第13話纏う魔力
ケイトは時の止まった訓練場でゴブリンから奪った剣を構え、振り抜いた。
そのまま流れるような動きで剣を振り抜いていく。
その動きは殺陣、あるいは剣舞と言われる動作ににている。
その動きが一通り終わると、ケイトは深呼吸して気合いを入れた。
今度は先程と同じ動きをスローモーションで流しているようなゆっくりとした動きでやり始めた。
非常にゆっくりとした動きだが、先程よりもケイトの顔は険しく、しんどそうだ。
これは、中等科で初めて指導を受けた頃から続けている日課だ。
時を止めているのでゴブリンの剣が使えている。実はこの剣で、あの時ゴブリンから手に入れた剣は最後だ。
今やっているのは、初めの剣舞と同じ動きを、体や剣に魔力を流しながら行っている。
あの日、先輩達に禁止された事をケイトなりに習得しようとしての事だ。
切り札として、修得しておこうと考えての事だが、禁止されているのでこうして時を止めた中で練習している。
最初は、安直に体や武器に魔力を流そうとした。しかし、武器を粉々に破壊してしまうような技だ。
実際、少し体に魔力を流してみただけで激痛に悲鳴を上げた。
骨が軋む以上の激痛がながれ、数日は体を動かすのが辛かった。
今流せているのはちょっとした抜け道を見つけたからだ。
魔力。
これを一般的には詠唱形を持たせて放出する、これが魔法である。
大体の人はスキルによって魔法を使うのでそこまで気にしている人はいない。
その魔力を体に流した場合、耐えきれずに体が壊れてしまう。
これは、人の体が元々魔力との親和性が薄い為、反発して体が破壊されてしまう。
ならなぜ魔法が使えるのか?
それは魔力と親和性のある器官が備わっており、尚且つ放出する皮膚には親和性があるようだ。
なので、スキルによって使う場合はそこだけを上手く使っているようである。
ケイトは試行錯誤の結果、魔力を魔法以外の使い方で使う戦い方を編み出した。
普通はここまで考える人はいない。
ケイトの場合、
マトイ。
体や武器に魔力を纏わせて戦闘を行う事で体に魔力を流した時と同じ様な効果を出す事ができる。
しかも、魔力消費に至っては断然こちらのが少ない。と言うのも纏っている間は魔力を消費しない。
しかし、気を抜けば纏っている魔力が霧散し、その分消費してしまう。
留めておくうちは消費しないと言う意味だ。
ただ、今は実戦で使えるような代物ではない。
気を抜けばすぐに魔力は霧散するし、纏わせたまま体をいつもと同じに動かすのは難しい。
ゆっくりとした動きから、自然にいつでも使えるようにこうして練習中なのである。
ケイトがこうしてマトイを練習しているのには理由があった。
ケイトのステータスは低い。
そして、学園生活を送る中で、仲間達のレベルが上がる中で、ステータスの差が目立ち始めたのだ。
今、ケイトはチームのお荷物になっている。
ステータスが低く、剣術や弓術のスキルは使えるが、チームの穴となる実力。
外に出ない訓練所の模擬戦では仲間達に力負けする。弓術の命中率はそこそこ。
そして、チームの中で未だに索敵スキルを覚えていないケイトは仲間に危険を伝えることも出来ない。
今や完璧な劣等生であり、同級生からはハズレと言われている。チームメイトは何も言っていないが、このままでいいとは思えなかった。
なのでこうして時を止めて人の何倍も特訓しているのだ。
ステータスをカバーできる技を手に入れる為に。
翌日、今日は学園の休息日と言うこともあって訓練は休みなのだが、ケイトはアリッサの家にお呼ばれしていた。
勿論、ケイトだけと言う事はなくチームの仲間達も一緒である。
もうすぐ、初めてのダンジョン探索実習がある。 ダンジョン探索と言っても学園が所持するダンジョンの一階層を半日の間、Bランク冒険者の同伴で探索すると言うもので、危険はほぼ無いのであるが、アリッサの親は子供と共に探索する仲間を見たいそうだ。
なので、今日は平民であるケイトやミリィ、カルもお呼ばれしているのである。
アリッサの家は貴族の家が立ち並ぶ区画の奥の方にあった。
周りの家よりも一際大きな屋敷なので爵位が高い家柄なのかもしれない。
屋敷に入って広間まで案内されて待つように言われる。
普段は、貴族のアリッサやエルサと友のように過ごしているケイト達だが、3人とも借りてきた猫の様に緊張している。
少しの間、出された紅茶にも触れずに待っていると、アリッサと共にダンディなおじ様と美人のお姉さんが入ってきてケイト達と机を挟んで向かいに座った。
エルサは椅子から立ち上がって、スカートの端を摘んで軽く会釈をしてまた椅子へと座った。
ケイト達3人もハッとして挨拶しなければと慌て始めるのだが、ダンディなおじ様に笑いながら楽にしていいと言われてしまった。
「君達がアリッサのチームメイトか。
ハハハ、そう緊張しなくてもいい。 私はアリッサの父でゲイル・クレセント。 隣は妻のシャディだ」
「はい、ご紹介頂きましたシャディですよー。 シャディ・ヴィント・クレセントのが有名かしら?」
ケイト達に衝撃が走った。
このウィンダム王国で、ミドルネームが付くのは王族を除くと
七風花はウィンダムを守護する騎士の最高位であり、7人いる事からそう言われる。
有名な3名以外はあまり姿を知られておらず、名前も武器の名前で呼ばれる事が多い為、アリッサの母親が七風花だとは思ってもいなかった。
「驚いておるな」
「そうですねー。 ふふふ、1人だけ男の子と言う事は貴方がアリッサちゃんの想い人でしょーか?」
「お母様、違いますわ!」
否定するアリッサの言葉遣いはいつもと違って少しお淑やかだ。
「ふふふ。本当かしら?」
「本当だろうね?ふむ、そのステータスではまだまだ娘をやる事はできんな」
ゲイルの言葉からしてステータスを見られたと悟ったケイトの背中に嫌な汗が伝う。
「お父様、マナー違反です!
みんなごめんなさい。 お父様は覗き見スキルを持っているの。それでステータスの一部を見れてしまうのよ」
「娘を心配するのは当たり前では無いか。
それに、実戦や社交の場ではスキルを使うのは当たり前、見られたく無いなら見られないように装備を整えるものだ。
君達のステータスと言っても私は攻撃力などしか見れないがな。
君達はまだLV2か3だろう? それでそのステータスなら将来有望だ。
娘はチームメイトに恵まれたな。
しかし、君はステータス的には少し低い。後衛の司令塔かな?」
ゲイルはどうだと胸を張った。
どうやらスキルは見れないみたいであり、スキルの時魔法を隠したいケイトは胸をなでおろした。
その後は楽しいお茶会が始まった。
学園での様子やシャディの七風花の話に花を咲かせ、最後にゲイルからダンジョン探索へ向けての激励の言葉で締めくくられた。
数日後、ケイト達の初めてのダンジョン探索が始まる。
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