第5話酒場での誘い

ギルドカタグの更新を待つ間の時間で飯でも食べようかと酒場までやって来たのだが、ケイトはお金を持っていない事に気づいた。


「あれ、ない?」


もらった銀貨が入った袋がない。

無くした経緯を思い返してみれば、多分気絶している間に奪われたのだろう。アイツ、ガラ悪かったし。

そして、酒場に来たのは良いものの、日本人の生活や常識的に、この血塗れの服で酒場食事処には入りづらく、酒場の前で途方にくれていた。

金も無いので酒場に入らず、受付の近くの待合席にでも行って時間を潰そうと背を向けた時に、後ろから声がかけられた。


「おいガキ、飯は食ってかねーのか?」


その声に振り向くと、骨付き肉を頬張りながらながらこちらを見る少女、アザレアがいた。


「えっと、そう思ったんだけどギルドタグを預けててね、こんな服装だし諦めた所だよ」


ケイトはそう話しながら自分の血塗れの服を引っ張って見せた。

一文無しだと言わなかったのは男としての意地である。

ギルドタグさえ帰って来ればゴブリンの報酬が入ってくる為、食べるくらいはあるはずだから嘘は言ってない。


「ふーん」


アザレアは、話しかけたくせにケイトの言葉に興味無さげに肉に齧りついた。


「アザレアから話しかけるなんて珍しいじゃないか」


「んなんじゃねーよ。ローザ、飲み物」


ローザが持ってきた飲み物を受け取り、ゴクゴクと飲んでいく。

途中でケイトの方をチラッと見たような気がするのは気のせいだろうか?


「自己紹介がまだだったね。私の名前はローザ、この子はアザレアだ。 君もご飯かい?」


「金がねーんだと」


「さっき受付に報告をしに行かなかったかい?」


アザレアの言葉に疑問を感じたローザはケイトに質問した。


「今、ギルドタグを受付に預けてまして」


ケイトの言葉に納得したローザが苦笑うでケイトに提案をした。


「預けてあるという事は昇級かい?

次からはギルドタグを預ける時は少しお金を引き出しておくといい。

せっかくだから今回は昇級祝いに私達が奢ろう」


「いや、でも俺こんなだし」


ケイトはローザの誘いを自分の血塗れの服を引っ張って断ろうとした。


「チッ、んなのここじゃ誰も気にしやしねーよ。

ローザが気を利かせてんだ。遠慮せずこっち来な」


ケイトの言葉に、アザレアは椅子を引きながらケイトをよんだ。


「アザレアがそう言うなんて珍しいじゃないか」


「物欲しそうな顔でこっちを見られてたら食欲も失せんだろ? ほら、食えよ」


誘われるままにケイトはローザ達と同じテーブルに座り、アザレアが食べていたのと同じ肉に齧り付いた。


「うまいな…」


無意識に声が漏れた。考えてみれば寝坊した為に朝から何も食べていない。

時を止めている時間もケイトの時間だけは動いている為、腹は減るだろう。

空腹を感じなかったのは急に異世界に来た為に気が張っていたのかもしれない。


「ところでケイト君、君はこの町を拠点にするのかな?」


俺が肉を必死に頬張る中でローザがそう聞いてきた。


「いえ、冒険者として世界を周ろうかと」


「そうか。ならこの町を出るまで私達とクエストを受けないか? 」


「またお節介かよローザ。コイツに私達が受けるクエストは難易度的に無理だ。私はこいつの為にランクを落とすつもりはないぞ」


ケイトを誘うローザとは違い、アザレアは反対のようだ。


「まだケイト君のランクも知らないだろうに」


「準備もせずにギルドタグを預けるヤツは新人だろうよ。だろ?」


「うん。Hランク」


「なら昇級してGランクだ。ローザ、やめとけ。おんぶに抱っこじゃこいつの為にならない」


アザレアの言葉はきついが、ケイトの事を考えての発言だとわかる。


「この返り血は無理をした証拠だろう。少し面倒を見るのもいいんじゃないか?少しの間だけさ。

ケイト、 私達は3日後から護衛クエストを受ける事になっている。

将来この町を出るつもりなら他の町まで商人を護衛するこのクエストは勉強になる。どうだ?」


「そのクエストやらせて下さい」


ケイトはローザの提案を受ける事にした。

ローザが言う様に、これから旅をするにもいい経験になると思う。

時を止めている間に戦えばモンスターも怖くわないが、どれだけ維持できるかまだ不明だ。

それに、この世界の事が何もわからない以上、ローザの様な存在は案内役として頼りになる事だろう。

それに、少しアザレアを見返してやりたいという気持ちもある。


アザレアはまだ納得していない様で会ったが、ローザも、実力を把握していないままいきなり護衛クエストでは依頼主を危険に晒すと分かっているので、明日、アザレアが選んだクエストで一緒に護衛クエストを受けて面倒を見る価値があるかテストする事でアザレアを納得させた。


「私達が受ける依頼はGランクだと大変だからな。気合い入れてこいよ」


そうして明日の朝に冒険者ギルドで待ち合わせの約束した。


その後は食事を終えて、奢ってもらったお礼を言って受付へと向かう。

結構時間はたったし、冒険者タグの更新が終わっているといいのだが。



そんな心配は杞憂で、受付ではリーアが既に待っていた。

そして更新されたタグを受け取る。


「これでケイトさんは初心者卒業ですね。

こんな速さは想像していませんでした。

私のサポートもこれまで。と言っても何もしていませんね。

勿論、冒険者ギルドのサポートが受けられなくなる訳ではないのでこれからも何かあればご相談下さい」


俺はタグを受け取り、説明された通りにタグ内の残高を確認する。

タグの上空にステータスと同じ様に所持金が表示される


上級金貨2枚と上級銀貨5枚


この金額がどのくらいかは分からないが、さっきローザ達が払っていた金額を見るに相当な金額だ。

先程見た会計には上の文字は無かった。

リーアの方を見るが、笑みを返されるので聞くに聞けなかった。


とりあえず、冒険者ギルドを出て宿屋を探す。

冒険者が宿まる為か、冒険者ギルドの側に何件かあった。

とりあえず1番外観がいい所に入った。

金はある。ならいい所に泊まりたい。

中学生の見た目で大丈夫かと思ったが、冒険者タグで宿泊料を前払いすれば何も問題は無かった。血塗れについても、冒険者がよく泊まるのかして大丈夫であった。


この世界では、風呂などの設備は貴族達の贅沢品の様で、一般的には水が入った桶とタオルを貰い体を拭くだけの様だ。

この宿は料金をプラスすればお湯にできたので、お湯に変更してもらい、部屋に持って上がった。

本当は頭からシャワーを浴びたい所だが、今のケイトには体を拭いて血と汗を拭うだけでもとても気持ち良かった。

疲れが相当溜まっていた様で、体を拭った後はベットに倒れ込む様に眠りについた。




そして翌日、目を覚ましたケイトは後悔した。

体を拭ってさっぱりした後、そのまま裸で寝たわけだが、手持ちの服は血塗れの服しかない。

待ち合わせは早朝な為、もう時間はあまり無く、買いに行く暇などもない。


とりあえず時を止めた。


慌てて血塗れの服を冷め切った水が入った桶でジャブジャブと洗うが、染みついたゴブリンの血はあまり取れなかった。


それでも洗った見た目洗った感じは出た為、仕方なく湿った服を着て待ち合わせに向かった。


待ち合わせに辿り着くと、ローザとアザレアの2人は苦笑いでケイトを出迎えた。

初心者冒険者と言えど、湿った服で来るとは流石に思わなかったのだろう。

見かねた2人に言われて、クエストは昼からと言う事にして、服を買ってくる様に言われてしまった。


クエストでなんとか挽回しなければ。


そう思いながらケイトは慌てて服を買いに走った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る