第17話時間のズレ

ダンジョン探索実習から数日後、ケイトはとある場所に呼び出されていた。


「ここだよな」


ケイトが見上げたのは扉の上にあるプレートにはこう書かれていた。


《学園会議室》


生徒達だけの用事ではまず使われる事はない特別な会議室だ。

つまり、今日ケイトが呼び出された相手は生徒以外の学園会議室を使うに足る人物だと言える


ケイトは、部屋のドアをノックをして返事を待ってから部屋へと入る。

学園会議室の中は普通の部屋と違って円卓のテーブルになっており、上座側に学園の教員達が座っている。

入学式で話をしていた学園長が中心に座り、その左側には確か教頭、学年主任、担任が座っている。

ケイトは、学園長付きのメイドに席に案内された席に腰を下ろした。

場所は学園長の対面にあたる席だ。

円卓には何故かリボル達のチームも座っていた。


リボル達はまるで嘲笑うかの様にニヤニヤした顔でケイトをみている。

どうしてここにリボル達が居るのか?リボル達にケイトが質問しようとした時、扉が開き、新たに2名が学園会議室へ入ってきた。


ゲイル・クレセントとゲンガ。


2人はメイドに案内されて上座側の学園長の右側へと座った。


2人が着席すると学園長が話をはじめる。

ケイトはリボル達に話しかけるタイミングを逃してしまった。


「さて、皆様に集まっていただいたのはそこに居るリボル君からとある報告を受けたからです。

内容はそこにいるケイト君のチーム寄生。

チームのなかで明らかに実力の劣るケイト君がチームメイトの成長を阻害していると言うものです」


学園長が議題を発表すると、続きを教頭が引き継いで話し始める。


「では続きを私から。

本件は中等科1年のアリッサチームに、成長が著しく劣っているケイトがいる事でチームの成長阻害、更にはこれからの実習授業で連携が崩れる危険性、そして自分が劣っている事を理解しながら、チームに寄生し続けていたとすれば、それはとても重い罪と考えられます。

ケイト君は弓使いの後衛としてチームに在籍していますが、索敵系スキルを持っておりません。その為、前衛や中衛のチームメイトに索敵を任せており、後衛として、いち早くモンスターを発見して接近する敵を牽制する事もできず、ワンテンポ遅れており、チームを危険に晒す可能性が大きい。と言うのがリボル君の告発です。


この事について教員で話し合いをした結果、先日のダンジョン探索実習を引率して頂いたゲンガ殿、そして能力を見る事ができるゲイル閣下をお呼びして、意見を伺いながら今後についての話し合う為の場を設けさせていただきました。

先ずは、ゲンガ殿からダンジョン探索実習中のお話を伺いたいと思います」


ケイトは今知ったのだが、この会議はケイトを今のチームから追い出す為にリボルが仕組んだ物のようだった。


「俺が見たのはダンジョン探索の時だけだからなんとも言えない」


ゲンガの話の内容にリボルは面白くなさそうに顔を歪めた。


「その上で事実だけを話すとすれば、俺が見ていた限り攻撃回数は0で、戦闘中の指示は別の生徒がこなしていた。それは事実だ。

最後に緊張が解けて気絶してしまった所は、まぁ不安要素である事は間違いないな」


リボルの顔がニヤニヤと笑う様にケイトをみている。

小さな子供の様にコロコロと表情が変わるリボルを見てケイトは面白いと思った。


ケイトは自分の事が議題となり、審議されている事にあまり関心がなかった。

時を止めていた時間、体は成長しなくとも心は成長すると言った所だろうか?

もともと中年のおじさんの精神だったケイトは久々の学校、久々にできた同級生に体に引っ張られて子供の心を取り戻しつつあった。

しかし、時を止めて、孤独にダンジョンに篭った事で精神が変に成長してしまった。

最近は、アリッサ達と過ごしていても、成人式や同窓会で会った学生時代のの同級生の様に少し距離を感じているし、レベルが上がって強くなった為、早くこの世界を見て回りたいと言う欲求の方が上を行っている。

当初の目的である索敵系のスキルは手に入れていないが、その対策も考えてあった。

なので、この話し合いの結果、チームを離れる事になっても良いのではないかと思ってしまっている。


「彼は娘が連れてきた時にステータスは見ているし、今も確認したが、彼のステータスは低く娘達のチームでは一つ劣るだろう。

しかし、娘が連れて来たくらいだから優秀なサポーターだと思っていたのだが…」


ケイトは少しイラっとした。

以前アリッサに注意されていたが、ステータスを勝手に覗くのはマナー違反だ。

この会議の中だから仕方ないのだろうが、一言あってからでも良かったのではないかと思う。


しかし、今のケイトはステータスを見られようが関係ない。

ダンジョンの深層で手に入れた【イツワリノ指環】が右手の人差し指にはめられており、それによってケイトのステータスは偽装されている。

だからここに呼ばれたのがアリッサの父、ゲイルよりも高度な鑑定スキルを持っていようとも、時魔法やステータスに疑問を持たれる心配もなかった。


しかしそれは、この会議において、ケイトの不利にしかならず、会議の結果はアリッサのチームからケイトは脱退して他のチームに編成、又は受け入れるチームが見つからなければ留年という事になった。


しかし、その結果にリボルが異議を唱えた。


「学園長、 俺はコイツの退学を求めた筈だが?」


その言葉に、学園長含め、教員達はやれやれと言った感じになった。


「リボル君、ケイト君の実力は今のチームでは不足と判断した。しかし、この学園の退学を言い渡すほどではない」


「いいや、アイツは寄生した上にダンジョンのモンスターがもう少し強かったなら俺達貴族を危険に晒した事だろう。

その様な平民は国の為にはならない」


「それは考えすぎではないかね?

君達はまだ中等科一年であり、まだ成長してどうなるかは分からない。

それに、貴族や平民と分けて考えるやり方は学園はしていない」


学園長の言葉にリボルが悔しそうに押し黙った。

リボルは舌打ちをしてケイトを睨むが、言い返す事はしない様だ。


「それでは、会議を閉会する」


学園長の言葉で会議が終わると、教員やリボル達が帰っていき、この部屋には学園長とゲイル、ケイトが残っていた。


「ケイト君、すまないな。大事な議題だ。嘘を言うわけにもいかない」


ゲイルも、それだけ言ってケイトの返事は聞かずに部屋を出て行った。


「さて、異議はありますか?」


学園長はケイトにそう質問した。


「いえ、大丈夫です」


「ほう、文句を言う為に残っていたのではないのですか?」


「平民の私が先に退出するのは躊躇われますし、学園長も残ってらしたのでなにかあるのかと思いまして」


「ほっほ、君はしっかりした教養に観察力もあるみたいだ。

君の観察力、それによる作戦立案力を売りにすれば残れたかも知れないよ?」


「このままチームに残るのはお互いの為にならないのは事実だと思っています。

実力に差があると成長の妨げになりますから」


ケイトの話を聞いて学園長はピクリと眉をあげた。違和感を感じただろうか?


「あと、留年ではなく退学の手続きをお願いします」


「何故だい?」


「今の時期にチームを外れて他のチームに移るのは難しい。

既に形になっているチームが新しいメンバー、しかも索敵を使えない後衛を入れる意味はない。

とすれば留年して来年新しいチームを組むのが普通でしょう。

なら俺は少し早いけど、世界を回る旅に出たいと思います」


「索敵もできないのに世界を旅するのは自殺行為ではないかね?」


「それでもですよ」





その後、ケイトが退室した学園会議室で、学園長は窓から夕日を眩しそうに見ていた。


「もしかしたら、離した魚はとてつもないかもしれませんね。

…この横暴な貴族達をどうにかしなければ、国力は衰える一方ですよ、ウィンダム国王」



学園長の独り言は誰にも聞かれる事のなく、夕空に溶けて消えていった。

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