第11話初チーム戦
学園の外、街道から外れた場所をケイト達は歩いていた。
街道は整備されていてモンスターは出にくい様にモンスター避けの仕掛けがされている。
モンスターはその仕掛けで離れていく為、モンスターを狩りに行く場合は街道をそれる必要がある。
さらに、モンスターにはナワバリや分布がある為、学園の生徒が狩りに行く場所は難易度によって大体決まっている
「貴族と同じチームになって緊張するだろうけど、これは僕達にとってチャンスだよ。
結果を残せば貴族に拾い上げてもらえる。
エルサの反応からしてアリッサは貴族の中でも位が高い」
ケイトは萎縮してしまっているカルとミリィに話しかけていた。
アリッサとエルサは、気合い充分と先輩達について先を進んでいる。
「でも、貴族様達に粗相をしたら大変ニャ?」
「一応、学園では上下関係は無いとしているから余程の事じゃなければ問題にしないさ。
学園に在学中に貴族との仲を深められれば、騎士として召し抱えられたり、冒険者志望でも貴族にコネができるのは将来的に役にたつ。
今の内にアピールできるいいチャンスだ」
カルとミリィの2人は驚いた様にケイトを見た。そこまでは考えていなかったのだろう。
貴族の不興を買う恐怖の方が大き勝ったのだろう。
「それに、今の時点であの2人に差なんてほとんどないさ。これからの成長次第では___」
ケイトが2人に話していると、急にカルが前を行く4人に向かって走り出した。そしてエルサを後ろから押し倒した。
「
エルサが自分をいきなり押し倒したカルに怒鳴るが、その上を狼型のモンスターが飛び越えていった。グロウウルフである。
もしカルが気づいて押し倒さなければ、エルサはグロウウルフの餌食になっていたかも知れない。
エリーゼやキースが武器に手をかけているからカルが動かなくても滅多な事にはならなかっただろうが、それは言わなくてもいい事だろう。
すぐさまキースがグロウウルフにトドメをさした。
カルの様に反応できなかったケイトとしては溜め息を吐くしかなかった。
学園へ来てから2年。日々の訓練によって剣術スキルや弓術スキルは身についた。
しかし、学園に来るきっかけとなった気配察知は今だにできない。
あの時の不安はまだ取れた訳ではないのだ。ふと手を見ると微かに震えている。
今モンスターに気づいたのはカルだけ。
アリッサやエルザもまだ気配察知は身についてはいないのだろう。
チームの中でカルはだけが身につけているみたいだ。
ケイトがそんな事を考えながらエルサ達に追いつくとエルサがカルに「ありがとう」とボソッと言ったのが聞こえた。
静かな草原で言ったお礼だったので、多分みんな聞こえたと思うが誰も突っ込んだりはしなかった。
それからはモンスターに遭遇ぜず、草原の開けた場所まで来るとキースが今回の指導について説明を始めた。
「今さっきの事を見てもわかると思うが、学園内での模擬戦闘なんかと違ってモンスターは何処から来るか分からない。
今のところ、カルが殺気や気配を読めるスキルを持っている様だが、他はさっきモンスターに反応できていなかった。 これはこれから必須となるスキルだ。覚えなければ不意を突かれて最悪死んでしまう。そうならない様に俺達が居るわけだがな。
気配察知系のスキルを覚えるには何度もモンスターと戦って極限状態で感覚を研ぎ澄ませるしかない。だから、今からこれを砕く」
キースがそう言って丸いビー玉の様なものを取り出した。
「これは、冒険者達が素材を集める時に使うモンスター寄せの玉だ。
効力が一番弱い玉だが、砕けばモンスターが寄って来る。
いいか。気配が読めない奴は仲間と背中を守りながら戦え!カルは気配を読んで仲間に指示をしろ。遠慮するな、貴族も平民も関係ないぞ。
遠慮して連携が取れなければそれだけピンチを招き仲間を危険に晒す。
なに、大丈夫さ。 最悪の事態にはならない。
俺とエリーゼは学年でトップコンビだ、死ぬ前には助けてやる。
だが、なるだけ俺達の手を借りるなよ?」
キースはいい終わると、ケイト達の返事を待つ事なく、モンスター寄せの玉を砕いた。
エリーゼとキースはケイト達を見守る事ができる岩の上にひとっ飛びに移動した。
こうして、ケイト達の最初の試練が始まりを迎えた。
「全員、背中合わせになって。カル、どっちからモンスターが来るか指示して! 頼んだわよ。
私とエルサはモンスターと戦うのは初めてよ。 みんなはどう?」
呆気にとられていた者とは違って、アリッサが一早く指示を飛ばした。
アリッサの指示を聞いてチーム5人が背中合わせに固まり、周りを警戒する。
これも、キースの言葉があったからすんなりとできているが、初戦でパニックを起こしても仕方がない状況だ。
特にエルサは先程モンスターに襲われそうになったばかりなのだから。
しかし、アリッサは自分の不安を口にする事でチームに一体感を持たせた。
「私は村で父ちゃんに付いて何度か戦った事があるニャ!」
「私は剣術道場の娘なのでモンスターの経験はちょっと…」
「俺は何度かあるよ。 索敵系のスキルは無いから指示は欲しいけど」
「え? いえ、それじゃ私とエルサが前衛、ケイトとミリィは後衛をお願い。
ケイトはエルサの援護、ミリィは私ね。
カルは指示をしながら、できたら援護をお願い。
みんな、行くわよ。とりあえずは着実に目の前の敵を倒しましょう」
アリッサの指示で、ミリィは初めてのモンスターに戸惑いながらも頷いてアリッサの横に並んだ。
「貴様と? いえ、今はアリッサ様の言う通りに」
ケイトは周囲を警戒しつつ、今日支給されたばかりの剣を抜いた。
横目で見るとエルサ同じように警戒しながら槍を構えている。
カルがモンスターの来る方向を各ペアに指示しながら援護に入る。
一応、教科書通りにできている。
しかし、何事も全て教科書通りに行く事は難しい。
最初は順調にモンスターを倒せていた。
モンスターが現れるのが少数で、多少連携がギクシャクしていても、弱いモンスターだから何とか倒せていた。
しかしそれは、エリーゼがケイト達を見守り、キースが少し離れた場所でモンスター間引きしてケイト達の方へ送り込んでいたからだった。
勿論、いつまでも同じ量のモンスターを送り込んでいるのではなく、ケイト達が慣れて来た頃に、少しずつモンスターは増やされていく。
すると、ギクシャクした連携のスキは次第に大きな隙を作り、モンスターに押され始める。
そして、遂にはモンスターの攻撃を受ける事になる。
そうなれば、多少なりともできていた連携がとれず、軽くパニックに陥る。
「カル、 君は魔物との戦闘の経験者だ。
アリッサとミリィの援護を優先してくれ! ミリィが攻撃を受けた!」
「わかったニャ!」
「エルサ、ここは2人で踏ん張るぞ!」
「わ。分かっている。貴様に言われなくても!」
ケイトはエルサも少しテンパっている事に少し不安を覚えるが、エルサは武器のリーチが長い槍の為、前衛としてまだ無傷でモンスターを倒せている
まだ、何とかなる。カルが向こうの援護に入った事で向こうの戦況も安定した様だ。
増える戦闘数、余裕のない戦い。
既にケイトとエルサの連携はないに等しくなっており、戦闘に集中する余りお互いに離れすぎていた。
そして、スキルがない2人は敵を察知できないでいる。
「きゃぁ」と言う悲鳴が聞こえた。
ケイトは反射的に時を止めて辺りを見回した。
気付かぬうちに離れた場所で、エルサがグロウウルフに飛びかかられている。
ここに来るまでに襲われた時の恐怖が蘇ったのか目をつぶって反撃が出来ていない。
助けなければ。
ケイトは自分の戦っている目の前グロウウルフ2匹に斬撃を繰り返し、鑑定で死亡表記が付いたのを確認すると、エルサの方に移動して、エルサに飛びかかっているグロウウルフの首に剣を袈裟斬りに振り下ろした。
時が止まっている為飛んでいく事は無かったが、剣が首を通り抜けた。
切り飛ばしたのだろう。今まで一撃でグロウウルフを倒せた事はなかったが、鑑定すれば死亡とでている。
少し剣が光った様に見えたが、気のせいだろうか? 同じ様に剣を振るが、何も起こらないので気のせいなのだろう。
相当、疲れてるな。
そんな事を考えながら、ケイトは時を動かした。
切り飛ばした勢いでグロウウルフの首が飛んだ。
「戦闘中に目を閉じる奴があるかよ?」
ケイトの声でエルサは瞑っていた目を開け、驚いた顔をした。
そして、首が無いグロウウルフを見てたじろいだ。
ケイトが時を止める前からこちらに向かっていたであろうエリーゼが、ケイトの登場に驚きながらこちらにやって来た。
「大丈夫そう…でも無さそうだな。
全員集合! 後は私達に任せて全員守りを固めなさい!」
ケイトはまだやれそうだと思ったが、エリーゼの視線を追って自分の支給されたばかりの剣が
余程扱いが悪くなければ剣は折れないだろうし、砕けるなんて滅多に無いと思うのだが、時の止まった中で無茶をしたせいだろうか?
ケイトは、溜息を吐きながらエルサ達チームメンバーと合流してエリーゼとキースにモンスターを任せて自分達の守りを固める。
ケイトは、不測の事態に対応出来るように《収納》から弓を取り出して辺りを注視するのだった。
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