第15話契約者

ダンジョン実習のあの日、ケイトが時を止めてからケイトの体感で1年程が経過していた。

勿論、時が止まっているので時間の経過はしていないのだが、それほど長い時間、時の止まった中でケイトは過ごしていた。


あの日、ケイトが時を止めたのは滅多に入れないダンジョンでレベルを上げる為だった。

仲間の成長についていけず、置いて行かれる恐怖に抗う為に、ケイトは時の止まったダンジョンを一年もの間ダンジョンに潜り続けた。

幸い、時が止まっている為腹も減らない。

そして、現在ダンジョンを進み続けて47階層までやって来ている。

時の止まった中でマトイを使った戦闘法で遅いながらもモンスターを倒して来た。

マトイを使えばこの階層のモンスターにもダメージは通るようで、何回も攻撃すればステータスにきちんと死亡と表示される。

勿論、武器の性能もあると思う。

ゴブリンの剣は早々にダメになり、ダンジョンのモンスターから武器を奪って使い、ここまで来た。

色々な武器を使ってきたお陰で槍や斧、調子に乗って双剣のスキルまで覚えてしまった。

レベルと違ってスキルは熟練度なので時が止まっていても上がると分かったのは発見だった。


もうお分かりかとおもうがケイトの計画とはダンジョンの完全攻略である。

時を止めたダンジョンで全てのモンスターを倒しながら最下層まで攻略する。


仲間と同レベル帯でステータスが劣るならば、誰も到達したことの無いレベルまで上げてしまおう。

ステータスだけでなく、レベルでも能力は上がっていると思う。

だから学園の初期は皆についていけたし、皆のレベルが上がり始めてから、劣っている様に感じているのである。

あのゴブリンの分のリードが無くなったのだろう。その分をまた巻き返すだけでなく、目一杯広げるのだ。


そしてもう一つ。

このダンジョンの最高到達階層は10層だと習っている。

他のダンジョンでも過去に勇者が到達した34層だそうだ。

その勇者でさえ、踏み入れたことの無い最下層まで攻略すれば強力な武器やアイテムが見つかるだろうと考えたのだ。


最初のうちは慣れないマトイを使いながらの戦闘の為、非常にスローペースだった戦闘も1年もすれば熟練度も上がり、通常の戦闘と同じ様に動けるようになった。


動きがスムーズになってからの攻略スピードは予想以上のスピードである。

魔物が止まっている為、倒すのは一方的な上、トラップも発動しないので気をつける必要もない。

その為、宝箱も見つければその都度開けて、収納放り込んでいる。



その後、体感で5年が経つ頃には120層を越えて128層まできている。


勇者よりも深く潜って、多分当時の勇者よりも強いモンスターを倒している。

勿論、時が動いていればレベルがどれほど上がっていようとも敵わない相手であろう。

そんなモンスターを日々倒せるのは、時魔法とマトイのおかげである。

あと、魔物の持つ武器や宝箱から出る武器も有用だった。


ちなみに、今使っている武器の名前は鑑定した所、聖剣ガリオレイズ。 本物の聖剣である。

100層で手に入れたこの剣のおかげで、ゴリラのキメラの様な魔物も、デカすぎる鬼も倒してこれたのである。

聖剣と言うだけあって、マトイと相性が良く、剣身に魔力を纏わせるのでなく、魔力を流せば魔力を吸収して光り輝き、普通のマトイの何倍もの威力が出せる。

そして剣に流す魔力に集中する必要がなくなる分、身体の魔力のコントロールがより精密にできる。


ダンジョンの深い所まで潜って気づいた事だが

街で売られている物や、低層で見つけた武具は銅や鉄製だった。

ダンジョンの35階層ほどから下で稀に出現するミスリル製の武具やミスリル鉱石。

これは巷では知られていない素材である。

異世界の知識があるケイトだからそれらの素材が魔力との親和性が高いと分かるし、その上の聖剣なら更に魔力を強めてくれるのも分かる。


座学で、過去の勇者が使った聖剣の話がでてくる。特殊な剣で、勇者が使うと青い軌跡が残ったと言う一節だ。

ミスリルの剣は魔力を流すとぼんやりとした青い軌跡を残す。

勇者はケイトと同じ異世界の人間だったから剣に魔力を流して使ったのではないかと思う。

聖剣も、ダンジョンで見つけた唯のミスリルの剣の可能性がある。

勇者の到達階層がそれくらいだ。


だとすれば、名前に聖剣とつくこのガリアレイズはどれ程の価値になるのだろうか?

怖いので、一旦考えない様にしようと思う。



次の階層へと降りると、今までとは雰囲気がガラッと変わった。

何も無い只々白い空間が無限に広がっていた。


その空間は通路なども何もなく、壁も何も無い空間。

しかし無限に見えるものの、ガラスよりも透明度が高い、目に見えない壁があり、一定より先に進む事はできないようだ。

その壁はこの空間を正方形にしたように囲ってあり、その中心には無機質な台座があった。

台座の上に、黒い立方体が浮かんでいる。

箱ではなさそうなので、ケイトは立方体を鑑定してみた。


《トランフィヴノイズ》


神の残した奇跡。

主人の戦闘スタイルによって姿を変える武器。

契約後、契約者が殺した生物の数だけ能力値が1づつ上がる


契約者______


ケイトは、恐る恐る立方体、トランフィヴノイズに触れた。


契約者ケイト


立方体は赤い光を浴びながら変形して弓の形に変わった。

そして、ケイトの頭の中にトランフィヴノイズの使い方が焼き付く様に刷り込まれてきた。

そしてケイトは理解した。


このダンジョンを攻略したのだと。

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