第16話成長酔い

ケイトはダンジョンを攻略した後、アリッサ達の居る入り口まで戻ってきた。

特に急いだわけでもなく、攻略したダンジョンの思い出を振り返りながら帰って来たから、帰りだけでも1年くらいかかった感じがする。

時が止まっているのに振り返りながらとは妙な言い回しだが、入り口に近づく程に、こんなモンスター居たっけ?と思うほどに記憶は薄くなっていた。

時を止めてからこれまでで体感7年〜8年程の時間が掛かった感覚だ。

体感で言っているのは、体が成長せず、時間が動いている感覚が次第に衰え、本来過ぎた時間など等にわからなくなっているからだ。


初めの頃の装備を分けておいて正解だった。そうでなければどんな装備でここに来たか思い出せずに仲間達に変に思われていたかもしれない。

ケイトは装備を時を止めた頃の装備に元に戻し、ついに時を動かし始めた。

たしか、ダンジョンに来たのは学園の実習できたんだ。

時を止める前の会話の内容などは、もう思い出せないが、話を合わせるくらいはなんとかできるだろう。


動き始めた時の中、ケイトは目の前が、光に包まれるように真っ白になっていくのを感じた。


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ダンジョンの出口が見え始め、学生のお守りの終わりが近づいてきた。

ダンジョンの一層をぶらぶらと引率するだけの楽な仕事だった。

こんな仕事なら鼻をほじっていてもこなせる。

そこそこな金も貰える為、取り合いになる人気の仕事だ。だからマナーのいい奴にしか回ってこない仕事でもある。

学生の頃に優秀な成績を収め、これまで真面目にやって来てよかった。

後輩の育成と仕事の両立ができるなんて、面倒見のいい俺には最適の仕事だ。

問題がなければまた次の引率も回してもらえるといいな。


ゲンガは頭の端でそんな事を考えながらも、後方から魔物の追跡が無いのを確認する。最後まできっちり仕事はこなさないとな。

後方の確認の為に、一瞬目を離した隙に、前を歩く学園の生徒達から悲鳴が上がった。


モンスターが隠れていたか?なんてタイミングの悪い!


ゲンガがそう焦りながら前を向き、盾を構えて学生とモンスターの間に割り込もうと動くが、前方にモンスターが現れた様子はなかった。

盾を下ろして、学園の生徒達が集まって居る場所へと駆け寄る。

するとそこには1人の生徒が倒れていた。


「何があった?」


「分かりません、急にケイトが倒れたんです!」


ゲンガの質問に倒れた生徒と同じチームの生徒が答えた。

たしか、アリッサだったか。

このチームを上手くまとめて指示を出していたリーダー的な生徒だ。

今も倒れた生徒の脈を確認して、生存確認をしつつ、慌てるチームメイトに声をかけて落ち着かせる為に状況を話している。

遠目に見ても分かるがありゃ気を失っているだけだな。

ダンジョン実習が終わると思って緊張が切れたのかな?

まぁ、混合編成で後衛なりに気を配り、予測不可能なチーム外の生徒の動きに注目してたろうからな。

簡単な一層だったし、この閉鎖空間の戦い方を知らなきゃ無駄に集中力が必要だっただろう。それに、初めてのダンジョン探索と言う事もある。

学園へ帰るまでがダンジョン探索なんだがな、まだ学生と言えば学生らしいが。


ゲンガはそう考えて、この倒れた生徒の平凡さにクスリ出そうになる笑いを堪える。

ゲンガも一応脈を測り、生徒に異常がない事を確認する。


「お前ら、大丈夫だ落ち着け。

ただ気を失ってるだけさ。緊張の糸が切れたんだろうさ。

学園に戻ったら一応治療師に診てもらうがまあ問題ないだろう」


ゲンガは引率の生徒達を安心させる為に大声で話した。


「で、コイツの指導生徒はどっちだ?」


「はい、自分です!」


「ならお前が背負って運んでやれ。学園までもう少しだからな。気は抜くなよー!」


元気よく返事をした指導生徒に気絶した生徒を任せ、他の生徒が気を抜かない様に注意をした。


気絶した生徒が問題なく、無事だと分かれば他の生徒も落ち着きを取り戻し、ダンジョンを出た後、何の危なげなど何も無く学園へと帰る。

少し焦りはしたが、このくらいのアクシデントはゲンガにとって気にするほどの事でもなく、ダンジョン実習は無事に終了を迎えた。


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「ん…」


「みんな、ケイトが目を覚ましたよ」


知らない天井を見るのはこの世界に来て2度目だったが、今回は天井と一緒に、自分を覗き込むチームメイトが目に入った。


「俺はいったい?」


「覚えてない? ケイトはダンジョンの途中で倒れたんだよ」


状況的に気絶したであろう事は分かる。しかし、今回は別に殴り飛ばされたわけではない。

思考するうちに、頭が目覚めて来たのか、状況を思い出してきた。


ダンジョンを攻略した後、皆んなに合流して時を動かした。

すると、動かした途端に目の前がぐにゃりと曲がり、足の力が抜けよろめいてしまった所までは覚えている。

その後、気を失って倒れたんだろうな。


ケイトには、なんとなく倒れた原因を想像する事ができた。


LV1736


自分のステータスを無言で確認したケイトはニヤケそうになる表情筋を必死に抑えた。

そして、皆んなに見えない布団の中の手で力強く拳を握った。

ダンジョン探索の成果が目に見えた瞬間である。

倒れた原因はステータスが急激に上がった為のレベル酔と呼ばれる症状だろう。

急激にレベルを上げると気分が悪くなる。と座学で習ったが、ケイトの場合は異常なレベルアップに耐えきれず、気絶してしまったのだろう。


いや、気絶で済んで良かった。

身体が耐えられずに死亡とかだったら洒落にならなかった。


レベルは座学で習った勇者のレベルなど軽く凌駕し、勇者の3倍以上のレベルになっている


ステータスの上がり幅が人より遅くても、勇者位には強くなっていそうである。

もしかしたらそれ以上である可能性の方が高い。

そう考えると、ついには堪えきれずに口角が自然と上がってしまう。


「なににやけてるニャ? やっぱり頭でも打ったかニャ?」


「いや、大丈夫。 もうなんともないよ、 ほら」


ケイトは肩を回して健康な事をアピールする。


その後、治療師の先生から大事をとって部屋で1日ゆっくりする事を約束させられ、ケイト達は治療室を退出した。


帰り道、アリッサ達チームメンバーはケイトに少し余所余所しさを感じていた。

ダンジョン実習の話や授業の話をしても相槌をうつくらいで話がいつもの様に盛り上がらなかったからだった。


違和感を感じながらも、寮にたどり着いたアリッサ達は、解散してそれぞれの部屋に戻るのだった。


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