第6話転機

ケイトは、急いで服を新調してギルドへと向かっている道中である。

待たせているので申し訳ないのだが、ケイトは店を数軒はしごして選んでしまった。

移動中、時を止めている事で許して欲しい。


そもそも、着られればなんでも。


転移前にはそう思っていたケイトだったが、異世界人日本人であるケイトが転移前に着ていたレベルの着心地を求めると、こちらでは結構な品質の服になる。

それを、はじめに入った店で実感した。

チクチクして、着心地の悪い服しか置いてなかった。

チクチクが気になってる間に隙をつかれた。

なんてのは洒落にならない。なので気にならない程度の服を選ぶのに数軒はしごするしか無かったのだ。

冒険者ギルドに着くと、アザレアは驚いた顔をした。


「早いじゃないか。それならこれは必要なかったかもな」


そう言ってアザレアが渡して来たのはバケットのサンドイッチだった。


「これならクエストに向かいながら齧れるからな」


気を遣ってくれた様だ。昨日は感じ悪く感じる部分もあったけど、意外といい人?

ケイトの考えを察したのか、アザレアの隣にいたローザがニヤニヤとアザレアを見ており、アザレアは「腹が減ったのが理由で邪魔になったら嫌だからな」と憎まれ口をたたいていた。


うん、いい人なんだろうな。言葉がきついだけで。


「さて、そろそろクエストの話をしようか。

クエストは朝のうちに見繕っておいたぞ。

早く確保しないといいクエストは無くなってしまうからな。

君の実力を見ながら結構稼げるクエストを選んでおいた」


「クエストは北の森の現状確認だ。

北の森はゴブリンの巣だからな。私達が間引いてやるからゴブリン一体と戦ってみろ。一体なら難易度はだいぶ下がるしそれくらいやれないと護衛クエストに連れていくのは無理だ」


「え?」


ケイトはアザレアの説明につい声が出てしまった。しかし、アザレアは勘違いして話を続ける。


「なんだ、 ゴブリンにビビったのか?

北の森のゴブリンはこの辺りじゃ中級の魔物だが、さっき言った通り一体に間引きすれば難易度は下がる。

私達おれら2人なら北の森は余裕だし、そのフォローがあってゴブリンを狩れないようじゃ護衛クエストでは足手纏いにすらならない。粗方は私達が対処してやるから安心しな」


アザレアの言う事はもっともなのだろうが、ケイトの疑問は北の森のゴブリンがどれくらい居るのかと言う事だった。

昨日ケイトがゴブリンを大量虐殺したのだが、昨日の今日でそこまで増えるのだろうか?

確かにゴブリンは繁殖力が強いイメージはある。だから北の森は危険だと門番は注意してるのかもしれないな。

ケイトはそうなっとくした。

ゴブリンなら昨日倒した。と言いたい所だが、それを2人に行った所ではいそうですかとはならないだろう。

そうなると、倒す所を見せれば納得してもらえる。更にクエストで報酬が入るなら一石二鳥だ。

ケイトが了承すると、3人は北の森へと向かうのだった。





「ローザ、これはおかしい」


「ゴブリン達が、いない?」


ローザとアザレアがそう反応するほど、北の森はいつもと違っていた。

北の森とは入り口付近からゴブリン達が闊歩しており、奥に進むにつれてレベルが高いゴブリンが現れる。

ゴブリン達は森の中に集落を築き、森に入り込んだ冒険者や魔物などを標的にして集団でおそいかかってくる。

集落を丸ごと掃討するにはランクB以上のパーティ又はランクDパーティが十組以上必要と予測され、討伐未定。

ゴブリン達の暴走スタンピートを防ぐ為にゴブリンの討伐が常時クエストとして冒険者ギルドに張り出されている。

と言うのが2人の認識だった。


しかし、今日の森にはゴブリンの姿はなく、それどころか森のあちこちに血が飛んだ後があり、奥に進んで集落の様な建物が作られている場所では血の海が乾いた様な異様な光景だった。


ローザとアザレアはその光景に息を飲み、周囲を警戒した。

そのただならぬ雰囲気に、ごく一般人であるケイトは口を挟める度胸はなく、2人の後についていくしかなかった。


「アザレア…」


「ああ、すぐにギルドへ報告だ。

この森にはやばい奴がいる。ゴブリン達を潰した何かがいる…」


森の異常さに2人はそう結論づけた。

この惨状を見れば大体の冒険者はそう結論づけるだろう。

ギルドに報告して今後の対応を仰ぐ必要がある。

慌てる2人に、勇気を出してケイトが口を挟もうとした時だった。

ローザと話しているアザレアが急にケイトに向けて右ストレートを繰り出したのである。


いきなりの事に、ケイトは時を止める事が出来なかった。


「どんな状況でも気を散らすんじゃねえ」


しかし、アザレアの拳はケイトに当たることはなく、ケイトの顔の横で矢を受け止めていた。


「混乱するのは分かるが、それは命に関わるぜ。 いつでも周りに気を配っておくんだ」


目の前に居たはずなローザも矢が飛んできたであろう方向からゴブリンの死体を引きずってくる。

ケイトはこの集落の惨状よりも、今、ゴブリンの弓によって死にかけた事実に頭がついていかずに混乱していた。

この惨状の犯人はケイトである。

先程まではこの集落を潰したのは自分だと話すつもりでいた。

それに対して、アザレアの動きに対して反応できなかった時を止められなかった事、そして隠れていたゴブリンに気づかず、アザレアが矢を止めなければケイトは死んでいた。

時魔法と言うチート魔法を持っていようと、使っていない時の自分はただの平凡な一般人で、欠点が露呈した瞬間だった。

昨日ゴブリンを大量虐殺して調子にのって伸びた鼻をおられた気分だった。

死の危機を肌で感じ、腰が抜けてしまいそうになるのを必死で堪えて2人について帰路を歩む。

意気消沈したケイトは結局、2人に北の森の真実を伝えずにいた。

浮かんでくるのは、マイナスな考えばかりだった。

時を止める前に攻撃を受ければ当然ダメージを負う。最悪待つのは死である。

レベルが上がったと言ってもステータスに変化は無く、村人ステータスのままだ。

アザレアの様に気配を察知して対処出来ればいいのだが、日本人にそんな能力はない。


マイナス方面に考え始めると他にも色々考えてしまうもので、冒険者らしく旅をするといきがっていたがそんな事できるのだろうか?

現実は、チート魔法を持っていようとライトノベルの様に最強ではなく、死の危険が付きまとう。そんな危険な世界を、冒険なんて無謀では無いのか。など、不安になることばかり考えてしまう。


冒険者ギルドに戻って来て、ローザがクエストの報告に行くとアザレアが話しかけてきた。


「おい、落ち込んでばかりいても仕方ねえだろ。

今はあの矢で死ななかったのを喜びな。命あっての物種だからな。

それとな、多分だが私達オレらは護衛クエストをキャンセルする事になる」


「え?」


「北の森で暴れた大物が町に出てきて緊急クエストがくる可能性があるからな、それを狙う。 お前はやめとけよ、死ぬだけだ」


クエストに出かける前は時を止めてゴブリンを先に倒して見返してやろうと考えていたケイトだったが、結果は自惚を自覚させられた。


「ランクが上がって嬉しかったのは分かるけどな。

お前、気配も読めないだろ? それができないとどれだけ強くなっても奇襲で死んじまう可能性が高くなる」


アザレアがアドバイスをくれるのを不思議に思った。今まで、邪険にされてきたからだ。


「んだよ、その顔は。

オレがこんな事言うのが可笑しいって顔してんな。まぁお前には厳しく言ったからな。

オレはローザみたいに新人を育てるのはオレ達のリスクになると思っているからな。

だけど関わっちまえばまた別だ。そいつが死ぬのは夢見が悪い。だから助言くらいくれてやるさ」


アザレアは優しい笑みを浮かべ話を続ける。


「お前、剣術のスキルとか持ってないだろ。 今日ので大体分かる。

なら、学校に行ってみたらどうだ?」


「学校か…」


「ああ、剣術や槍術、弓術なんかの後天的に覚える事の出来るスキルの習得やその他にも色々と教えてくれる施設さ」


アザレアの話では後天的にスキルを覚える事もできる様だ。城から追い出されたので、無理なのかもと思っていたが、そうではないようだ。


「ただ学校はこの国にはないからな。

あるのは五大大国だけだ。

ここから一番近いのはウィンダム王国だな。駅馬車なら金はかかるがまだ安全だろうさ。

冒険者を続けるなら行ってみるといい」


ローザがクエスト報告から帰ってきた。

何の話をしていたか聞いたローザからも助言をもらった。

ローザも学校には賛成だそうだ。

もっと戦える物だと思っていたと言われたのはショックだったが、仕方がない事だと思う。


次の目標ができた。この世界を死なずに楽しむ為の目標。

ローザによると学校は1月から始まるらしい。

この世界は25日13ヶ月を一年として今は10月の様だ。これを聞いた時も、学がないと2人にはわらわれてしまった。

その辺りの常識も学校で習えるといいな。

とりあえず1月までに5大国のどこかに行って学校へ入る手続きをしよう。

入学試験があるのかもわからない為、ギリギリは避けたい。


明日から早速行動に起こそうと、今日は早く寝る事にして宿に向かった。

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