第18話残された少女達の気持ち
ウィンダム王立学園の生徒が生活するエリアにある店のテラス席で、お揃いの制服を身につけた中等科の女生徒が2人、お茶を飲んでいた。
少し放置されたグラスは汗をかいて、テラスの机に小さい水溜りをつくる。
時間帯はお昼を少し過ぎたくらいで、彼女達位の年齢であれば、先輩からの指導を受けて修練場や外でのモンスター討伐へ出向いている時間帯である。
勿論、彼女達はサボっている訳ではない。はずである。
と言うのも、彼女達が所属しているチームは、ここ数日機能しておらず、指導を受けている先輩達から休養を言い渡されたのだった。
「にゃー、ミリィ。私達これからどうすればいいんかニャ?」
「分かんないわよ。
アリッサもエルサもここ数日上の空で連携もまともに取れなかったし、エリーゼ先輩達がいなかったらやばかったでしょ?
初めは皆んな、怒りに任せてガムシャラに戦ってましたけど、最近は、ねえ」
「アイツが言ってた事、本当だと思うニャ?」
「絶対に有り得ない! ケイトは私達に寄生してたわけじゃない!」
「にゃー。やっぱり私達にはケイトが必要だったニャ」
ブリゼ中等科では、リボルが流したケイトの退学理由で少しざわついている。
ケイトは学園会議にかけられて、チームに寄生する癌だと判断された為、退学になった。
その噂は、尾ひれが付いて、寄生を許したバカなチームとして私達は陰で色々と言われていた。
この噂を2人は信じていない。今でも、自分達にとってケイトは必要なチームメンバーだと思っている。
しかし影で囁かれるその噂が、まるで真実の様に広がり、場合によっては周りから同情される事に、2人は落ち込んで、ため息を吐いた。
「カル、私達がケイトとチームを組まなかったらどうなってたと思う?」
「にゃ〜? 想像できないニャン。
仮に今みたいにアリッサやエルザとチームを組んでいたとしても、私達は萎縮して今みたいに仲良くなって無かっただろうし、チームワークも何もなっていなかったと思うにゃ。今の私達みたいに…」
「だよね。そもそも私達は余物だったから、アリッサが誘われるまま他のチームに入ってたらチームに参加もできてなかったかもね」
「ニャー」
「それでね、私、ケイトが紡いでくれたこのチームをこのまま壊しちゃダメだと思うの」
「でも、どうするニャ?」
「それはね、」
カルの耳はミリィの言葉を聞いて、今までしおれていたのが嘘の様にピンと立ち、ニシシと笑顔を見せた。
ミリィも一緒に年齢相応の笑顔で笑った。
そして2人は、仲間なら同じ事を考えてると信じてある場所へと走り出した。
___________________________________________
少女の持つハルバートで、モンスターがまた一体真っ二つになった。
少女は振り抜いた遠心力を利用してハルバートを肩へ担ぐとフンと鼻を鳴らした。
この時期に、槍の上位スキルであるハルバートを扱っている生徒は珍しい。
それだけの才能がある証拠であった。
しかし、このスキルは自分の才能だけではなく、なぜか知識が豊富だったある少年のアドバイスによって開花したスキルだと言う事は自分が一番理解している
湧き出るイライラをどこかにぶつけたかったが、周りにはもうモンスターが居なくなっていた。
チッと無意識に舌打ちが出てしまう。
「やはり流石です。才能が違いますね、エルサ様!」
声を掛けてきた友人は元々、エルサがチームを組もうとしていた友人達である。
貴族の派閥関係の知り合いだが、エルサは友人だと思っていた。
「しかし、遂にやりましたね。
アリッサ様をたぶらかした平民が居なくなりチームは分解寸前です。
私達のチームはアリッサ様とエルサ様の受け入れ体制は万全に整っています」
友人からすれば、エルサの事を思った何気ない言葉なのかもしれない。
しかし、エルサはその言葉を発した友人のジェットを睨んだ。
「ひっ。ど、どうされました?」
エルサは怯えるジェットに怒鳴るわけでもなく「何でもない」と言ってため息を吐いた。
彼らからすれば、当たり前の言葉なのだ。
エルサも初めはケイトの事をアリッサに取り入った邪魔な平民だと思っていたのだから。
数日前、指導を受けている先輩達からケイトがチームから離脱し、学園を退学すると報告を受けた。
それを聞いた私達は直ぐに学園長へチーム全員で抗議へ向かったが、ケイトは既にこの学園を去った後だった。
学園会議で脱退が決まった後、ケイトは直ぐに退学手続きを済ませたそうだ。
ケイトが自分達に相談もせずに勝手にどこかへ行ってしまった。
やりようのない怒りをどこかにぶつける為、エルサ達はその怒りをモンスターにぶつけた。
しかし、連携も、モンスターの討伐も、ケイトが居なくても何とかなってしまう事実が、私達のもやもやする気持ちを更に大きくした。
それから、私達のチームは訓練に身が入らず、今日はついに先輩達から休日を言い渡された。
それでも、イライラの憂さ晴らしをする為に、この友人のチームへ混ぜてもらってモンスターを討伐しに来た訳だが、やはり何も変わらない。
最初に今のチームに参加した時は、早く解散させてこのチームに合流するつもりで参加した。
アリッサの身辺警護を平民には任せられないと言う意地。
しかし、平民と馬鹿にしたケイトは至る所でエルサを上回っていた。
物事の考え方、算術、作戦立案、計画、そして効率のいい訓練の仕方。
何より、彼のアドバイスで私は槍術の上級スキルである戦斧槍術をおぼえたのである。
ケイトのアドバイスが無ければ斧術に手を出そうと思わなかったのだから。
ケイトが、彼が私の価値観の壁を取り払い、バラバラだったチームをまとめ上げたのだと尊敬もしていた。
そんな彼が居なくなった。
今のモンスターを倒した攻撃だってそうだ。
あんな独りよがりな戦い方は、アリッサチームなら話し合い、注意を受ける。
そして、大概は彼が改善点を提案してくれて、いい所はそのまま、チームの連携に繋げられる方法を練習する。
確かに、レベルが上がり始めてからケイトの成長は遅れ気味だった。しかし、ケイトはちゃんと仲間だった。アリッサチームに必要なメンバーだった。
「ケイトが、私達に何も言わずに何処かへ行くなんて…」
ふと、エルサのもやもやした考え事がある可能性を導き出した。
「そうだ、アイツが私達に一言も無く去ったのには意味があるのかもしれない」
「エルサ様?」
「すまない、用ができた!」
エルサを呼び止める声を振り切って、エルサは思いのままに走り出した。
自分の考えを皆んなに伝えて、話し合いたいと思った。
皆んなの元へ走るエルサの足は、いつもよりも軽い様な気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます