵にしていたエルサもケイトを尊敬してアドバイスを聞いたのだと思う。


彼は大器晩成型。索敵系のスキルを覚えさえすれば、ケイトは唯一無二の司令塔になると確信が持てた。


ケイトのアドバイスで私達のチームは学年で1番と言われるチームになった。

ケイトを中心に私達のチームがまとまった結果であり、誇らしく思った。


しかし、それは長くは続かなかった。


ダンジョン探索実習の後、実力の劣るケイトが私達とチームを組んでいるのが問題になった。

ダンジョン探索中に彼が何もせずに寄生していたと騒ぎになったのだ。

だけどそれは後衛が必要ない程にダンジョンの魔物が弱かったから。

そして、なれないリボル達が動き回っていたので弓の特性上仲間を打つ事を避けた結果だろうから、問題にする方がおかしいと思った。


そして、その結果、ケイトは何も言わずにこの学園をも去って行った。

ケイトの退学の知らせを聞いた日、リボルが執拗に話しかけて来たが何を言っていたのか覚えていない。


ケイトがこの学園から居なくなって気づいたことがある。

私が彼へ向けていた気持ちは、尊敬や憧れではなく恋心だったのだろう。

初恋。

勿論彼を尊敬していたのは本当だがそれ以上に、彼に抱く気持ちは大きかったようだ。



彼が居ないだけで、何をする気持ちも湧いてこない。

私はこれからどうしたらいいのかな?ケイト



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ウィンダム学園学園長室


学園長のイグニスは仕事の書類に目を通していた。

そこに、ノックもせずに入ってきた人物に目をやり、苦笑いで書類をデスクに置いた。


イグニスは来客対応用の長机に訪問してきた人物を通して自分は対面に座る。

静かな部屋であっても、高級なソファは音を立てずに心地よい姿勢で受け止めるように沈んだ。


「ヴィント、せめて先に連絡くらいはよこして欲しいね。で、今日はどんなご用件で?」


「わかってるんしょ、アネモス。

彼をなぜ退学にしたのか聞きにきたのよ」


七風花のヴィント。シャディ・ヴィント・クレセントは同じく七風花であるアネモス。イグニス・アネモス・ガネスに質問した。

シャディの口調は家族達と話す時の抜けた雰囲気はなく、強者の面影があった。


「退学にしたのではありませんよ。

彼から申し出たのです。 チームを抜けるならもうこの学園にいる意味がないと言ってね」


「学園会議で決まったそうだけど、圧力でもあったんじゃないの?」


もしこの部屋の中に2人以外の人がいれば、その人物は気を失うであろう程の殺気がシャディから放たれた。


「ハハ、この学園に貴族の圧力が通用しないのは分かっているでしょう?

その様な圧力に屈しない為に七風花である私が学園長なのです。

貴族に屈しないが故、どんな生徒でも特別扱いすることは出来ない。

これはウィンダム初代国王と学園の初代学園長の七風花が取り決め、受け継がれてきた事です」


イグニスはシャディの殺気の中、涼しい顔でそう返事を返した。


「そうよね」


イグニスの言葉にシャディは短い返事を返す。

いつの間にか、殺気はなくなっていた。


「その取り決め無しに私の意見を添えるならば、今回の件は明らかに失策でしょう。

彼はまだ一年。これから芽吹くかも知れない種を掘り起こして捨てる行為だ。

それに、彼には何かある。そう私の勘が言ってますよ。

大きな魚を大海に放してしまったと。

取り決めを逆手に取られ、貴族の言いなりに近くなってしまった。これは浮き出て来た問題点です。

次の七総会での議案に提案するつもりです」


「イグニスさんもそうおもいますか?

やっぱりケイト君には何かありそうですよねー。居なくなってしまったのはとても残念です。

でも困りましたねぇ。

ケイト君が居なくなってからアリッサが塞ぎ込んでしまってるんですよぉ。母親としてはとても心配ですー」


穏やかになった空気の中、シャディの気の抜けた声が響いた。

イグニスの対面に座っているのは、先程までとはとても同じ人物とは思えないほどにこやかで、ぽわぽわと気の抜けた表情をしているシャディであった。


「あなたの娘は大丈夫。それは貴方も分かっているでしょう?

彼が抜けてもあのチームの結束は強い

きっと、乗り越えられるでしょう」


「そうでしょうかー?」


「そうですとも」


そういうとイグニスは席を立ち、部屋に備え付けられているポットでお茶を入れて、お菓子と共に机へ置いた。

その後2人は、学園でのアリッサの生活について話をした。まるで保護者懇談会のように。


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コンコン。

ドアをノックする音が聞こえる。


アリッサは気怠げにベットから身を起こすが、ドアの向こうへ返事はしなかった。

今は誰とも話したくないほどに気が滅入っている。

部屋に閉じこもってケイトのことをどれくらいの時間考えていただろうか。

溢れそうになった涙を親指で順番に拭い、一度は顔を向けた扉から目を離してまた寝転ぼうとした所で扉の向こうから扉を無視した大事で話しかけられた。


「いつまでそうしているつもりですか!」


聞こえてきたのは幼馴染と言っていいほど長く一緒にいる少女の声だった。


「エルサ…」


長い事出していなかった声は想像以上にかすれていてエルサには聞こえなかっただろう。


「私達は前へ進む事を決めました。アリッサはどうするおつもりですか?」


「アリッサ、私達と一緒に強くなりましょう」


「そうニャ!」


何故、簡単にそんな事が言えるのだろうか?

彼女達にはケイトは必要ないと言うの?

皆んなも私と同じだと思ってた。でも、彼女達も違う! 誰もケイトの事を分かっていない!


「アリッサ、今の貴方のそんな姿をケイトが見たらどう思うでしょうか?

次に会った時、成長のない私達をみたらケイトはどう思うでしょうか?」


え…?


「周りがケイトを蔑もうと関係ない! 私達は彼が居たから強く結びつき、強くなれた! それは、私達が分かっていればいいんです! 学園の噂で彼は学園から逃げ出したなんて言われてますが、真実だと思いますか?」


「そんな事!」


「そうです。そんな事あるはずがないんです。

確かに学園会議で私達のチームから外れる事になったのは事実だそうです。 これはちゃんと確認しました。

だけど、退学は自分から申し出たそうです。

学園を去る必要はなかったのにです。

なら、ケイトは何か考えがあって学園を去ったんじゃないでしょうか?」


「ケイトの考え?」


「それが、何なのかは私達には分かりません。 ケイトの考えは斬新で突拍子も無さすぎますから。

でも、ケイトが私達に挨拶もせずに去ってしまったのには意味があると思いませんか?

私達が知るケイトはそんな薄情なヤツじゃなかった。そうでしょう?」


アリッサの中に、エルザの言葉がストンと落ちてきた。

ケイトが何も言わなかった意味。

そんな事は考えもしなかった。

でも、そう言われると、何かありそうに思えてくる。


「私達は強くなります。ケイトに置いていかれない様に。次に会った時に笑われない様に。

アリッサは、どうしますか?」


アリッサは決意を固めた顔つきで、部屋の扉を開けた。

扉を開けた先には仲間達が、笑顔で待っていた。


「アリッサ、七風花セブンナイツを目指す前に寄り道です。大丈夫、強くなる事に変わりは無いですから」


「ケイトに負けない様に、この国最強の冒険者チームになろう」


「はい!」


「ニャ!」


そうだ、きっとケイトは一足先に世界を巡り始めただけだ。

だから私達も強くなってケイトに追いつく!

ケイトの教えを元に強くなる!


「待ってなさいよ、ケイト!」



これが後に、ブロゼでありながらエクスプロズィを越える歴代最強の卒業生と呼ばれる少女達の決意表明の日であった。




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あとがき



食欲の錬金術師〜草しか食べれないエルフは禁断の錬金術に手をかける〜

https://kakuyomu.jp/works/16817330664101609771


忍者が箒を使って何が悪い!

https://kakuyomu.jp/works/16817330662918128563


の2作品をカクヨムコンテスト9に応募しています。

そちらの評価とコメントも頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。

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