第3話はじめての戦闘

冒険者ギルドを裏口から出してもらった為、追加のトラブルにあうという事はなく、教えてもらった1番近い門の辺りまでやってきた。


城下町なだけあって活気に溢れており、大人から子供まで色々な人が道を歩き、門の前でも馬車や徒歩の人々が列を作って検査を受けている。


ケイトがすぐに外へ出て行かずに門の近くで足を止めたのは、一度このチート魔法がどの様な物か試すた為であった。


ケイトの村人の様なステータスでは、外に出てすぐにモンスターに出会い、戦闘などしたこともないケイトがテンパって魔法の発動さえできずに、それどころかどう発動するのか分からずにモンスターにやられて死ぬ。なんて事は容易に想像できる。


そうならない為の準備は必要である。


流石に名前だけでチート魔法と言ってはいるが、効果は想像でしかない。


なので想像と違う魔法を大通りでいきなりぶっ放して逮捕と言うのは避ける為に、人気の無い裏路地へと入った。


さて、どうやって魔法を発動するのだろうか?


ケイトはすぐに城を追い出されてしまった為に魔法の発動の仕方など教えてもらっていないし、時魔法の説明欄には詠唱の様なものは無いし、もちろん神様にも聞いてない。


「うーん、やっぱり王道なのはまず目をつぶって魔力を感じ取るとかかな?」


ケイトは近くの建物の壁に背中を預けて目を閉じた。


良く読んだライトノベル等の魔法が書かれた作品に書かれていた様な、体を血液の様に巡る魔力を探していく。


……全くわからん!


当たり前だが、血液が流れているのもよく分からない。心臓に手を当てれば鼓動を感じ取れるくらいである。


本の様に、どこか温かい感じとか、暗い中でやんわりと光るなどは全く感じられない。


いつも寝る時に目を瞑った時と変わらない。なんでもない普通の感覚だった。


目を閉じたままで、手を合掌のポーズでその手の円を魔力が循環するイメージをしてみたり、その手のひらに握り拳程度の空間を空けて、その空間に力を集中してみたりもした。



結果、何も起こりはしないし、感じる事もない。



止まれ! とか思うだけで時が止まるわけないよな。


そう思った瞬間、周りが妙に静かになった気がして、閉じていた目を開けた。


目を開けると、そこは自分以外の全てが止まった世界。


裏路地で、足元を走るネズミは走った状態のまま行動を止めている。


慌てて、表まで移動すると、走っている馬車は馬の動き事その場で停止し、歩いてる人は踏み出して片足を上げたままの状態で停止。


話している人は口を開けたまま、飛び立とうとした鳥は羽ばたく瞬間のまま止まっている。


音も風も、何もかもが止まった世界。


その中で、ケイトだけが動いていた。


「いや、できるのかよ!」


その時の止まった世界を見て、ケイトは大声でにツッコミを入れるが、もちろん返ってくる反応はない。


ケイトが『動け』と思うだけで、今度は何事もなかった様に世界は動き出し、また『止まれ』と思うとまた世界は停止する。


「先ずはどのくらいの事ができるのか確認しないとな」


自分が時間の止まった世界にあたえる影響によってどれ位この魔法がチートなのかが変わる。


止まった世界で物を動かすなど影響を与える事ができる魔法なのか、それとも動かすことすらできない様な時間を止めるだけの魔法かでは天と地ほどの差がある。


時魔法を使った感覚、疲れた様な感覚もなく、連続で何回も使える様だ。


その辺の石を、まずは手で持ってみる。


持ち上げる事ができる。これは期待が膨らんでいく。


次にその石を壁に向かって思いっきり投げる。

石は俺の手を離れると1メートルくらい進んで停止した。


自分が手を離して1メートル位が動かせる範囲か?


次は生物。


空中で止まった鳥に触れてみる。


しかし、鳥の時が動き出す様な事はおこらず、掴んで少し離れた場所まで持っていき、手を離しても離した場所で前と変わらず空中で停止していた。


お次は風になびく髪を押さえる女性に軽くチョップするが、当然何も起こらない。


最後に、馬車の扉を開けて中を見ると、貴族か商人と思われる豪華な服を着た男性がりんごを齧っていた。


追い出された時を思い出し、怒りが沸々と湧き上がるが、今手を出したら負けである。


何事も無かったようにそっと扉を閉めた。


これだけ長い時間、時を止めても倦怠感などはない。


それだけケイトのMP/Sと言うのは凄いのだろう。涙が出そうになるが。


その後、時を止めたまま街を一通り見て回ったが、途中で魔法が解けるという事はない。


自分の意思で解かないと解けないのだろうなと推測する事ができた。


元の場所に戻り、時を動かす。


鳥は移動させた位置から青空へと飛び立ち、馬車は何事も無くは通り過ぎる。


石は投げた勢いのまま壁に当たって割れて、女性は驚いた様子で辺りをキョロキョロとみている。



実験は大成功。



この時魔法さえあればモンスターも怖くないし安心して狩にも行けるだろう。


停止した世界でモンスターを倒せばレベルを上げることもできるだろうし、モンスターの素材を売ればお金も稼げる。


勿論、時が止まっていればモンスターの横で堂々と薬草採取もできる。


時が止まれば自分は無敵!だから異世界の冒険にも出られる。そう、物語の様に。


俺はニヤリと口角が上がるのを抑えつつ、外へ出る為に門へと向かう。


門番の兵士に、冒険者タグを見せて外へと出る。


これをしなければ流石に街から出た記録が無いのに討伐や採取をして来た事になってしまう。それでは不正を疑われるだろうし、そうなった場合に何も言い返せない。


門番はの兵士は、冒険者タグのランクを見て「北の森にはモンスターが多いからDランク以上じゃないと死ぬぞ」と忠告をしてくれた。


なかなか親切な兵士さんだった。


しかし、忠告は無視である。それどころかその忠告を聞いたからこそ、行き先は北の森に決まった。


ケイトは『止まれ』と念じて魔法を発動する。


そして時の止まった世界で北の森へ向けて歩き出した。



北の森だから北だろうと思って北に向けて歩き続けると、森が生い茂っていた。


ここが北の森だろう。


森に入ると、確かにモンスターが多い。

森の中をしばらく歩いて見て回ったが、森の中には緑色の体で、小鬼の様なゲームで見るゴブリンであろう見た目のモンスターが単独、グループ問わず歩き回っていたのだろう姿を結構見かけた。勿論、歩き回っていたであろうとは止まっている為、止まった動きから想像しただけである。


もしかしたら森の中にはゴブリンが集落を作っているかもしれないが、まだ発見はしていない。


とりあえずは目の前のゴブリンを鑑定してステータスを覗く。


ゴブリン LV12


HP/D

MP/F


物攻/E

魔攻/H

物防/E

魔防/E

運/G


称号


スキル



すこし拍子抜けした。自分とよく似た村人ステータスだった。


多分、時の止まった世界でなければこの村人ステータスのゴブリンが所狭しと闊歩していると言う事で、ゴブリン同士連携が取れるのかは分からないが、数の暴力でステータスの低い冒険者はやられてしまうと言う事だろう。


そして、少し離れた場所では武器を持った個体も見かけた。


もしかしたらそちらは普通よりも強いのかもしれない。


そう予測して武器を持ったゴブリンを鑑定するが、目立った差は感じなかった。


ゲームでは無いのだから決まったモンスターがエンカウントするわけでは無い。


とすれば少しの知能があれば、殺した冒険者の持っていた武器を見様見真似で振り回しているだけかも知れないな。


色々と考えながらゴブリンの持っていたの剣を奪った。


「ハハッ」


奪った剣をまじまじと見て、思わず笑ってしまった。


剣を持つなんて事は日本にいれば一生無かっただろう。


奪った剣は勿論手入れなどされておらず、刃こぼれが酷かったが、そんな事は気分が高揚したケイトには関係なかった。


剣を奪ったゴブリンを奪った剣で袈裟斬りに切ってみる。


ゴブリンのステータスを今一度鑑定するも、特に変化はなかった。


その後、一撃与える毎に鑑定すると、レベル表示の横に死亡と表示された。


どうやら、死亡すると、ステータス異常の様に表示されるようである。




「やりすぎた」


一体目のゴブリンを倒した後は、物語の様にモンスターを倒すと言う行為に興奮して手当たり次第狩りまくった。


結果、途中で見つけた集落を壊滅させてしまった。


正確には集落の中に居たゴブリンは全滅させた。


「でも、誰かに迷惑をかけるわけじゃ無いしな」


そう考えて、自分がした事の結果を見る為に一度時を動かした。


時を動かした瞬間、周りに居たゴブリン達は一斉に血を吹き出して、絶命の声を上げぬままに倒れた。


そして、血に塗れた空間の中でケイトは嘔吐した。


「これは結構くるものがあるな…」


胃の中の物を全て吐き出した後でケイトはそう呟いた。


時を止めている間にモンスターを切って周るのは、血も出ない為ゲーム感覚だった。


しかし、時を動かして現実に血を吹き出して死ぬのを見るのは、ゴブリンが人型と言うのもあって気持ち悪くなってしまった。


しかしこの世界を満喫するならこの惨状も、血の匂いにも慣れないといけない。



と、そんな事を思っていた事もありました。


回数をこなしていく内、結構すぐに慣れました。


まぁ、血の海の中を素材回収すればね、慣れますわ。


どの辺りが売れるのかもわからない為、ゴブリンが持っていた武器が7つはとりあえず持って帰る。


そして、合っているかわからないけど定番のゴブリンの耳を持って帰る為に切り取って収納インベントリに入れて行った。


中学生に若返ったと言ってもこれだけ森を歩き回り、慣れない剣を振えば疲れはたまる。


疲れたのを理由に、町に帰って素材を売る為に冒険者ギルドへ向かう事にする。


道中にステータスを確認したらレベルが上がっていた。

あれだけ大量のゴブリンを倒せば当然なのだろうけど。


ちなみに、レベルは12まで上がっていたが、ステータスのアルファベットに変化は無かった。




時を動かして町へ戻ると、門の前で門番の兵士が慌てて駆け寄って来た。


「君、大丈夫か!」


「へ?」


間抜けな声を上げたケイトの様子に、門番の兵士は胸を撫で下ろした。


「怪我とかではないみたいだな。君、その血はどうしたんだい?」


「えっと、コレはゴブリンを倒した時の血ですね」


心なしか、門番の兵士の口調が優しくなったのはケイトの見た目が中学生だからだろうか?


門番の兵士はケイトの言葉に驚いた様子で話し始めた。


「ゴブリンって事は、北の森に入ったのかい? ランクHで? それは無謀な行動だ。出て行く時に注意しただろう? 今回は無事に帰って来れて良かった。次は無いと思いなさい、 蛮勇は身を滅ぼす。街道付近でウルフを狩りながらレベルを上げて、しっかりと冒険者ランクを上げて、パーティを組んで。安全を確保してから北の森へ行くんだ。いいね?」


門番の兵士必死な物言いに、ケイトは頷くしかなかった。


ケイトが頷いたのを見て「よし」といって門番の兵士は持ち場へと戻って行く。


良い人だな。ケイトは時魔法の事を誰かに言うつまりは無い為、苦笑しながら門番の兵士の検査を受けて門を潜った。


そして、予定通り冒険者ギルドへとむかうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る