第14話ダンジョン実習
「今日は足手まといがいるからってペースは落とさないからな」
ダンジョン実習開始時、開口一番そう言ったのはリボル、リボル・ガーテルだった。
ウェーブのかかった金髪をオールバックにガッチリと固めたチーム決めの時にアリッサを誘いに来た貴族である。
アリッサに惚れているらしく、アリッサのチームで唯一の男であるケイトを目の敵にしている。
貴族至上主義であり、彼のチームは平民を見下しており、よく暴言を吐いて威嚇している。
なぜ、今回リボルがケイトに向かってこの様な事言ったかと言うと、ダンジョン探索の授業は2チーム合同で行う事になっており、リボルのチームとケイトのチームが合同でダンジョン探索する事になっている。
ケイトのステータスがクラスの中で劣っている事は皆が知っている為、リボル達貴族至上主義の人間からすればいい獲物なのだ。
とは言え、ダンジョン探索に使われるダンジョンは学園所有のFランクダンジョン。しかも一年時は一層のみでBランク冒険者の引率付き。
ケイトのステータスでも、下手な事にならない限り大丈夫である。
因みに、Fランクダンジョンとは、一層に出現するモンスターのランクで決まり、奥へ進む程ランクが高く強くなっていく。
「リボル、ケイトは私達の大事なチームメイトだ。足手まといなんかじゃない」
「俺は別にそいつの事言ったつもりはないんだがな?」
リボルの言葉に取り巻き達もクスクスと笑っている。
エルサもリボルがいつもケイトに突っかかっているのを気にしていたので揚げ足を取られた形だ。
ケイトもそれは分かっている。
だから、リボルの事よりも、初めは貴族と平民に壁を作っていたエルサが庇ってくれた事が嬉しかった。
なので、エルサがケイトに弁解しようと焦っているが、ケイトは苦笑いをエルサに返す。
それだけで、意味が通じてしまうほどチームとしての信頼関係はしっかりしてきた。
それを見たリボルは、面白くなさそうにフンと鼻から息を吐いて、リボル達を指導する先輩の方へと去って行った。
今回、ケイトやリボルのグループにはBランク冒険者のゲンガが引率に就く。
ゲンガはスキンヘッドで少しポッチャリ体型の冒険者だ。
見た目はぽっちゃりだが、意外と素早く、タンク役に恥じない防御力や働きに定評があり、もしもの時に生徒達を逃す殿にはうってつけの人物だ。
ゲンガがダンジョンへと入る時の要点を説明して入口へと向かう。
あまり人数が多すぎても引率しづらいという事もあり、冒険者の引率にゲンガ。上級生はエリーゼとリボルのチームの指導上級生で、爬虫類顔のダッカンの2人が代表して引率する事になった。
ダンジョンの一階層は只の洞窟といっても差し支えのない。
罠なども無く、街道を外れた草原のいつも指導を受けている場所と比べて、特に強いモンスターが出るわけではないが、生息地が違うので別種類のモンスターが出現する事と、洞窟と言う閉鎖空間なので、戦い方がいつもとは少し異なる。
だがしかし、学園の中等科にもなれば、洞窟内での戦闘も座学で学んでおり、焦らなければ、戦闘になってもさして問題なく戦うことができた。
「ダンジョンってもこんなもんか。つまらないな」
何度か戦闘を終えた後、リボルが言った言葉である。
出現するモンスターは草原よりも数が多く、いつもと違う魔物が出ては来るものの、それだけである。
閉鎖空間であり、通路である為、多数が現れても注意する方向も決まっており、対処もしやすい。
所詮は一層。
ダンジョンと言う空間を経験させる為の授業なのだから、クラスで上位成績者のチームを組ませたようなこの編成では拍子抜けなのである。
一層な為、宝箱みたいなダンジョンらしい物も発見する事はなかった。
代わり映えのしないダンジョンでの授業にリボルは不満なようである。
ダンジョンでの授業と言う言葉に期待をしていただけに落胆も大きいのだろう。
つまらそうに探索するリボルに、取り巻きの1人が何かを思いついたかの様にリボルに耳打ちする。
飽きて注意散漫、モンスターが出ても戦闘にはほとんど参加していなかった不満顔のリボルは、なにかいい事があったかの様にニチャリと笑った。
そして、ケイト達を見て、更にニヤニヤとした表情を深めて、今までが嘘の様に嬉々として率先してモンスターを狩りはじめたのだった。
数時間の時間が過ぎ、引率のBランク冒険者ゲンガが授業終了の合図を出した。
ダンジョンから出るまでの時間を考えるとここで引き返すのがベストのようだ。
今回のダンジョン探索は、敵が弱いこともあり、チーム間の連携がなくても簡単に進む事ができた。
アリッサ達はいつもの様に魔物を倒して行くのは勿論の事、リボル達も途中から何故かやる気を出した事もあってケイトの出番は無かった。
剣が壊れており、後衛として弓を使っているケイトは、連携の取れていないリボル達がいる所で弓を引く事にリスクを感じて、何もしなかった。
閉鎖空間で仲間を撃つ可能性に比べれば、何もしない方がましであるとおもったから。
皆がダンジョンから出る準備を始めたその時、ケイトは時を止めた。
ケイトはこの時の為に考えていた作戦を実行して、時の止まったダンジョンの奥へと1人で足を進めるのだった。
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