第7話彼のいなくなった町
ローザとアザレアは冒険者ギルドの受付にクエストの問い合わせに来ていた。
ケイトと北の森のクエストに行ってから一週間、目当ての緊急クエストの発表がなかったからだ。
ローザが受付嬢と話しているのを横目で見ながらアザレアは考え事に耽る。
北の森の異変を報告してから今日まで、この町に変化はない。
そもそも冒険者ギルドからなんの勧告も無いのだから一般人は知る由もない。だからいつもと同じ日常がつづく。
しかしそれ自体がおかしい事だ。
北の森からゴブリン達が消えたという異常事態で、普通ならそれを成したであろうモンスターを警戒しなければならない。
この街から北の森まで人が歩いて行ける距離である。
襲われればこの町。この城下町の中心部には城がある為、そこが襲われれば国が滅んでもおかしくない。
緊急クエストが発令され、城の騎士達と共同クエストが予想される。
そして報酬は国が関わることでかなり大きい報酬が予想できる。
だからオレ達は護衛クエストを受けずにこの町に止まっているのだ。
なのに、北の森の難易度が下げられるなどと言う噂まで流れる始末。
少しアザレアが考え事をしている間にローザの話が終わったようだ。
どうやら個室へと案内されるみたいだ。
混乱を避けるため内密に人材を集めてるのか?
この危機は皆に知らせて対応した方がいいと思うのだが…
アザレアはそんな疑問を抱きながらローザと共に受付嬢の案内について行った。
案内されたのはギルドマスター室であった。
デスクにはギルドマスターが座っており、ローザとアザレア以外に呼ばれた人はいない。
不思議に思いながら2人が案内されたソファに座ると、ギルドマスターのレンヴィルが話しを始めた。
「今日はケイト君は一緒じゃないのかな?
君達と行動していると聞いているが」
レンヴィルはいきなり本題では無く世間話から話を始めた。
緊張しているオレ達に気を使ってくれたのだろうか?
「彼は3日前にウィンダムへと向かったよ」
ローザがそう答えると、レンヴィルは納得した様に頷いた。
「そうか。やはり彼ほどの実力があれば大国へ行ってしまうか。
大国の方が割のいい仕事も沢山ある。仕方のないことか」
「何言ってんだよ。新人を留めておきたいなら小さくてもいいから学校を作りな。
教育をケチってるから新人が出て行って流れ着いたガラの悪い中堅冒険者の溜まり場になんのさ」
アザレアは自分の言いたい事をこの際だと話した。 新人が潰れていくのを何人も見て来たし、自分達が手を貸しても、足手纏いで教育としては上手くいかなかった。
手を貸した事で実力を勘違いして無謀なクエストを受けて死んだヤツもいるくらいだ。
レンヴィルも同じ思いではあった。
国と、騎士達との話し合いの場では何回も議題として持ち出した事があった。
しかし、騎士達から帰ってくるのは王様にその気はないの一点張り。
この国は、勇者を召喚して大国に並ぼうと躍起になっているらしいが、勇者召喚などは絵本の物語か、500年以上生きるエルフ達の語る世迷言である。
学校とは国が作る物である為、レンヴィルは「それができればなぁ」と愚痴をこぼしたところでローザが自分の意見を話した。
「ギルドマスターはケイトの事を随分買っているようだが、 実力を考えてランクを上げるのでは無くゆっくり育てるべきではなかったのか?」
「もうあいつの事は良いだろ。あいつはちゃんとウィンダムへ行ったんだ。
それよりクエストの話だろう」
アザレアはローザがヒートアップして話が長くなりそうだったので早く本題に入る様に言った。
しかし、レンヴィルからの話は想定と違っていた。
「そういえば、君達は受付で緊急クエストはいつ発表されるんだと尋ねたらしいがどういう事だろう?
受付で叫ばれると他の冒険者に動揺が広がるから部屋で聞く事にした訳だが」
「惚けんじゃねえよ。
北の森からゴブリンが居なくなったのは報告しただろ?
ほぼ全滅だ。集落の惨状は報告した通り。
あの規模のゴブリンをどうにかできる化物が現れたって事だろうが。
緊急クエストを出して周りの町からも冒険者を集めて早めに討伐しないと下手したら国が滅ぶぞ?」
アザレアの言葉に、レンヴィルはキョトンとした顔でローザとアザレア、2人の顔を交互に見た。
2人を案内した後、お茶を持って来た受付嬢のケリアは話の食い違いに気づいて、つい口を挟んでしまった。
「お二人はケイトさんから北の森のゴブリンを全滅させた話を聞いていないのでしょうか?」
「な…」
今度はローザとアザレアの2人が言葉を失った。
レンヴィルはその反応でなるほどと食い違う話を理解した様だった。
「そうか。君達はケイト君がゴブリン達を全滅させた事を聞いていなかったのか」
レンヴィルの言葉をローザとアザレアは慌てて否定する
「彼がそんな事できるわけないでしょう」
「そうだ。 ゴブリンが打った矢に反応できないやつだぞ?」
「事実だ。彼はゴブリンを全滅させる所か、私に気づかせないまま致命傷を与えることもできる程の実力者。
そもそも貴女達にしてもらったクエストはゴブリン全滅の真偽を確かめる物だったのだから」
この会話を皮切りに、ギルド側とローザ達との認識の違いを話し合う事になる。
しかし結局の所、ゴブリンを全滅させ、元ランクAの冒険者であるレンヴィルに勝る実力を持ちながら、ゴブリンの気配にすら気づけずに弓矢で死にかけると言うチグハグな人物像が出来上がって混乱は続くばかり。
そして、ケイトがウィンダムへ向かったのは冒険者活動の為ではなく、学校へ通うためという事をレンヴィルは理解した。
自分の喉元に刃を突き立てた人物が学校に通う?
疑問符を浮かべながらも、特殊な人物が向かう事を向こうのギルドマスターに伝えておこうとレンヴィルは思った。
この後、ケイトの話と一緒に教育の話で盛り上がり、それが後にこの街から始まる国営の学校では無い教習所と言うギルド運営の小規模な教育方法が、駆け出し初級冒険者達の死亡率の減少と冒険者の質の向上をさせる大きな成果を上げるのだが、話題の発端となった1人の少年はその話を知る事は多分ないだろう。
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